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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第4章 吹奏楽コンクールへ練習と準備の日々
117/132

117.練習じゃない、本番だ!

「おのれら、合奏『練習』の段階はもう過ぎてるからな。

合奏練習ってスケジュールが入っていたら、それはもう『本番』って認識しておけ! 今日から合奏練習じゃない、本番練習、いや、本番だ!」


部員は「はい!」と返事をする。


「プロの世界ではな… ミュージカルでも芝居でもドラマでも、最初から全力で集中する。 号泣するシーンがあれば、最初の合わせの段階でも号泣する。 同じシーンを何度やっても、同じようにできる。


ドラマだと目が腫れたり赤くなったりするから、冷やしたり、時間を置いたりして手間と労力をかけるけどな。 でも全部本番だと思ってやるから、周りもそれに合わせる。 相手の演技、演奏、歌に合わせてスイッチが入るんだ。


そういう気迫っていうんかな…。

そんな日ももうないのに、この程度の気持ちしか込められないことに焦りを感じないのか?」


全力で何度も最初からいい演奏が出来て当たり前?

無理っす。

だから、焦ってる。


内田先生の合奏練習は、合わせては止め、指示がバンバン飛んでくる。


「そこ!タンギングで切るところ!」

「滑らかに吹くっていうのは、息をつなげるだけじゃない!そこに響きも!」

「上の音に行くにつれてふわっと膨らませる!次の音はアクセントスタッカート!」


さらに音の確認が続く。


担当者を一人ずつ確認した後、そのメンバー全員での音練習 ×20回。

そこからまた全体で合奏し、別の場所を止めて音確認。


気の遠くなる作業の連続。


つながりも確認しながら進めたが、うまくいかず、内田先生が ブチ切れた。


「まだ譜面に書かれていることぐらい音にできんのか!」

「おのれらの音には足りない、間違いが多すぎる。 全然できてないが、いったん休憩30分。次、自由曲!」


内田先生は、部員の「はい」という返事をほぼ無視して音楽室を出て行った。


ホルンの管を抜いてツバ抜きをしながら考える。


譜面を音にするだけで、正直できる気がしない。


和音にするロングトーンも、今はチューナーを使いながらだからできるだけで、 本番で譜面台にチューナーを置けない状況で、自分の耳だけで判断しながら演奏ってできるんだろうか?


タンギングだって、強い音だと潰れるし、アンブシャーが崩れたりするし、 体の何をどこまでどうするかが、つかめない。


というか、すでに唇が痛い。


…疲れる…疲れた。

本番までずっとこんな感じなのか?

ずっと楽器吹いてるか怒鳴られてるかじゃん。


女子も怖いし。


やってられないなあ。


「たくみん、ごめんね…。」


絵馬先輩が謝罪してきた。


俺:「え!何すか?急に!」

絵馬先輩:「ため息ついていて…頼りないだろうな、私じゃ。中々うまく行かなくてね。」

俺:「あー!俺のため息は別件です!ため息は無意識で…すみません、当てつけみたいになってた、ってことですよね。 違います!絵馬先輩じゃないです。まったく無関係のこと考えてました。」

絵馬先輩:「そか、安心した。」


そこへ 白川先輩 が入って来た。


「藤村、鈴木は割と簡単だぞ。」


俺:「簡単って何すか?」

白川先輩:「ちょろい。」

俺:「失礼っすよ。いくら後輩だからって。」

白川先輩:「な?藤村、こいつはこうやって、本音を言うようになった。 当てつけでため息ついてくるような奴のことは気にするな。」


…え?


俺は こそっと白川先輩と絵馬先輩に聞いた。


俺:「今時、あてつけでため息って、パワハラか嫌がらせでしかないでしょ?そんなんいました?」

絵馬先輩:「うーんと…。」

白川先輩:「鈴木、お前のそういうところが長所で強みだ。そのままでいい。」

俺:「てか、それ誰です?聞いておきたいんですけど。怖いし。情報共有って大事っすよね?」

白川先輩:「いや、お前はそのままでいい。というよりな、ため息つきたいのは藤村じゃねえのか?多分抱えすぎてるぞ、なんか。」

絵馬先輩:「いえ、そんなことはないです。」

白川先輩:「鈴木、お前、藤村の分、半分背負うようにできないか?」


「どういう事すか?」


白川先輩:「藤村は、自分の分と抜けた高橋の分を1人で2人分やろうとしてるんだよ。音量とか配慮とか。 パートリーダー会議に3年の中で唯一、2年で入ってるんだよね。


本来なら、これだけ人数いるんだから誰かホルンに…って話だけど、ホルンはそんな簡単な楽器じゃない。 むしろ、ホルンができれば他の金管なんて余裕っていうぐらいの楽器だからな。」


