10.起こさせたくない予知
学園祭まで残り僅か。
柊と佐藤の休憩時間がほぼ同時刻だったので、久しぶりに五人揃うことができた。
いつもの鍵部屋に行こうと校舎の中庭を進んでいく。
「進み具合どう?」
主語が抜けてるが、学園祭の準備のことだろう。
宮本が佐藤の方を向いて質問する。
「ぼちぼちかなぁ……チアのダンスっていってもわたしは上に登ったり下で支えたりしないから」
「人を持ち上げるなんて、危ない。佐藤のが怪我する」
「……持てるもん!」
「想像できるかって言われたらできないかも」
「ぅっ……」
佐久間、宮本の二大攻撃に声が小さくなっていく佐藤。
確かに、上に登って足を上げる姿も、下で支える姿も佐藤では想像することができない。
上から落ちるかも、下で支えて腕が赤くなるかも。
本当、佐久間は佐藤に対して過保護になったな。
「要人は?」
佐藤の解答に満足したらしく、今度は俺の横を歩いていた柊に拳で作られたマイクが当てられる。
「衣装、できたんだ。それで練習してる」
「おおー! ついに!」
「ね、ね、歩夢は? テニスってなにもなし?」
先程まで質問されていた佐藤が、逆に宮本に質問する。
「テニスはなにもないと思うよ! 分からないけど」
「え?」
「辞めたんだ、テニス部」
驚いた。あんなに人気だったのに。
まだ一年で九月なのに、辞めてしまったのか。
「バイト忙しいの?」
「バイトなんてしてないよ~。そういえばカフェでバイトしてるって噂流れてたっけ」
宮本と佐藤が早歩きになり、先へ先へと進んでいく。
佐久間はそれに続こうと少し早足になるが、俺は柊に合わせてそのままのスピードで歩く。
「お前なんか最近近いな」
「え、そう……かな」
「なにかと隣に来るし、なにか隠してるだろ」
さすがに勘付いてきたのであろう。
図星をつかれる。
「……隠すって……なにを」
「例えば、そうだな……今のゲーム。ホオズキのこと」
的中だ。
ホオズキのことで……隠してる。
「……なんだ、図星そうだな」
「そんな、こと……」
「俺には言えないこと? それとも、近くに他の奴がいるから言えないこと?」
言ってくれないのが裏切られたとでも思ったのか、心なしか悲しそうな顔で言い寄られる。
そんな顔されると話さないわけにもいくまい。
裏切ったわけではないんだ。
そんな顔させたかったわけでもないんだ。
「わ、分かった! 話すよ」
ただ、あの映像が現実に起きてほしくなかっただけで。
***
結局、鍵部屋で見たことを四人に全て話した。
「……要人が、倒れる……」
驚いた顔で佐藤が言葉を繰り返す。
「問題ないよ。俺が倒れるわけないだろ」
柊が俺の背中をバシバシと叩く。
「海上なりに心配してくれたんだよな? ありがとう」
「いや、お礼言われることはなにも」
演技の練習を見たり、移動するときに隣についていたりしただけで。
守る、というよりただ単に傍に居ただけだ。
「海上君は要人を守りたかったんだね」
「ッ!」
図星をまさかの佐藤に付かれる。
「ぇ……図星?」
「…………」
冗談半分で言った言葉が図星だったため、佐藤も目を見開いている。
俺は俺で、なにも言い返すことがない。
「だからお前、最近距離近かったんだな」
「……そう、です」
「ならもう大丈夫だよ。そんな映像にならないよう、俺自身で無理を調整するから」
「大丈夫、とは?」
「もう守らなくていいよ、て。大変だっただろ?」
行動をずっと見ていたので、大変じゃないと言えば嘘になる。
でも俺は。
「守るよ、せめて学園祭が終わるまでは」
頭で考えてることより口が先に動く。
引き下がると思っていた柊も驚いたらしくたじろぐが知ったこっちゃない。
「え、でもお前」
「バイトは学園祭までない。三組の出し物は展示だから人はいらない。ダメか?」
言われる前に、選択欄を潰しておく。
どうせ、学園祭までは暇な時間だ。
「……海上が面倒じゃなければ」
「面倒なんかじゃないよ」
「そうか、ならそのお礼に最高の劇してやるから楽しみにしてろよ」
柊にしては割りと早く観念したな、と思う。
「……楽しみに、してるよ」
この言葉に嘘偽りはない。
演劇部のステージはただでさえ学園祭の大目玉。
先生も生徒も、一般の人も目をつけている。
本当に、楽しみにしてるよ。
「最高の席用意してねっ、要人!」
「だったら予約しておけよ、歩夢」
「んーと、前方の席を四人分で……それでいい?」
「俺はどこでも」
「俺も」
「わたしもその席でいいよ! わたしもステージ上がるから移動しやすい席がいいかな」
「じゃあ前方の端っこで! 予約してもいい?」
「前方の端な。分かった、予約席にしておくよ」
「ありがとう要人! 楽しみ!」
その約束をしたのが三日前。
「当日の楽しみにしてろ」とのことなので柊の練習はあれ以来見に行っていない。
夕方まで残る柊と佐藤に別れを言い、俺と佐久間の二人で下校する。
いよいよ明日は学園祭。
みんなの頑張りが、報われる時――。




