【2日目】「この『ゲーム』の終了条件」
戦闘が終わり、休憩をしようと言う事で
フィリアが校外のコンビニまで昼食を買いに行ってくれている。
戦闘は僕の勝利で終わったが、実際は負けのようなものだ。
あのまま服を燃やしても戦闘を続行されていたら確実に負けている。
理由は、今の僕の能力に殺傷能力は皆無である。『火』を使っても人を燃やす程の力は出せない。
人を操るにしても、僕の不完全な模倣では、反抗されたら確実に解けるだろう。
そして明確な欠点が……燃費が悪すぎる。
数分使っただけで死ぬ間際まで疲れている。戦闘が1日1度で終わる保証など無く、これは致命的な弱点である。
明日からまた『黒色の生物』が襲ってくるというのに、このままでは確実に殺されるだろう。
きっと僕は、まだ『3倍』も強くなれていない。どうすれば強くなれるのだろう。
ステータスと発するのが怖い。明日になるのが怖い。…学校から帰って来てフィリアが殺されていたら…
僕は自分の弱さに直面し、胸の奥にたまっている憎悪や情けなさが今にも飛び出て来そうになる。
最悪の場合の事が次々と頭に浮かび、僕は思考を止められない。
無慈悲に襲いかかる負の感情は、止めど無く溢れ出て僕にはもう抑えられず、
降り注ぐ日差しがまるで、重さを持っているように僕の体にのしかかる。
胃が熱い。胃酸が逆流しかけた時。声が聞こえた。
「なに暗い顔してんのよ」
フィリアだ。
たった一言。フィリアの声を聴いただけで胸の奥にかかっていた霧がさっと晴れる。
身体に降りかかっていた重さが泡のように消え、どこかに行っていた焦点が帰ってくる。
僕は首を上げ、何も言わず、フィリアの顔を見上げるように目線を合わせる。
「はい、水。お昼ご飯にしましょ」
「うん、ありがとう」
「あと、顔洗ってきなさい。」
フィリアは優しい、僕の気持ちを汲み取って…受け止めて…尚、馬鹿にせず力強く言葉を返してくれる。
僕は目元から溢れる涙をこらえるように歯を食いしばり、立ち上がる。
水を飲んで少しは回復が出来た。近くにある水道に行ってくる事をフィリアに伝えて足を進める。
きっとフィリアは僕の為に、色々考えて、行動して、支えてくれるんだろう。
今朝の対応のように、拉致をされたことを警戒して武器を持っていたんだと僕は推測する。
何故彼女がそこまで僕に固着するのかはわからないし、簡単に聞けるような事ではないけれど…フィリアが居なかったら僕は死んでるんだろうな。
蛇口を雑にひねり水が溢れだす。頭を思い切り突っ込ませバシャバシャと水を頭から被る。
気温が高いからか、頭がのぼせているからなのか。水というには生ぬるく、あまり気持ち良いものでは無かった。
反時計回りに蛇口を回し溢れ出る水を止める。軽く手櫛で髪を整え、両手で顔を気付ける。
真っ直ぐとフィリアの方を向き歩き進める僕、僕を無表情で見ているフィリア。
改めて、彼女の顔は本当に整っていると再確認する。
「戻った。」
「おかえり、おにぎり食べる?」
「ううん、いらない。食べていいよ。」
「もう食べたからお腹いっぱいよ。じゃあ修行の続きをしましょう」
無機質のような会話を交わし、次にする事を説明される。
「能力は制限を付ければ付けるほど強くなるわ。だけど、付けた制限は決して破る事は出来ない。簡単には決めない方がいい。」
いきなり能力について説明されるが、急な話に頭がついて行かない。
戸惑う僕に対し淡々と話をしていく。
とりあえず声だけでも拾おうと必死になって彼女に耳を向け僕は彼女の目を見た。
「私の『操作』の制限。教えて欲しい?」
珍しく僕に問いかけて来たかと思うとドヤ顔である。
凄くムカつくし、首を縦に振ってやりたくない。
…結局迷った挙句、僕はうん。と一言返事をした。
「形のない物は操れない。そして同時に一つしか操れない。それが私の制限よ。例えば酸素や音、感情なんかも操れない。」
ああ、なるほど。合理的である。