俺:「いやいや、無理っす。」


色々足りてないし、見えてなかった。


白川先輩:「途中入部の初心者って意識は捨てて、もう『俺は3年です』くらいの気持ちでやってみてくれねえか?」

俺:「は?」

白川先輩:「言いたいことは分かる。先輩についていくだけで精いっぱいってことだよな。 ただ、このままだと藤村が倒れるぞ?ホルン、鈴木1人になるぞ? それよりは、本番まで短いけど、そんな気持ちでやってみないか?」


え、絵馬先輩元気なかった?

そういえば、いつもと違ったような…


俺:「すみませんでした。まったく気が付かずでした。」

白川先輩:「いや、それが普通だからいいんだ。 ただ、藤村1人でもう1人分を背負うより、高橋の分を藤村と鈴木で半分ずつ背負うんだ、って気持ちとか、高橋が吹こうとするとどうやるかな?って考えたら、少しは軽くなるんじゃないかと思ってな。

去年、高橋が『来年こそ全国行ってやる!』って泣きながら叫んでいたのは知ってるか?」

絵馬先輩:「はい、それは…もう…一緒に…。」


絵馬先輩、うつむく。

これは本格的にやばい。


白川先輩:「鈴木はコンクールがどんなものか、まだ分かってないだろう? で藤村が高橋を背負いすぎてる。だから、高橋の分を半分、鈴木も背負ってほしい。」


俺:「え、俺が?」

白川先輩:「そうだよ。今、藤村の演奏に合わせようとしてるけど、実際には藤村に頼って演奏してる感じがする。今の鈴木の演奏は… ジャイアンについていくスネ夫状態 なんだよな。」


俺:「俺がスネ夫…。」

絵馬先輩:「私がジャイアン…。」


白川先輩:「あくまで例えだから!ジャイアンとスネ夫にこだわるな。 じゃあ、のび太とドラえもんでもいい。」


俺:「この場合、俺がのび太…。」

絵馬先輩:「私がスネ夫…。」

白川先輩:「違う、ドラえもん!」

絵馬先輩:「顔がドラえもん…。」

白川先輩:「言ってない!そこじゃない!」


俺:「で、ため息嫌味野郎は誰なんすか?」

白川先輩:「声が大きい!てか、知ってどうすんだよ?」

俺:「相手により、態度変えます。」

白川先輩:「それが一番良くない!だから言わねえよ。」

俺:「俺が関連してるのに、俺が知らないって何かよくないと思いませんか?」


左奥から はぁーあ! という大きなため息が聞こえた。


え、すごいタイミング。 まさかの正体、そこか。


テナーサックスの2年の先輩。

名前わからないけど、確かにいつもため息ついてる気がする…。

しかも、絵馬先輩をなんとなく冷たく見ているような…。


先輩:「言い方甘いんじゃないですか?はっきり伝えてもらっていいですか? じゃなかったら、私、直接言いますが。」


俺:「うわ、めっちゃ怖いんすけど。」


思ったより強めに来た。



正直、怖い。

テナーサックスを持ち、アルトサックスをスタンドに置いている。


白川先輩:「おい、ちょっと待つんだ。」


テナーサックスの先輩:「いつもセクション練でホルンと同じところを吹いてるの。 ホルンの集中砲火だとか思ってない?巻き込まれてんのよ。


最初、私アルトサックスだけだったの。

だけど、ホルンの人が抜けてしまったから、持ち替えでやってくれって言われて、アルトでやりたかったところ、テナーサックスに変更になった。


仕方ないって思ってやってたけど、本番まであと何日?

いつまで同じところで引っかかってんのよ?


そもそも、もう1人のテナーの子、1年だけど、相当できてるよ。

審査員が、ホルンが人数減ったとか、途中入部の初心者だとか考慮してくれると思う?

