(56)囚われの拓夢
「ん……」
パチリと目を開けると、そこは先ほどまでの賑やかなホテルではない、静寂に包まれた部屋の中だった。
まず視界に映ったのは、広く高い天井。吊るされたクリスタルのシャンデリアから、青白い光が照らされている。
「ここは……」
拓夢は起き上がろうとして、違和感に気づく。両手足には、細い金のチェーンが巻きつけられていたのだ。
「え……?」
起き上がろうとしても起き上がれず、また倒れてしまう。とても大きな、キングサイズのベッドだ。滑らかなシルクの質感を感じながら、拓夢は懸命に思考を働かせていた。
窓はついている。景色からすると、地上100メートルほどの、ホテルの最上階。貸し切りのスイートルームというところか。
(さっきまでいたホテル……? ということは、桜さんは?)
まだぼんやりとした頭で考える。明らかに自分は閉じ込められている?誰に? 先ほどまで自分と一緒にいたのは、桜しかいない。
それに、桜のあの豹変した態度――
「あ、もう起きたんだ。拓夢くん、おはよ~」
部屋の隅から影が現れた。
拓夢は目を疑う。
彼女が着ていたのは先ほどまでの可愛らしい洋服ではなく、肌が透けて見える黒のレースのナイトガウン。内側から除く白い肌が月明かりに照らされ、真珠のように発光している。
「さ、桜さん!? こ、これは一体……? ここ、どこなんですか?」
「ここはわたしのプライベート・スイートルーム。ホテルの最上階にある専用客室を、フロアごと買い取ったの。だからどこにも行けないし、誰も入ってこれない」
桜はそう言うと、ベッドの端に腰を下ろした。
柔らかなマットレスが沈み込み、彼女の甘く熱を帯びた瞳が、拓夢を捉える。
「だからね? 拓夢くんを知っているのはわたしだけだし、わたしを知っているのは、拓夢くんだけなの。これって、すっごく素敵なことだと思わない? この世界にわたし達、二人きりなんだよ?」
とろけるような甘い声だが、まるで罠にかけて獲物を捕食する食虫植物のような怪しさを秘めていた。
「これから拓夢くんは、何も考えなくていいの。食べ物も、飲み物も、着るものも、お風呂も、排泄も、愛も、全てわたしが与えてあげる。だから……」
桜は拓夢の腰元に馬乗りに跨った。チラリと見える黒いレースの下着。肌越しに感じる妖艶な温もりに、拓夢は青ざめてしまう。
「あ、あ……」
「ここで、二人だけで暮らしましょう? 永遠に。愛してるわ、拓夢くん」




