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拓海のホルン  作者: 鈴木貴
第4章 吹奏楽コンクールへ練習と準備の日々
115/132

115.期待されない孤独と光る音

ホワイトボードに、内田先生は時間・練習番号・パートを書き出した。

なんとなくだが、高音域の速い動きと、低音のリズム打ちの部分を重点的に練習するのだと分かった。


音楽室には、クラリネット、フルート、オーボエなどが残っていた。

今日のセクション練習にホルンのパートはなかった。


ホルンのパート練習の部屋へ向かい、座る。

今日、ホルンは自分ひとりだけだった。そのせいでセクション練習もなかったのだろうか。

あまり期待されていないことは分かっている。気持ちが沈む。


…そんな時こそ、必殺ロングトーン!

ひたすら、ひたすら、長く太く、そして響かせるように。


午前中にやった、フォルテとピアノのロングトーンも取り組む。

疲れたら、譜面を見てイメージトレーニングだけにした。


改めて見ると、この音はフォルテだったんだよな。

ここはピアノにしたつもりだけど、実際に響いていたかというと、そうでもなかったみたいだ。


よし、曲のリズム通りではなくても、ロングトーンで強弱をつけてみよう!

やってみると、全くできていないことに気付いた。

音を出したつもりになっていただけだった。


ロングトーンで響かせられる音を、譜面通りに出すには

まだ何段階も踏まねばならない手順があることを実感させられた。


間に合うのか、俺。

っていうか、この練習、もっと早くやっておけばよかったんじゃないか?


焦りと落ち込み。


楽器をももの上に置いた時、フルートやクラリネットの16分音符の連続が

だんだん精度を増していくのが分かる。


これが「まとまる」ということか。

今までの合奏で、できているように思っていたけど

こうして聴くと、詰めるべきことがまだたくさんあるんだな。


それによってこんなに変化が生まれるのか、と実感する。


翌日は、朝から昼まで基礎合奏で終わった。

家に帰って食事と風呂を済ませると、夕食も取らず、トイレにも起きず

次の日の早朝まで寝てしまった。


母さんは、あまりにも寝続けるので

「心配になったけど、元気そうね。」

と言い、昨日の夕食に出す予定だった

肉野菜の炒め物と冷奴、ご飯と味噌汁を用意してくれた。


がっつり平らげ、目覚ましをセットしてまた寝る。


起きて、昼はラーメン、餃子、チャーハンを食べた。

母さんは呆れたように

「相撲取りにでもなるの?」

と聞いてきた。


「そうじゃないけどさ、似たようなもんよ。行ってきます!」


そう言い、部活へ向かった。


食べる、風呂、トイレ、寝る。それ以外は楽器。

中学の夏休みは、部活だ。





音楽室に着くと、部員たちはいつもの活気を取り戻していた。

欠席していた人も来ていた。


内田先生が音楽室に入ると、ミーティングが始まった。


今日の予定は、個人練習30分の後、基礎合奏をしてから合奏練習。


明日は、松下さんの合奏レッスンがある。


次の日は一日練習、さらにその翌日はホール練習。


ホール練習は、本番の舞台を想定しながら進める。

本番と同じスケジュールで、動き、楽器搬入、演奏、退場までを確認するという。


入学式のようにブレザーとネクタイ着用、靴は黒の革靴。

その装いで1日を過ごすとのことだった。


こんなクソ暑いのに、制服着るの?

黒の革靴、持ってないんだけど…。どうしよう?


各自確認し、明日までに疑問点を解消しておくようにとのことだった。


ホルンの音出しを始めると、絵馬先輩が言った。


「たくみん…音変わったね…。急に何か、化けたというか。」


「あー、昨日の内田先生の基礎合奏で

『フォルテもピアノも同じだ、響かせろ』

ってガチ強めな指導をいただきまして…。


個人練のときも、基礎練習ばかりやっていて…。

言い訳になっちゃうんですけど、基礎練ばかりで

曲の練習をしていなかったので、また足を引っ張ってしまうと思います。ごめんなさい。」


正直なところ、あの日は曲の練習をする気持ちになれなかった。

でも、今日は何だかやる気がある。

休んだことで回復したのかもしれない。


「いや、いいよ、たくみん。

ちょっと音がぴかぴかしてきたよ。」


「え、ぴかぴかですか?」


「うん、こんなに変わるもんかね、っていうくらい。ちょっと驚いた。

私も頑張るわ!」


今日の絵馬先輩の音、響いている。



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