違うよ。 ただ、演奏良し悪しのみ。


演奏で助け合うって言うけど、それって ずーっと寄りかかられたら 疲れるし、しんどいの。

独り立ちする気ある?

ずっと初心者です、って気持ちでやってんの?

なめてんの?」


鋭く冷たい、その言葉が俺の心をえぐる。

怖くて、涙が出そうになる。


絵馬先輩が 「ごめん…」 と絞り出すように言うと、涙がこぼれていた。


それを見たら、俺の涙は スッ… と引っ込んだ。

こうさせてしまったのは、自覚の甘かった俺のせいだ。


俺:「申し訳ございません。」 と謝罪するしかなかった。


テナーサックスの先輩:「謝罪したなら、この後の合奏から、集中砲火に巻き込むようなことしないで。

いい加減な気持ちだから、音もいい加減なのよね。

真剣で緊張感持ってたら、音がその程度かな?」


何も言い返せなかった。


最初は、絵馬先輩につらく当たるのを止めてもらおうと思ってたのに、 実際は俺が原因で、それを絵馬先輩が守ってくれてたんだ。


いつから、こんな当たられ方されていたんだろう。

俺がのんきに階段でしゃべってた間、 このため息をくらってた なんて、いたたまれない。


この後、俺…音を出せるだろうか。


「ホルン、サックス全員、あと船田!ちょっと別教室へ集合!

山田、いるメンバーで自由曲の合奏練習を仕切れ!

山田の指示で合奏練習!」


内田先生の声が響く。


今の話に関することだろう。 上の階へあがり、音楽室から離れた教室へ向かう。




サックスパート5人

ソプラノアルトサックス:3年 白川先輩


アルト&テナーサックス持ち替え:2年 沢田さわだ 奈央なお先輩 ←さっきの…怖い先輩


テナーサックス:2年 岩尾いわお 健司けんじ先輩


テナーサックス:結城 ちはや(ゆうき ちはや)さん


バリトンサックス:3年 大橋おおはし 未知みち先輩


さらに、ホルンの俺と絵馬先輩、コンマス船田先輩。


内田先生は、できるだけ輪になるように座るよう促した。


「沢田は、テナーとホルンが合わないのはホルンの努力不足だと思ってるのか?」

そう聞かれ、沢田先輩は 「はい。」 と即答。


内田先生:「理由は?」


沢田先輩:「ずいぶん前に合奏で指摘されたことを、未だに修正されていません。 いったん修正されたのかな、ようやく合うようになったな、って思ったらまた次の日には戻ってしまう。 それでまた合奏で同じ注意をされるんです。」


内田先生は、うーん…としばらく考える。


そして

「ホルン、おのれらはどう思っている?」

と俺たちに視線を向ける。


絵馬先輩は

「何度も同じことをさせてしまって、申し訳ないです…本番近いのに…。」

と答えた。


俺も続けて

「俺も、ごめんなさい…。」


正直、お怒りはごもっとも。 散々集中砲火くらって、ようやく合うようになったと思ったら、次の日には崩れる。 そりゃキレるのも当然だ。


どうして翌日できなくなっているんだろう? 単純に練習不足なのか?


