第5章ー2
一行は自信に満ち溢れていた。が、それは、クロエモエ一人の自信からきていた。クロエモエが何とかしてくれる。
当然だ、と誰もが思っていた。
そう、当然クロエモエに作戦があるものと思っていた。
アライの壮大な戦略が……
王都ルドラストームより北に150マイル(240キロ)の所に魔界への出入り口タルタロスゲートがある。その先に魔界第一門があり、その門を前をして一行は立ち竦んでいた。
高さは80メートルもあり、とにかく巨大な錆の門だった。その門の前に10メートルはあろうかと思われる武装した巨人が二十人ほど突っ立っていた。そう、ただ突っ立っていたのだった。
「さて、行きましょう」
魔王がそう言ったのは何度目だっただろうか。
誰も動こうとはしなかった。そして、その視線は狐面の娘に注がれていた。
腕を組み仁王立ちのクロエモエ・アライの表情は狐面でわからなかったが、その足を見れば容易に想像できた。そう、震えていたのだ。
「アンタ、作戦とかあるんでしょうね?」
ついにテレコがクロエモエに詰め寄った。
「ナイ」
クロエモエの声は震えていた。
「ちょっと! ナイってどういうコトよ!」
「ナイものはナイ」
「そうですか。ないのですか……」
魔王はクロエモエに呆れたような視線を送った。
「オ、オマエらが戦えばイイ。最初からそのツモリだった……」
クロエモエはそう言うと、みんなから背を向けた。
「ど、どうするんですか!?」と、ブリトラは言うが誰も何も言わなかった。
もう、誰一人として巨人と戦おうと言う者はいなかった。既に結果は見えていて、戦意喪失で戦う前に勇者の魔王討伐は終わったのだった。
「帰りましょう」
肩を落としエクスマリアが言った。
「いいえ、まだです」
ただひとり魔王は諦めていなかった。
「ちょっと! もう、終わりでしょ! アンナの相手にどう戦おうっていうのよっ!?」
テレコが武装した巨人を指差した。「アレよ! アレ! アレをどうすんのよ!?」と、叫んだ。他の四人も何度もうなずいた。
「そうですよそうですよ」と、ブリトラも首を振った。「手の打ちようが無いです」
「勇者さま~コレばかりはムリゲーですわ」と、エクスマリア。
「はぁーい、そうですぅむりぃでぇすぅ」と、ジンジャーが大きな体を縮込ませた。
「だいたい狼ババアが変身しないのがワルイ」と、クロエモエがジンジャーを名指しで批判した。「狼ババアならあんなの余裕で倒せたハズ」
「でもぉじんじゃぁ変身したくないのぉ」
涙目になるジンジャーを見てクロエモエは睨みつけた。
「ハイハイ、どうせ終わりだからもういいよ」と、投げやりなクロエモエ。「泣くなババア」
何度もババアと言われジンジャーは泣きながら魔界出口に走っていってしまった。
「ちょっとその言い方はないんじゃないの! ジンジャーちゃんに謝りなさいよっ!」
「ウッセーブタ!」
「なっ! ブ、ブタ!?」
「ハイハイ! そこまで! そこまでよ!」と、ブリトラが叫んだ。「勇者様が何か言いたいそうです」
「まずはテレコ」と、魔王はメガネの縁を撫でた。その表情はずっと無表情のままだった。
「ハイッ!」
「ジンジャーを連れ戻してください」
「ハイッ!」
テレコは大きな体を揺らしジンジャーを追っていった。
魔界には七つの門があって、その先には巨大な城が聳えている。魔王のいるロイエの間にたどり着くまで多くの敵を倒さなければいけないのだ。それは気が遠くなりそうな話である。いかにかつての勇者アルマスと五人の仲間たちが偉大なのか容易に想像できよう。
あの勇者アルマスたちでさえ一年もかかったのだ。ましてや、このメンバーでは百年かかってもたどり着けないだろう。誰もがそう思っていた。ただ一人この魔王を除いては。
「みんな揃いましたね。では、行きましょう」
魔王は意気揚々と口を開いた。




