【3日目】「初めまして、フィリアって言います」
雨だ。
今は6:30、リビングでガチャガチャと聞こえる物音で起きてしまった。
まだ早いからか雲がかかってるからか外は薄暗く、ざあざあと音を立てて雨が降り注いでる。
ろくでもない神が言うならば今日は3日目、1日休息があったから魔王襲撃まで今日を入れてあと6日
今日も何かしら送られてくるのだろうかと考えながらとりあえず、部屋にあるテレビを付ける。
最近テレビをつけるだけで変な緊張を覚えてしまって体が反射的に強張る。
『あいつ』が何か直接関わって来たことはないけれど、出てくる時はろくでもないのは確かだ。
テレビを消して、布団から出る。登校までまだ時間はあるから着替えはしないでリビングに降りる。
フィリアが朝食を作ってくれてるのだろうか、いいお嫁さんになるだろうな。
リビングのドアを開けると、フィリアの後ろ姿が見えた。
台所に立って何か調理をしてくれている。もしこれが僕一人だったら何も食べずに登校してるだろうな。
僕がリビングに居ることに気づいたのか、フィリアが僕に声をかけてきた。
「おはよ、早いね。平日はいつもこの時間に起きてるの?」
「おはよ。そんなことはないよ。雨降ってたからその音で起きちゃった」
「そっか、今ごはん作ってるから待ってね。」
「うん、ありがとうね。」
本当にフィリアが居なかったらどうなっていたんだろう。
ていうかそもそも何でフィリアは僕と一緒に居てくれてるんだろう。僕が死ぬからって言ってたけど
それが彼女に何か関わってるのかな。
でも簡単には聞けない感じがする。なんで僕が死ぬのか知ってるのかも雰囲気で聞くなって語ってる気がした。別の話題を振ってみようかな。
「今日、また一昨日みたいな黒い奴が襲ってくるのかな。」
「たぶんね。しかも今度は攻撃してくると思うよ。死者も出るかもしれない。僕くんも気を付けて。」
「フィリアも気を付けて、外には出ないほうがいいよ。家でゆっくりしてて。僕の部屋にある漫画は勝手に読んでいいから」
ただ普通に会話をしてただけだったのだが、フィリアはなにをいってるんだろうという顔をして、
完成した料理をリビングの机に持ってくる。
多分、フィリアの好物だろうか。昨日も一昨日も飲んでいたコーヒーを注ぎながら彼女は言った。
「なにが?私も学校について行くわよ。」
「何言ってんの。うちの学生じゃねーじゃん?入れないでしょ。制服も学生証もどうすんの」
「きっとなんとかなるわよ。ていうか私が家に残るって選択肢はありえないわ。アナタを一人にしておけないし。それなら僕くんが学校休みなさい。」
「なんでさ。」
「こっちこそなんでよ。」
埒が明かないので、黙って食事を食べ進める。僕の母親以上に過保護だぞこいつ。
まあいいや、ついてくるなら勝手にしたらいい。
2階に戻り準備をする。制服に着替えてカバンを持ち、1階に戻る。
顔を洗った後、ふと疑問が浮かぶ。まあいいやフィリアに直接聞いてみよう。
「フィリアって手ぶらで家に来たんだよね?着替えとかどうしてるの」
「アナタの姉の服を借りてるよ。ダメだった?」
ああ、姉の服か。別にダメじゃないけど、姉ちゃんが帰ってきたら怒りそうだ。
勝手に自分の物を使われるのは凄い嫌っていたから。
...あの死体2つは誰のだったんだろう。もしかして生きてるんじゃないかってたまに思う。
「いや、いいよ。居ないし帰ってこないし勝手に使ってもいいよ。」
「そう、じゃあお言葉に甘えて好き勝手させてもらうわ。」
「フィリア、そろそろ僕は学校に行くけど一緒に家出る?」
「まだ食器洗えてないし後から追いかける、先に行ってて。」
「はい。じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。雨降ってるから気を付けてね。」
玄関のドアを開けるとより一層、雨の音が響いて耳に直接伝わってくる。
2階で聞こえてた音よりも強まってるかもしれない。今日は止まないだろうな。
いつも使っている青色の傘を指して、駅まで向かう。
スーツ姿で出社している人、同じく学校へ登校している学生が見られる。本当にいつもの光景と変わりがないからか非日常な出来事が起こっている事さえ忘れてしまいそうだ。
いつもの日常は退屈だったけど、こんな事になるならいつも通りのほうが100倍マシだった。
母親にもっとお礼を言っておけばよかった。父親とは会話すらしてなかったけれどたまには話しかけてあげたら良かったかもしれない。姉は...なんだったっけ。
感傷に浸っているうちに駅に着く。今週は毎日利用してるな。
でも、やっぱり人が少ない。あんな事があったんだから仕方ないし、むしろこうしていつも通り登校している僕が異常なのだろう。本当は登校なんてしないで修行をするべきなのかもしれないが、昨晩のうちにフィリアと会話して決めた。
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「学校には行っていい、けれどマナの循環は24時間続けなさい。寝てる間も出来るようになって」
意外な返答に僕は驚く。過保護なフィリアの事だから一歩も外に出るなと言われるのかと思った。
「そんなわけないじゃない、それにあなたの能力の性質上、外に出て能力を見ないと成長出来ないんでしょう?それなら休日に出歩かれるより安全な学校で勉強してて」
続けざまにフィリアは言う。
「敵は魔王軍だけじゃないわよ。アナタの家族を殺したのは人間。それだけは忘れてないでしょ?