内田先生:「沢田、テナーはもうやらなくていい。アルトだけ吹け。

ただし、今からアルトに加わる部分で合わないところはカットする。


大橋、テナーを持ち替えでやってほしい。ホルンの音が足りない。ホルンを補う気持ちでやってほしい。」


戸惑う沢田先輩の

「え?」

という声と、 軽いノリの大橋先輩の

「はーい!どこ持ち替えればいいですか~?」

という声が重なった。


俺と絵馬先輩は顔を上げ、思わずお互いを見合わせる。

…まさかの展開…。


内田先生:「沢田、お前は八つ当たりしてる。

もうこのコンクールでテナーはやらなくていい。 アルトを吹いて、ずれたらカットする。

もうすでに出来上がっている部分があるからな。 入って良ければもちろん採用。

だが、勘違いするな。 『好きなメロディしかやりません』ってやつは迷惑だ。

『気に入らないメロディだから』って八つ当たりするのも迷惑だ。

一見正しいことを言っているようでも、それはただのモラハラだ。」


沢田先輩は、無言で涙を流し始める。


俺は、この状況でかける言葉が見つからない。


謝罪も違うし、「一緒に頑張りましょう」とか言ったらウザがられそうだし…。

いや、キレられるよな…。


白川先輩:「沢田、今日は帰れ。そんなんじゃ、まともな音にならねえだろ。 それで合奏出たら、ほぼカット確定しそうだからな。」


その瞬間、沢田先輩の涙が、だあーっと溢れ出た。


白川先輩は 黙って箱ティッシュを机の上に置く と、

「みんな、音楽室行くぞ。」

と言って出て行った。


絵馬先輩と俺は、白川先輩に続いて音楽室へ向かう。


岩尾先輩と結城さんが、

「バック持ってくる。」

「楽器は大橋先輩が持って行かれると思うので、アルトだけ片づけておきます。」

と、それぞれ声をかけながら動いていた。


音楽室の前。

白川先輩は、俺と絵馬先輩に向かって

「俺の指導が足りなかった、ごめん。」

と謝った。


いえいえいえいえ! 俺の努力が足りなかったんだ。


白川先輩:「正直、女子の扱いがわからないんだよな…。 淡々と言えば 冷たいとか怖い って言われるし、 かといって軽い感じで言うと 気持ち悪がられる し…。 普通のトーンで話してると つまらない ってなるし…。どうしろと?」


俺:「めっちゃわかります。」


白川先輩:「まあ、あと鈴木。

これからちょっとメンタル壊れてくる奴が ゴロゴロ 出てくるから、その都度、巻き込まれてすり減るようなことがあるかもしれない。

というか、もしかしたら 鈴木自身が そうなるかもしれないな。

最初の頃、泣いたり吐いたりしてたの見てたから、なんとなく対策はわかってる。

安心して壊れていいわ。」


俺:「いや怖っ!言い方!」


思わず、ふっと笑って力が抜けた。


船田先輩と大橋先輩が譜面を持って合流。


白川先輩:「どう?いきなり合奏でできそう?」


大橋先輩はフッと鼻から息を出し、 「余裕。」


この人、軽く言うけど…。


「ホルンと違って、サックスって音出しやすいんだよね。」

と大橋先輩。


「ホルンってめっちゃムズいじゃん? サックスの指使いは単純だし、アンブシャーの崩れもないしね。

持ち替えで調が変わるのが混乱しそうだけど、今まで横で ちはやちゃんの音 聴いてたし、いけるっしょ。よろしくね!」


俺:「え、めっちゃ軽い…。」

絵馬先輩:「雰囲気が白川先輩っぽい…。」


俺と絵馬先輩は

「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」

と頭を下げると、 大橋先輩は

「は~い!」

と 満面の笑顔で返事。


俺の胃の痛み、少し緩和。


そういえば、不登校になりかけの頃、この痛みや不安感があったな。

その辛さを絵馬先輩が食らってたんだ。


気づくのが遅かった。


俺:「絵馬先輩、ごめんなさい。俺鈍くて…。」


絵馬先輩は慌てて

「たくみんは何も悪くない!それに、先生は ホルン2人は音が合ってる。

でも、先生の指揮と合ってないんだ、 って言ってたから、今度は 指揮に注目しよう!

パート練っていうより、指揮とどう合わせるか。 だったんだね!

これから良くなるよ! 大丈夫!」


その言葉を聞いて安心したら、涙が浮かんできた。


「あー!鈴木また泣き出したー!これで拭け!」


白川先輩が近づいてきて、俺の目元を拭う。


…白川先輩のTシャツの袖で。


「臭っ…!!!」


一瞬にして涙がひっこんだ。


そういう時はハンカチかティッシュだろ!


