2 人の不幸で飲むお酒は美味しい
獣人の出生率は人間よりも低い。下世話な話かもしれないが、同じ回数性行為を行ったとしても受精率が人間と異なるという研究結果が出ているのだ。
しかも生まれた子供は女児よりも男児の確率が高い。比率でいうと7対3の割合だ。
男が多い獣人。ならば必然的に一妻多夫になりそうだが、獣人は配偶者を誰かと共有するのには向いていない。
嗅覚が敏感な獣人にとって、自分の妻あるいは夫から自分以外の匂いがすることは苦痛らしい。
幸いなことに、人間と獣人の間に生まれた子供は人間として生まれるか、獣人として生まれるか、はっきりしている。
つまり半獣人のような中途半端な存在は生まれないということ。同じ母胎から生まれた兄妹でも人間、獣人とそれぞれの種族の特徴のみを持った者が生まれるのだ。
そしてここから獣人の国コダの、他国とは違う特徴がある。
【貴族位は獣人しか継ぐことができない】
法律上、獣人と人間は平等とされているが明確に獣人の国には優劣がある。
力こそ正義、人間よりも獣人の方が優秀なのだという考えが根強い国なのだ。
跡取り息子がいたとして、長男が人間で、次男が獣人であれば次男が後を継ぐことになる。
生まれ順ではなく、獣人であるかということの方が優先されるのだ。
そんな獣人の国の社交場では獣人女性は少ないためモテる。その一方で獣人男性はモテない。
これは彼ら個人の問題というよりは男女比の関係から仕方がない部分が大きい。
そのため彼らは他国の女性を嫁にもらうことになるのだが……。
一番彼らが狙っているのはソリティア国の貴族女性だ。
美人が多いソリティア国の、言い方は悪いが没落貴族なんかが狙い目だとされている。
なので適齢期を迎えた婚約者のいない貴族の獣人は、ソリティア国で開かれるパーティーへ積極的に参加するようになる。
……のだが、今回のパーティーに婚約者のいない未婚女性は参加しなかった。”一人も“である。
「な、なぜだ!?」
はるばるやってきたパーティーという名の婚活会場にはお目当ての女性がいない。
適齢期の女性はいる。見目麗しい、可憐な乙女たちが。
けれど彼女らの横には寄り添う、あるいは牽制するかのように婚約者がいるのだ。
仕方がなく肩を落として集まる獣人男性達。
互いに励まし合い、次のパーティーがあるさと声をかけあっている。
それを遠くから眺めながら酒を楽しむのは、もちろんクリスティーヌだった。
「はぁ……お酒が美味しいわ。馬鹿な人たちを眺めながら飲むお酒はどうしてこうも素晴らしいのかしら」
ねぇ、そう思わない? としなだれかかるように横の男性へ甘える。
「性格が悪うございますよ、姫様」
眉を八の字にしながらクリスティーヌのグラスを取り上げる。未成年の飲酒は身体に毒だ。
「アランの真面目ばかー。でも好き」
んふっ、と普段より緩い表情で肩に頭を乗せる。
14歳とはいえ早熟なクリスティーヌの豊満な胸が腕に当たるも、男は一切動揺することなく、慣れた様子で奪ったお酒を飲み干した。
「わざわざ遠地から結婚相手を求めに来たのにぜぇんぶ売り切れ。かっわいそー」
けらけらとなおも笑う。男といちゃいちゃしながらなので、とてもじゃないが他国からの客人を嗤っているようには見えないだろう。
それも計算しての行動なのだから末恐ろしい。
「まさか姫様に仲人の才能があったとは驚きましたよ。たったふた月で国中の未婚女性を調べ上げて結婚、または婚約者を付けるなど聞いたことがありません」
「王家の力を使って調べたんだもの。全て私の力ってわけではないわよ。けどまぁ、確かにとても頑張ったと思うわよ? 実際に会って判断した方たちも多かったことだし」
楽しそうに二人は話す。まぁ主にクリスティーヌが自慢げに話し、アランは聞き役に回っていたが……。
クリスティーヌはイディナと帰国した後、城の中にイディナ用の部屋を作らせると社交場を飛び回った。
お茶会の席ではエリリックの婚約破棄のことを面白おかしく話し個人の意見ですけれど、という注釈を添えながら「私だったら獣人には嫁ぎたくないわ」と告げるのだ。
既に婚約を打診されていた貧乏な貴族令嬢は顔を青くして怯え、そんな彼女らを優しく包み込むように縁談を用意した。
「南方の男爵家をご存じ? 災害で税収が落ちていたそうだけれど、落ち着いたから結婚相手を探しているそうよ。子息の取り組みで商会の売上が伸びているそうで今までの倍は収入があるとか……会ってみない?」
「ぜひ! ご紹介して欲しいです!」
まるでやり手の見合い婆のように家にとって、あるいは本人同士の相性の良い組み合わせを考えていく。
時には見合いの席に同行し、嫌だったらクリスティーヌが断りを入れてあげたり、恋のキューピッドのようにおせっかいを焼いてあげることもあった。
そうした活動を続け、貴族名簿を見ながら未婚の男女をなくしていき、ほとんどの令嬢を結婚させることに成功した。