軽くもないが重くもない制限だ。だけど…二つの疑問が僕の頭に思い浮かぶ。
「記憶の事、思い浮かべた?本当にわかりやすいわね、顔に書いてるわ。」
気持ちを読まれてたみたいだ、やっぱりフィリアには叶わない。
僕は無言の肯定で返事を返す。
「記憶は私にとっては形なのよ。他の人にとっては違っても…私にとってはね。そう、気づいたかも知れないけれど
能力なんて曖昧で単純、でも複雑な事も出来るの。神が言ってたようにね。」
「ふーん、なるほどね。で、その制限を付けたとして、どう能力が強化されるのさ」
「消費するマナが減ったり、逆に操れる物の大きさが広くなったり。色々よ。だけど一度決めた物は二度と解除出来ない。
真剣に考えた方がいいわよ」
そうか…僕はまだ何も制限を付けていないから色々な事が出来る。けれどマナの消費が増えたり不便な所も目立っている。
『能力』が偏ってるんだ。だけど…
今日の僕は思考が回る。白のマナを体に循環させているからかもしれないが、色々な発想が思い浮かんでくる。
僕はまず一つ目を試そうと、言葉を発した。
「ステータス」
どこからか、ガラスの破片ようなものが風の音と共に集まってくる。
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能 力:『模倣』Lv3/10 ★★★★☆
スタック:『火』『木』『操作』『』
マ ナ:130/210
ラ ン ク:Lv1
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少しだけマナの最大値が伸びて、模倣のレベルが上がっている。
酷使した分、身体が対応しようとしてマナの最大値が伸びたのか。僕は静かに考察する。
「ヘルプ」
昨日、神様が言っていた情報の一つだ。今日はそれを試そうと朝から決めていた。
≪何が知りたいですか≫
僕に問うように、目の前のガラスに上塗りするように黒色の細い文字が表示される。
「ランクについて」
僕が画面に向かって問いを投げかけると、ガラスの上にまた新しく文字が塗られる。
これは使えるかもしれない。
≪ランクとは、『敵』、もしくは『同胞』を倒すと上昇します。ランクが上がると新しく特典が得られます。
得られる特典は、その人のマナ、能力によって様々で人によって大きく異なります。≫
表示されている文字を読んでいるうちにとんでもない文章を見つけ、自然と目を見開いてしまう。
僕の後ろから覗いているフィリアも、雰囲気が少し変わる。
思考を遮るかのように新しく文字が上書きされる
≪他に何が知りたいですか≫
本当に僕が聞きたかった事。それは
「この『ゲーム』の終了条件」
ゲームという言葉、自分で言っておきながら吐き気がする。こんなクソみたいな世界をゲームと例えているからには
僕もヘルプにそう質問を投げかけた。
≪人間サイドの全滅、もしくは魔王の討伐が終了条件です。魔王は7日後に襲撃されますが1日延期された為、開始日から8日後と変更となりました。≫
「人間の勝利時の特典と、魔王側の勝利特典は?」
≪能力が与えられてから死亡した人間の蘇生と、与えられた能力の保持。魔王側は、地球が与えられます≫
予想していた通りだ。ゲームなのだから褒美が用意されていると思っていた。
僕の勘は的中し、一気にやる気が満ち溢れてきた。そして、ダメ元でもう一つ聞いてみた。
「神について教えて欲しい」
≪答えられません。他に何が知りたいですか≫
「以上だよ。ありがとう」
目の前のディスプレイに礼を言いヘルプを閉じる。
ほとんど想定していた通りだったが、確実な情報が得られたことに気分の高揚が抑えられず笑みを浮かべる
「よかったね、僕くん」
少し寂しそうに答えるフィリアに疑問を浮かべるが僕は素直に肯定する。
でもこれでわかった。僕の能力の使い方。
「僕、決めたよ。能力の制限。」