大橋先輩:「鈴木君、吐きそうになってるよ。」


白川先輩:「鈴木は指揮練の時も吐いてる。メンタルと胃腸のリンクが強い。」


大橋先輩:「違う、そうじゃない!今、白川の雑巾のような臭いで吐きそうになってるんだよ。」


俺:「ガチで臭いんすけど!!!」


白川先輩:「雑巾って失礼な。ティッシュもハンカチもねえもん。おのれら出せよ。」


大橋先輩:「ハンカチあるけど、手洗いと汗で大変なことになってるからさー。」


俺:「大丈夫っす、ありがとうございます。」


この短時間で、落ち込んだり、泣いたり、笑ったり。

感情の振れ幅がジェットコースター状態。


そこへ、テナーサックスの岩尾先輩と結城さんが戻って来た。


白川先輩:「どうなってる?」

岩尾先輩は 遠い目 をしながら、ぽつりと答えた。

「あれは今日ダメっすね…。 あと、個人的に俺、テナー好きなんで、なんかけなされた感じがして、合わねーっす。 性格も合わねーっす。 多分そんなんだから、音も合ってないのかも。

俺、あいつが嫌いでも、サックスと音楽が好きだから、何とか合わせようと思ってたけど。 だから、かける言葉ありません。 もう 『帰れ帰れ!』 って思ってます。」


白川先輩と大橋先輩: 「まじかあ…荒れてるなあ…。」


それぞれ深いため息。


結城さん:「沢田先輩のバック、持って行きます。 多分、音楽室入りたくないと思うので。」


大橋先輩:「ありがとう、お願い。」

結城さん:「はい。」

そう言って、音楽室へ入っていった。


岩尾先輩:「パート練とかセクション練とか、あいつの影響で マジ地獄 だったんで、正直今日すっきりしました。 だから 藤村、もう心配するなよ~。」


と、満面の笑顔で言った。


俺:「なんかそれもそれで怖いっすけど…。」


中で、合奏の音が止まった。

しばらくして、山田先輩と結城さんが、さっきの教室へ向かっていった様子。


白川先輩:「よっしゃ、俺らも入るか!」


という合図で、俺たちも音楽室へ戻った。


「20分休憩です。」

と船田先輩が告げると、部員はそれぞれ楽器を置いて、体を伸ばしたり、トイレへ向かったりと動き出す。


サックスパートはあわただしく、 沢田先輩のアルトサックスを片付け、 テナーサックスのマウスピースを外し、大橋先輩が持ち替えの準備をする。


ほんの短い音出しの後、譜面をさらっていく。


なんか…あっという間に出来上がっていく。 この譜面、そんな短時間でできるやつだったっけ?


3年生、すごいな…。


大橋先輩が岩尾先輩と結城さんに声をかけ、合わせ始める。

気のせいか、合ってるし、なんならパワフルになっている。


俺:「いや、めっちゃ普通にできてるんすけど。」


そして、大橋先輩がホルンに声をかける。


「ホルン2人も一緒に合わせてくれる? ちょっと感覚つかんでおきたいんだ。自由曲、お願い。」


俺:「はい!」 と返事をして、楽器を構える。


大橋先輩の合図にあわせて音を出す。

音がよく聴こえる。

合うっていう感覚がなんとなくつかめる。


そこへ白川先輩が入ってくる。

セクション練+アルトサックス。


そこに トランペットの江口先輩の音が入ってくる。

次々にいろんな音が入ってきた。


きっとまだ 合ってはいない と思うんだけど…


音が聴こえて、入りたい、合わせたい、っていう気持ちが なんとなく伝わってくる。

夢中になって演奏する感覚。


最後の音は船田先輩を見る。

目や肩の動きで察知しようとしたけど…


見事に全員ばらばら。


やっぱりこうなるか。


初めてホルンで音を出した時の わくわく感 を思い出した。

これが続けばいいって思っていたんだ。


大橋先輩:「ホルン2人~ありがと~!」


俺:「はい!」 と返事をしながら、頭を下げた。


人1人でこんな変わる?

怯えると本来のパワーが減るんだな…。

内田先生の怖さとは違ってたもんな。


大橋先輩うまいし、正直、助けられた。


そこへ、内田先生が入ってくる。

指揮台の上の椅子に座り、一言。


「自由曲の合奏が聴こえてきたが…絶望的だな。」


楽しかったんだけどなー、それと出来はつながらないもんなんだな。


内田先生:「ただ、のびやかに感じた。それを求めていたからな。

今日、課題はつぶしておきたい。 明日のレッスンでは、より音楽的なものを追求することとして欲しい。」


部員:「はい!」


色々あって、残り1時間となってしまった合奏。

内田先生の細かい修正びっしりの合奏となった。

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