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不穏な展開

「ごめんくださーい」


 駐在所に到着し、扉を開けると中では騎士が机に向かって何かを一心不乱に書いているところだった。


「あの、ちょっといいですか」


 俺たちに気付いていないようだったので再度声をかける。

 すると騎士はガバっと顔を上げ「今忙しいんだ! 話しかけないでくれ!」と言った。


 いつものことか……と思いかけたが、どうもかなり切羽詰まっているようだ。

 本当に忙しいのかもしれない。


「しばらく待ってよっか」


「ええ、殴るのはその後にしますわ」


「うん殴るのはやめてね」


 俺たちは一度外に出、彼の仕事がひと段落するまで待機することにした。


 少しあって、馬の蹄の音がする。

 無意識に音の方を見ると、騎士らしき人影がこちらに近付いて来ていた。


 というかあれは――。


「む、なんだ貴様らか」


「カターさん!」


 駐在所の前で止まり、馬から降りてきたその人は、以前何度かお世話になったカターさんだった。


「こんなところで何をしている」


「依頼で向かった場所でおかしなことがあったから、騎士団にも報告しておこうかと」


「なぜ入らん。先客か?」


「あ、いえ。なんだか凄く忙しそうで……」


「ほう」


 それを聞くたカターさんは、険しい顔をいっそう険しくして駐在所に入って行く。


 いくらか話し声がした後、再びカターさんが顔を出して「入れ」と俺たちを招き入れた。


「さ、先ほどはすみません。何のご用件でしたか」


 中にいた騎士は明らかにしょぼくれた様子で、今度は邪険にすることもなく対応してくれる。

 カターさんに叱られたんだな……。


 俺は魔窟で多くの強力な魔物に遭遇したことを彼に話した。

 話を聞き終わると、騎士は小さく「またか」と呟く。


「また?」


 俺とデレーは首を傾げた。


「……ふむ。私から説明しよう」


 カターさん曰く。


 昨日から何件か、「魔物が急に増えた」「魔物が強くなっている」という旨の報告が相次いでいるらしい。

 しかもその報告によると場所が第四領地、さらにこの近辺を中心に集中しているとか。


 町や村を巡回していた騎士たちが、魔物たちがどこかへ移動していくのを多数目撃したことからカターさんらは「この地域で異変が起きている可能性がある」と仮説を立てた。


 それで、カターさん自らも各駐在所を回って異変の発生源または中心地を探しているのだという。


「報告が多い場所ほど中心地に近いと考えられるのだが……」


 カターさんは山積みの報告書らしきものに目を向けた。


「見てきた中では、この辺りが最有力候補、いやほぼ確実だろうな」


 なるほど、この騎士は報告書を書くのに追われてあんなに切羽詰まっていたのか。


「他2名の騎士はどこへ?」


「ひとまず担当地域の住民に、森には近付かないよう注意喚起をしに行ってもらっています。先に隊長のところへ報告すべきかとも考えたのですが、やはり安全確保が先かと思いこのようにしました」


「良い判断だ。青髪たちが訪れた魔窟に魔物が集結していると見て間違いない。部隊長に急ぎこのことを伝え、応援を要請してくる。それまでは間違っても交戦などせぬように」


「ん?」


「なんだ青髪。気になることでも?」


「あの……魔窟ならもう制圧しました。ね、デレー」


「ええ。一匹残らず始末しましたわ」


 たぶん俺が「魔物がめちゃくちゃ多かったし強かった」としか言わなかったから、まだ制圧していないと誤解させてしまったのだろう。


 「言わなくてもわかるよね」で喋るのは良くなかったな。


「つまり何だ、貴様らは数も力も上の相手と戦ってきたということか」


 カターさんの呆れたような視線が刺さる。


「……はい」


「そうか。……ひとつ言っておくが、数段も格上の敵に遭ったらまず逃げるのが基本だ。勝つ必要があるにしても、一度退いて装備を改善するなり策を練るなりしてから再戦に挑め。貴様らは冒険者といえど一般人には違いないのだから、無茶をしてもらっては困る」


