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数年後、ある国でクーデターが起こった。
国王夫妻が何者かに殺され、しばらくは国も荒れたが、母親の母国に留学していた王太子が妻を連れ、妹王女と共に帰国したことでその混乱も治まったという。
そんな国のどこかの田舎の見世物小屋で、自分を王妃だと名乗る女や国王だと名乗る男、重臣だと名乗る男たちがいたらしい。
「お集りの皆さま、お待たせいたしました! 美しい異形たちの嘘吐きショーの始まり! 始まりー!」
仮面を付けた黒髪巻き毛の道化男は陽気に宣言する。人々はその男の髪が染めたものかカツラだと思った。
何故なら、黒髪巻き毛は黒薔薇と呼ばれる一族の特徴で、夜の世界ではどんな相手も落とすと言われる最高ランクの娼婦や男娼の別名である。闇の世界では某国の王が代々子飼いにしている暗殺者として有名だ。
黒髪巻き毛の者を夜の世界に深く関わる者は敬い、闇の世界の頂点に身を置く者は恐れをなして避ける。あの一族の怖さを知らない者だけが、欲に目が眩んで死に至るその黒薔薇の毒を受けるのだ。
王妃だと名乗る女は被虐趣味らしく、痛め付けられれば、痛みつけられるほど喜んで、とんでもないことを吐き散らした。王太子に対するその忌まわしいまでの残虐な行為を告白するショーに見物人は耳を塞ぎたくなるほど。これが同じ人間だとは誰も思いたくなく、女が異形の姿をしていることに安堵したくらいだ。
王だと名乗る男は「嘘だ」と叫ぶが、重臣だと名乗る男たちを痛め付けてみれば、それを裏付けることを声も高く囀る。
司会の道化師は王だと名乗る男の耳元で囁いた。
「あの女の言うことが正しければ、あなたがあの女に愛を囁いていた間、王子が地獄の苦しみを味わっていたことがおわかりで? それくらいは理解されているのでしょう? 今日の買い手も飛び切りの加虐趣味をお持ちですから、死なないでくださいね。王子の受けた苦しみの分、あなたはそれを償わないといけない。どんな恥辱にも耐えて生きて頂きますよ」
稀代の名君と謳われる若き国王の名誉を汚すような、この拷問告白ショーは、見物人たちが怒り狂い、身分を詐称していた異形たちを殺してしまうまで各地で興行され続けたという。
「愚か者はその愚かしさを永遠に曝け出していてください」
異形たちが殺されると道化師はそれを金銀、宝石で飾った剥製にした。
その美しくも残酷な異形たちは今も好事家の秘密のコレクションとして保管されているとか、いないとか。
ハルスタッド一族らしき人物は娼館で保護されるとハルスタッド一族に連絡が行きます。
つまり、そういう一族です。
ハルスタッド一族らしき人物を攫うのも、闇の世界で生きる人間は誰もしません。
こういう一族ですから。