だからその飾りみたいな透明なマナも解かないでね。」
飾りは余計だと僕は返す。でも確かに油断はしないほうがいいかもしれない。
わざわざ僕を狙ってくる事はないかもしれないけれど、修行の一環としてしておこう。
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2-Dの教室についてまず思ったのがやっぱり人が居ないな。ってことだ
本当ならこの時間に来ている人もまだ見えない。教師陣にも休んでいる人が居るかもしれない。
でもたぶん、授業は続けるんだろう。少ないにしろ先生たちも学校に来ている。この状況で数学とか学べるの、と疑問に思うけれどするんだろうな。
次に、魔法使いが居た。
身長は僕より少し高くて男性の...たぶん上級生。2-Dに向かっている途中、階段をすれ違ったけれど、ついその場に足を止めてしまった。
圧倒的な異質感。
顔は見えなかったけれどフィリアが言っていた通りありえないくらいの力量の差がすれ違っただけでわかった。異常だ。
彼の能力は水だった。魔法使いだからって特別レアな能力とは限らないのかもしれない。
案外身近にいるものなんだな。と僕は他人事のように思った。
しばらくしてホームルームが始まる。いつもはざわついている教室も、今日ばかりは物静かだ。
侑太も休んでいた。僕みたいに家族が居なくなったのか、それとも....考えるのはやめておこう。
教室の外から足音が聞こえる。職員室から担任の先生の先生が降りてきたのかと思ったけれど
少し違った。ドアを開け、顔を見せたのは昨日の能力の授業をしていたクリス先生だった。
「みなさんおはようございます。色々ありまして今日は僕が授業をさせていただきます。」
察しているのかラッキーと思っているのかわからないけれど、誰も何も、賛同の声や文句も言わなかった。
「さっそくだけど、転校生を紹介します。」
少し教室がざわつく。この時期にこのタイミングで転校生?
明らかに怪しいだろ。なんで学校は受け入れたんだ。
「大丈夫です。すでに入学テストも済ませて、『安全な人間』と確認しています。皆さんの気持ちはわかりますがやましいことは何もないですよ。」
そうは言われても受け入れがたい。それにクリス先生も怪しいのに、その先生の公認となるともっと怪しいぞ。
ざわついているのとは逆に、転校生が教室に入ってくる。
女の子だ。綺麗な顔立ちで若干日本人離れのハーフ顔。...マジかよ。本当に来やがった。
しかもわざわざ同じ教室かよ。もう帰りたい。
「初めまして、フィリアって言います。今回の事件で家族を亡くして、親戚の家に泊めてもらっています。短い間ですが地元に戻るまでしばらく学校でお世話になります。よろしくお願いします。」
「仲良くしてあげてくださいね。席はまだ用意出来てないので、とりあえずは今日休んでる人の席使ってくれていいですよ。好きなところに座ってください。」
「ありがとうございます。皆さんよろしくお願いしますね」
何枚猫かぶってるんだ。南極かここは、厚着ってレベルじゃねーよ。
天使のような微笑みを見せたフィリアの登場で男子は盛り上がり、女子は多種多様な反応を見せる。
いつもの教室の空気に戻ってきた。
フィリアが真っすぐ歩いてくる。どこに向かっているかなんてマナを使わなくてもわかってしまう。
ああ...昨日のコイントスみたいに外れてくれたらいいのに。
「すいません、横いいですか?」
目も合わせず僕は了承した。