「す、すみません」


 確かに、作戦が上手くいったから良いものの、安全策をとるなら撤退しておくのが吉だったな。

 ともすればみんなが傷付いていたかもしれない。


 何も逃げるのは悪いことじゃないんだし、退くことも覚えなければ。


「まあ、魔物を一掃したことに関しては感謝する。ついては参考人として話を聞かせてもらいたいのだが、協力願えるか」


「それはもちろん。デレー、いいよね?」


「問題ありませんわ」


「よし。じきに夜だ、明日の朝にまたここへ来てくれ」


 そういうわけで、俺たちはひとまず拠点に帰ることになった。


 魔物が強くなったり一か所に集まってきたりとなんだか不穏な感じだが、原因を突き止めさえできればなんとかなるはず。


 あの感じだと騎士団もそれなりの規模で調査をするのだろうし、俺は俺にできることをしよう。

 カターさんに注意されたように、無茶は避けて、だけど。


「ただいま」


「ただいま戻りましたわ」


 拠点に戻りみんながいるであろう部屋に入る、と。


「おお、帰ったか。昨日ぶりじゃのう」


「エラ!?」


 ソファに寝っ転がってくつろぐエラがいた。


「どうしたの……っていうか、そもそも何でここがわかったの?」


「尾行した」


「尾行か~」


 そこは魔法道具じゃないんだ。


「まあ座れ。わしがこうして直々に来てやった理由を教えてやろう」


「図太いですわね」


「よせ、あまり褒めるでない」


「気を付けろフウツ。その女は思考回路が破綻している」


 ヒトギラが苦虫を嚙み潰したような表情で言った。

 おおよそ、俺たちが帰ってくるまでエラに振り回されていたのだろう。


「ふふん。わしが来たのは他でもない、おぬしらに危機を伝えるためじゃ」


「危機?」


「おうとも。まあ簡単に言えば、このままじゃと魔王が再び侵攻してくる」


「ふーん、魔王がね………………魔王!?」


 魔王って言ったら、1000年前にこの国に攻め入って来た異世界の王だ。

 戦いに敗れ去って行ったけど、魔物とかいう最悪な置き土産をしていったというあの魔王……。


 いつまた攻めてくるかわからない、と理屈では一応理解していたが、何しろ昔の話すぎて実感が湧かない。


「冗談にしては笑えませんわよ」


「む、冗談なものか。本当の本当じゃぞ」


 エラはそう考えるに至った要因を語り出した。


 話が何度か脱線していたのでまとめると、まずこの国のどこかに『魔王の器』なる者がいる、もしくは「いた」かこれから生まれるかだということをエラは知っていた。

 詳細は不明だが、その名称から魔王に成り得る存在であると推測できる。


 エラは『魔王の器』について調べていたものの、ほとんどが謎のまま。

 しかし昨日今日の魔物の異変を知り、これは『魔王の器』が関与しているのでは、と考えたらしい。

 『魔王の器』の影響で魔物が活性化……あり得ない話ではない。


 何にせよ、この異変は偶然ではなく魔界・魔王側が意図して起こしたものには違いない。

 故に、近いうちに『魔王の器』を利用して――あるいはそれを目的として――魔王たちが侵攻してくるだろう、というわけだ。


「なんだか、凄くスケールの大きい話ですね」


「ああ。杞憂で済めば良いのだが、長年培ってきた勘はなかなかどうして侮れん。確実に魔王はやって来るじゃろう」


「今いくつなんだお前」


「秘密」


 魔王が来る、と言われても、何をすればいいのかさっぱりだ。

 実際、魔王がどのくらいの力を有しているのかも見当がつかない。


「エラさんは私たちにそれを教えて、いったいどうするおつもりですの? フウツさんも推し量りかねていますわ」


「そりゃあ、あれじゃ。騎士団に伝えるのじゃよ」


「ご自分で行けば良いのでは?」


 デレーが眉をひそめる。

 それもそうだ、俺たちより先に騎士団に行った方が良いだろうに。


「無理じゃ」


「どうしてですの」


「だって……」


「だって?」


「わし、ブラックリスト入りしとるもん。騎士団に行ったところで門前払い必至!」


 なるほど、納得。


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