37話
一時間程で漸く動き出せるくらいまで体力が回復した。
明王たちはみなこの業を背負っているのだから大したものだ。殺せば殺すだけ同程度の苦痛を受け続けるなんて。少しなりとも実感してしまえばどれだけのことか。とてもよくわかる。
ドロシーはなにか聞きたそうだが今は黙ってくれているようだ。正直前世の事をごまかすくらいまで頭の回転は回復していない。
「ラウル、不潔!」
へ?
「急にキスだなんて不潔よ!。ぽっと出の女なんかとキスするなんてずるい!」
いや、あのドロシー。支離が滅裂してますよ。
こっちは前世をどうごまかすか考えていたのにキスで怒ってるのかよ。
ちょっとファムどうにかしろ。
「まあ確かに美少女だったしああいう感じのがラウルの好みだったのね。やっぱり胸なのね」
あれ?すごく冷ややかな目で睨まれてますけど。ファムさんフォローしてくれないんですか?
『旦那様、初めて呼んだ女に口づけを許されるのですから、当然普段からお仕えしている私共には濃厚なお情けを頂戴できるのでしょうか』
『ご主人様、ほかの女にうつつを抜かさないようにしっかり満足させますわ』
なんか後ろで見えない朝露とダーキニーが騒いでいるんだけど。ちょっとアンバー、フォローは?
あ、八部衆と一緒にあさってのほう向いてやがる。
なるほど、明王を呼ぶというのは大変だ。どうすんだよこの状況。
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小一時間、喧々諤々とし何とかドロシーとファムは落ち着きました。
というか確かに好みだったのは否めないけど君たちも美少女だからね。
正直、あと五年たってて今朝みたいなことがあったら我慢できないくらい可愛いんだからね
とか言っていたら落ち着きました。
何処に落ち着く要素があったのか知らんがまあいい。
ダーキニーたちは週一、朝に一回のキスで妥協させました。
こっちは強権発動。あんまりにもうるさかったのでそれだけでした。
まあ大人の階段はやはり最初はヒトがいいからね。
「さてそれはそうと、この村の状況をどう説明するかだな」
「まあありのままは言えないわねぇ」
普通に考えると村全部がいきなり一晩でいなくなるというのも無茶な言い分なんだよね。
でもこの場合はそれで通すしかないもんな。
朝露とダーキニーには呪術の痕跡、犯人の足取り等が残ってないか村に向かってもらう。
「こういうときはあまり現場を踏み荒らすのもよくないんだよなぁ」
「鑑識とかないんだからそこまで気を使わなくてもいいと思うんだけど」
とりあえずは昼過ぎまで確認をして帰路につくことにする。
ドロシーたち女子陣はさすがに気味が悪いということで先にギルドへ報告に帰らせる。
まあ紫苑とアンバーをつかせているから問題ないだろう。
村の中へは緋焔を伴っていくことにした。
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「はあ、全くどうなってるんだろ?」
村に向かっていくラウルを見送りながらつぶやく。
同じ転生者でもなんだろう?格の違いを見せつけられている気がする。
正直言ってあたしのスキルが規格外というが人のことは言えないはず。
スキルは規格外だし、人生経験からも違う気がする。
転生してからは同じとはいえその前の人生経験の面で大きく差があるのかもしれない。
前に尋ねたときは一切前世の個人情報がないといっていた。知識常識等残っていても個人を指し示す記憶が一つもないので享年はわからないななんて言っていたが、少なくとも前世大学生だったあたしと比べても全然違う大人の対応が多い。
ふと、隣にいる美少女を見る。ドロシーは心配そうにラウルを眺めている。
その目はよく知っている。前世でもよく恋愛相談役に回っていた。
見ればよくわかる恋する瞳。
ブラコンというくくりでは納まっていない感情であろう。
「ねえ、ドロシー?」
「なあに?」
こちらを振り向く。本当に美少女である。おそらくそのまま成長すればかなりの数の縁談が舞い込んでくるだろう。よりどりみどりのはずなのに。
「どうしてラウルのことがそんなに好きなの?兄弟に対してって感情じゃないわよね?」
「答えてほしい?」
真正面からこちらの目を見てくる。殺気?違うけれど威圧感のようなものを感じる。
笑顔なのに目だけ笑っていない。でも目を逸らせない。そらしちゃいけない気がする。
だから
「う・・ん」
一言しか発せなかった。
でもそれで彼女から威圧が消えた。いつも通りの人懐っこい笑顔。
「普通じゃないのはわかってるわ。双子の兄弟だものね。でもね、兄と思ったことはないの」
彼女は話し出す。楽しそうに
「最初は手のかかる弟だった。10歳の時に木から落としちゃったあとはヒトが変わったように変なことばかり。でもね、すごく優しくなったの。知らないことは教えてくれるし困ったときはいつもすぐ来てくれるし、気づいたら好きになってたの」
幸せそうだ。前世から友人の恋愛相談を受けることが多かったがまさにこんな感じ。恋する乙女だ。
「わかってるのよ血のつながった妹だということは。だからこそ一緒に居るためには実力をあげるしかないの。ラウルの夢は冒険者。だったらずっとそばに居られるくらいの実力をつけなきゃいけないの。そのためにはなんだってするって決めたんだから。」
「でも、縁談だって来るでしょう?」
「母様と姉さまにはもうお願いしているのこのままいけばラウルと一緒に冒険者になるって。」
「でも、肝心のラウルの気持ちは・・?」
「振り向かせます。今好きな子のいないラウルだからこそ振り向かせることができるはず。もし好きな子ができたら邪魔するけどね」
「なんで、そんなことまで教えてくれるの?」
「フェアに行きたいからよ」
すごくかわいく微笑みながら言う。まるで歌うように軽やかに。
「ラウルの生きる邪魔になるような女なら認めるわけにいかないわよ。でも同じように努力して。同じように好きになっている女子の邪魔まではしたくないもの」
「同じように・・?」
「あたしも以前姉さまに指摘されるまで自覚はなかったんだけどね。ファム見てたらよくわかったわ。それが人を好きになるって顔なのね」
好き・・
自覚をすれば腑に落ちる。
そうなのか、だからほかの女にキスされるとむかつくし、困っているのがわかっていたのに抱き着いたり。
ヤバイ!どうしよう!帰ってきてからまともに顔を見られないかもしれない!
真っ赤になってうろたえだしてしまった私にドロシーが優しい声で声をかけてくる。
「普段通りでいいのよ。べつに私たちから告白するわけじゃないんだもの。あくまでラウルに選んでもらうだけ。振り向かせる努力は惜しまないけれどね」
言ってることは待つだけど肉食系だ、この子。
もし前世でいたら確実にラウルを押し倒していただろう。
あれも結構節操なさそうだし。
あ、むかついてきた。そもそも妹をねこっ可愛がりし続けたラウルが悪い
そうよ、常識のないあいつが悪いんだから私が常識を教えるしかない。
うん、普通になった。大丈夫赤面したりしない。
「ライバルって思ってくれてるのかしら?」
「義姉になるのに第一関門突破ってところかしら。」
それからギルドへ帰る為に鳥に乗る。最初ほど怖くはない。
道中二人でいろんな話をした。
恋バナからどうしようもないことまで。
鳥に乗っていると風魔法でしっかり安全確保しているのに今気づいた
少し余裕ができたのかもしれない
帰り道中、危険がないとはいえ不謹慎かもしれないが
この日私は恋心と親友を得た。




