11.学園祭
「いらっしゃいいらっしゃい!」
「コワーイお化け屋敷だよ~!」
「男装女装喫茶はこっちだよー! 寄ってかないかい?」
「さあさあ寄ってってー!」
「おかえりなさいませ、ご主人☆」
クラスによって出し物が違うため、それぞれ別の宣伝をしている。
柊のステージも佐藤のステージも午後の部。
午前中は自由行動できるらしいので全員で回ろう、そう言い出したのは宮本だ。
「んー、甘い!」
外にある屋台でわたあめを買った佐藤が感想を述べる。
「砂糖の固まりだからな」
「佐藤だけに?」
「…………っく……」
寒いギャグをぶっこんできた宮本に、一瞬だが回りの空気が凍る。
そんな中、佐久間のみ笑いを堪えていた。
「……佐久間君?」
「笑ってない笑ってない」
「佐久間君の笑いのツボ発見~」
「笑ってない」
「あんまり笑ってない言うのは逆効果だぞ」
「……ごもっとも」
うん、いつもの感じだ。
柊の様子も好調。あの映像はもう起こらないと思っていいだろう。
「じゃあ俺らはそろそろ準備にかかるからステージ行くな」
時刻は十一時半。
昼食も着替えもあるだろうしそろそろ集合時間なのだろう。
「……頑張って」
ステージ解放は十二時半。
予約席だから早い者勝ち勝負もしなくていい。
ギリギリまで他を回ろうか。
「千君、佐久間君! 次はあっち行こ!」
手を引かれた先は美術室。
「美術室?」
「美術部員のイラストが展示されてるんだって! オススメされたの!」
俺の手を引く反対側の手には紙が一枚。
大きく描かれた美術部展示会という文字とイラスト。
ああ、これは女子が好きそうだ。
ガラリ、と中に入る。
机の上や壁、黒板に貼られた作品。
闇夜の中で星が輝くイラストもあれば、太陽目指して咲き誇る花のイラストもある。
その中の一つである桜のイラストに目が釘付けになる。
まだそこまで高くはない、成長しきってはないが綺麗に咲いた桜の花びら。
どことなく懐かしい香りのする桜がキャンバスの中央に描かれていた。
「千君は桜がお気に入り?」
「……これ、この高校の?」
「んー、そうなんじゃないかな。この桜、見覚えあるもん」
「へぇ」
「綺麗な桜だな」
桜に見惚れていると宮本と佐久間が両隣へ来た。
「咲き誇ってはないけど、思わず見入ってしまったよ」
「確かに……桜って懐かしい感じする」
「俺もそれ思った」
「千君、佐久間君! もうすぐ十二時だからご飯食べに行こうよ~!」
宮本の声にはっとする。
「そうだな、そろそろお腹も空いてきた」
「体育館で腹鳴ったら大変だもんな」
「屋台行こ! 焼きそばとかクレープとかアイスもあったよ!」
後半はご飯というよりおやつだ。
外に出ると、いい匂いに思わずお腹が鳴りそうになる。
それぞれ食べたい物を買って食堂へ行こう、とのことなので俺は早速たこ焼き屋の列に並ぶ。
案外空いていたので、三人の中で一番早く食堂に着いた。
分かりやすい場所で適当に座ろうと空いている席を探す。
「千君早かったね~!」
暫く待っていると、クレープを片手に宮本が手を振りながら近付いてきた。
佐久間が来る気配はまだない。
宮本に聞きたいことが一つ浮かんでくる。
自分の真向かいの椅子に宮本が座ったのを確認して、口を開く。
「宮本、一つ聞いていいか?」
「なぁに?」
「宮本が火傷を負った時、保健室に行く途中で俺になにか言ったよな? あれ、聞き取れなくて」
「聞き取れなかったんだ。だからなにも言ってこなかったんだね」
「言ってこなかった……ということは、なにかの相談だったのか?」
「相談じゃないよ。千君は、本当に優しいねって言ってたの」
「……なんだ…………それ」
そのために、ずっと悩んでいたのか。
そう思うと肩にのし掛かっていた変な重みが消える。
「そうそう、優しいねって言うとなにか否定的な言葉言ってくるはずなのにおかしいなって思ったの」
「優しくなんかないし、いちいち言わなくてもいいよ」
「優しいよ。ずっと前から、ずっと優しい」
ずっとずっと、て……と心の中でツッコミを入れる。
その後、焼きそばと唐揚げ、その他諸々を持って佐久間が食堂に来た。
辺りを見回して俺たちを探しているようだったので、立ち上がって手を軽く振る。
するとすぐ気付き、机の上に買って来たものを乗せた。
「わぁっ、沢山買ったんだね。さっすが男の子! それに引き換え、千君は少食だね~」
「一応、たこ焼き四つか六つで選べるところを六つにしたんだけどな」
「……唐揚げやろうか?」
「いいのか?」
「ん」
短い返事をし、紙コップに刺してある串刺し唐揚げを一刺しくれた。
出来立てなのだろう、まだ湯気が出ている。
「いただきます」
一口かじると肉汁が口の中に広がり、本当に美味しい。
「美味しい……!」
「串に刺してある唐揚げは、小さい頃から好物なんだ。普通より美味しく感じる」
「佐久間、代わりにたこ焼きやるよ」
好物をわざわざくれた優しい佐久間にたこ焼きを一つ取り、焼きそばのふた側に乗せる。
「ありがとう」
「うんうん、仲良いね♪ お姉ちゃんは嬉しいよ」
そのやり取りを見ていた宮本が微笑ましそうに呟いた。
「……お姉ちゃん?」「お姉ちゃん……?」
俺と佐久間の声が見事被る。
目を合わせるとどちらからともなく頷く。
「どちらかというと……妹?」
「姉はない」
「ないの?!」
ふと食堂にある時計を見ると、時刻は十二時半前。
ステージ解放まで後僅か。
そろそろ体育館へ移動しようか。まだ姉か妹かで言い合う二人にそう呼びかけた。




