16匹目:叶わぬ初恋にほろ苦いオランジェットと余計なアドバイスを添えて 6
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ぽちゃぽちゃと紅茶にどんどん角砂糖を投入して、ティースプーンをくるくると回した。カラフルで可愛い角砂糖がほろほろと崩れていくのを見つめながら、思考も全力で回転させた。
ジェマは幼いころからよく、悪戯をしては魔力の扱いを教えてくれたおばあちゃんに頭やお尻を引っぱたかれていた。理詰めでなぜやってはいけないのかと説かれることもあったが、ジェマは好奇心と興味本位で気軽にとんでもない悪戯をすると定評があった。なのでとりあえず一発引っぱたかれていた。
音は良かったが、別に痛くも痒くもない。
おばあちゃん先生のお尻ぺんぺんやシリルに顔面を鷲掴みにされた時の方が痛かったし、本当になんとも思っていないのに。
普段のじゃれ合いと説教の延長戦としか捉えていなかった被害者がちゃんと反省してしまったために、フォローするタイミングすらも見失った。
なんでもないような顔をして甘ったるくなった紅茶を啜る。誰かが「え」と声を上げたが気にしている余裕はなかった。
残っていたミルクプリンを口に入れ、こてりと首を傾げる。
「あ、あなたねぇっ。ちょっとやりすぎちゃったって気にしてたのに!」
「あ、やっぱり? いやでもそんなにクロエがダメージ受けることじゃないよ。別に痛くないし。たぶん7:3くらいでわたしが悪いし」
「何言ってんのよ。9:1であなたが悪いに決まってるでしょ」
「うん、ごめんね」
いつもの皮肉が聞けてほっと胸を撫で下ろした。
ふにゃりと笑って紅茶を一口。カップは変えていないはずなのに、紅茶がものすごく甘くてしぴぴっと体を震わせた。
クロエたちが来る前まではシュガーポットすら出さずにいたほどダイエットに気を回していたことすらすっかり忘れて、つい癖のように砂糖を追加してしまったことを思い出す。
もうここにお湯を追加しても砂糖の総量は変わらない。まぁいいかと飲み干してから、新しいカップを取り出した。
「……その、わたくしも頭を叩くのはやり過ぎたわ。ごめんなさい」
珍しくしおらしいクロエは、髪を耳にかけながらそわそわしている。カップを置いて抱き着き、ぽんぽんとクロエの背中を摩った。
「これでよし」
最後にぺしんと強めに叩き、クロエから離れて紅茶を淹れる。
鼻歌まで歌いながら茶葉を吟味し始めたジェマに、クリスティーナがころころと笑う。
存外普段からほのほのしているクリスティーナが1番ジェマのノリに付いてくる。根が真面目なクロエとアンジェリカは、突拍子も意味もないジェマのマイペースな行動に対しては反応が遅れる。
まぁフランツも大概気分屋だからなと納得して、カップを差し出してきたクリスティーナの分も用意する。
「あぁもう! あなたねぇ! 本当にもう! おばか!!」
そう叫んで、残った紅茶を一気飲みしたクロエは、そのままの勢いで空のカップを突き出した。
「おかわり!!」
「はぁい」
アンジェリカもちょうど飲み終えてくれたので、結局全員分の紅茶を淹れた。
一応お茶会の主催者として、この空気はちゃんと払拭しなければならない。気合を入れて秘密の部屋に手を突っ込んだ。
猫モチーフの装飾がされたピンク色の可愛いティーセットに、ピンク味の強い紅茶を注ぐ。甘酸っぱい花を使用したフレーバーティーで、ストレートで飲んでも仄かな甘みがあり、砂糖もミルクもいらない。
カラフルな花の砂糖漬けが入った可愛い小瓶を並べ、ついでに頂き物の小さな猫のぬいぐるみたちも添える。
「あらこれジェマの花の紅茶?」
「そう。みんなくれるの」
「まぁ定番よねぇ。ジェマちゃんの名前の由来でしょう?」
ジェマの髪色によく似たこのピンク色の花は、甘酸っぱいフルーツのような香りと味で、様々な用途で広く使用されているためよく見る花だ。小さくて可愛くモチーフとしても人気で、何も指定せず「花を描いて」と言えば10人中7人はこういう花を描くよねという見た目をしている。
この花のように広く愛されるようにと名付けられたジェマは、地元では逆に避けられることの方が多かったので少し申し訳なく思っていた。
学園に来てからは、窮屈な思いをすることもあるけれど、同じくらい多くの人に囲まれている。
秘密の部屋内に専用スペースを確保して飾っているジェマの花のアレンジメントまで引っ張り出して机を飾りつけて、ジェマは無い胸を張った。
「まぁ、ジェマの花だけでこんなに色んな種類があるものなのね。一足早く春が来たみたいで可愛いわねぇ」
「ピンク色のブランケットとクッションもたくさんありますよ」
「せっかくだから全部変えちゃいましょうか」
若い女の子らしくきゃっきゃとはしゃぎながら東屋をピンク色に染め上げる。珍しく明るい雰囲気に包まれた曰く付きの東屋で、満足げな猫はまたクロエの膝掛けに潜り込んだ。




