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27匹目:ラストダンスはお菓子を食べながら見守る所存 6





「とりあえず! なんかよくわかんないけど停学にすらならなかったし、一応言いに来ただけだから!」



相も変わらず人の話も聞かずに言いたいことだけ言って、リリアンは去っていった。


詳しい情報はそのうちクロエが仕入れてくるだろう。どうしても知りたいわけでもなし、あとで聞けば良いやと頭を切り替えてキッシュをよそった。



「少し良いだろうか」



ルシアンの待つテーブルに戻るとすぐに、大きな影が落ちてきた。煩わしいことはすべて忘れて美味しく食べようと意気込んで口を大きく開けたまま、制服の男子生徒を見上げる。


制服の上からでもわかる鍛え上げられた体は大きいが、なぜか少し縮こまっているようだった。話しにくいことでもあるのだろうか。ルシアンではなくジェマの方をじっと見つめているのもおかしさを助長していた。


ジェマがどうぞと短く返すと、ルシアンが皿を手に立ち上がった。おかわりを取って来ると言ってさっさといなくなる。


代わりに前の席に腰を下ろしたベルノルトは、やはりどこかそわそわしていた。



「……邪魔をしてしまって申し訳ない。ルシアンも君と踊ることを楽しみにしていたのだが」


「いえ。今日は後見人から踊らないようにと言いつけられておりますので、どのみち踊りはしません」


「そうだったか。まぁ君が男と踊ったら結構な騒ぎになるだろうからな」



そういう噂に疎そうなベルノルトですらそう言うのであればそうなのだろうなと眉を顰めて、ジェマは返答の代わりにプリンを呑んだ。


不機嫌に揺れる尻尾を見遣って、ベルノルトがくすりと笑う。



「いやすまない。悪い意味での注目ではないだろうが、一挙手一投足を注目されることを好まない人もいるだろうな。エリオット様もアンジェリカ様も、もうその程度では気にされないが」



周囲の噂も先ほどはクリスティーナとフランツ一色だったが、話題はもうアンジェリカとエリオットに戻っていた。


今年入学したばかりのジェマたち1年生が「婚約者同士で踊ってるだけでは?」ときょとんとしている一方で、特に5年生たちの衝撃はかなり強かったらしい。なにせもう5年も仲の悪いところばかりを見せられてきたのだ。いきなりあんな幸せそうな顔をされたら困惑もするだろう。


去年までは1曲だけを義務的に踊るだけだったらしいと聞いたのに、今日はくるくるとずっと踊り続けている。0か100かしか無いのだろうか。



ベルノルトも苦笑を零す。彼もこれまで散々振り回されてきたに違いない。ジェマは手元のプリンをじっと見つめながら、たっぷりと大きく掬いとった。



「今日は礼を言いたくて来た。また手土産を持って湖に行こうかとも思ったが、冬季休暇に入ってしまうのでな。忘れないうちに言っておきたい」



そう切り出すと、ベルノルトは先日のお茶会のお陰でエリオットとアンジェリカが素直に親しくすることができるようになったと話し始めた。


あの2人が素直にいちゃこらしているところがうまく想像できなかったジェマの眉根がぎゅっと寄る。もはや普通に話せているだけで仲良くしているように見えるのではないだろうかなんてひねくれたことまで考えて、なんでもいいやとすぐに興味を失った。



「これまで誰が何を言おうとだめだった。俺ももうお2人は婚約を解消されてしまうのではないかと本気で思っていたくらいだ。何のお役にも立てず、入学してからはさらに自分のことで手一杯になってしまって見守ることしかできなかった。それを君はたった半年で仲直りさせて、お2人にあんな笑みを浮かべさせてしまったのだ。さすが【幸運の猫】の二つ名は伊達ではないな」


「いえ、べつに……」



ここまで素直に賞賛されてしまうと困ってしまう。


確かにジェマの言動のせいで仲直りのきっかけはできたかもしれないが、それ以上にハイリスクハイリターンな作戦でもあった。アンジェリカが馬鹿でなければ、あのまま別れることだって十分にあり得た。そこまで褒められることをしたわけではないのだ。


大きなキッシュを頬に詰め込んでもくもくと噛み締める。


ジェマはアンジェリカとエリオットを仲良くさせようとしたことは1度もない。逆に別れさせようとしたこともないが、ジェマの迂闊な発言のせいで婚約を解消すると言う選択肢が用意されたことも確かだ。


それで言うならば、むしろリリアンの方が役に立ったと思う。


リリアンが引っ掻き回さなければ、アンジェリカとエリオットの関係には良くも悪くも変化は訪れず、そのまま普通に結婚していただろう。お互い自分の気持ちすら自覚せずに、相手にどう思われているかもわからないまま。





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