Episode-57
水面に上がったアリーチェは、涼しげに岩の上に登り髪を絞った。その目は横で仰向けに寝そべっているシーナに向けられている。労わる優しい目だ。そっとシーナを抱きかかえると日向まで運び、シーナの顔に張り付いた髪の毛を優雅な手つきで顔の横に流した。そして額に口づけした。よくやったわねシーナ。あなたは神秘と、自然と繋がった。
アリーチェは自らが生きる使命をやっと見つけた気がした。エヴァーツィと恋に落ち、愛という絆こそが全てだと思っていた若かりし時、駆け落ちしたものの愛は同時に苦しみをもたらした。守人として自然から離れ俗世で暮らすうちに、命に色がなくなっていくような感覚が、心の目を逸らした暗闇で鍾乳石のようにひっそりと積もっていった。
守人の生き方――命の調和を守り、命の流れに身をまかし感謝をする生き方を懐かしむ時間が増え、それを捨てた自分に疑問を抱くようになっていた。だが、守人という型から外れたにも関わらず、こうして〈大いなる命の流れ〉の一部に触れている。目の前の大人と呼ぶには早い娘が、〈大いなる命の流れ〉にとってどれほどの存在なのかはわからないし、その重要さは関係ない。やっと見つけた使命、私がこの娘にしてやれることをするだけだ。
アリーチェは優しくシーナの額に指を乗せて目を瞑った。さぁ、起きなさいシーナ。




