着色ひよこ事件
「最近子供を対象にした違法ペット詐欺が横行していたけど」
大山根は電動自転車を漕ぎながらやや後方を走る金子に話しかける
「まさに質より量といった感じで大量に出回っているのが厄介なところだったのよね」
「市場に出回っている違法ペットを回収するだけで人員を割かれてしまって元締めを捜索する暇がなくって本当大変だったわね」
「でも先日の港守の事件のおかげというべきかしら、コロニー警察から非公式ではあるけれど、闇の販売ルートについての情報が随分と流れてくるようになってね」
「ようやくココを突き止めることができたのよ」
「ひー ひー ふー」
「下層とはいえ ひー 人口の多いこんな所に ふー よく大量生産工場が造れた ひー ものですね」
モーターのアシストを受けているにもかかわらず金子は既に息も絶え絶えであまり会話をする余裕もなさそうだった。
「警察が先行して現場を押さえてあるようだけど何処かにまだ犯罪グループの人員が隠れているかもしれないから気を付けてね」
説明している内に現場到着するとそこでは警察関係者が違法ペット生産工場で働いていた者たちを連行しているところだった
プレハブ小屋を思わせるツギハギだらけではあるが、かなりの敷地を有する平屋の建築物が堂々とそこに建てられていた。
よくも今迄見つかることもなく稼働していたものだと感心するほどだった。
いかにコロニー社会が下層に対して関心を持っていないかが窺える
「ご苦労様です。進捗状況はどうなっていますか」
大山根が護送車両の近くに立つ警官に話しかけると
「ここで作業に当たっていたのは税金を滞納しすぎてマイナンバー端末を抹消されてしまった、ナンバーレスの浮浪者連中のようですね」
「スラム街の住人には我々も手を焼いてはいるんですがコロニー生まれである以上居住権がありますからね、追い出すところがないと言うのが実情ですね」
「彼等はこの後どうなるんですか?」
追いついてきた金子が質問すると警官はややばつが悪そうに答える
「16歳以下の子供は保護施設に送られますが、それ以上は犯罪者として小惑星帯に資源採掘要員として強制労働に出されることになります」
警官は金子の表情を見て言葉を付け足す
「コロニーでは水素より重い物にはすべて税金が掛かるといいますしね」
「今迄、支払いが無かった分と合わせてかなりの長期労働になるのは致し方ないと思いますよ」
「子供の姿が多いようですけど」
金子は連行されている人々の姿を見て言うが
「月の地下街マフィアの下請けをしているのはスラム街で生まれた本当にマイナンバー端末の無い」
「存在しない子供なんですよ」
「人権ない彼らにはチャイルドマフィアとして犯罪者になるほか選択肢がない・・・」
「人権がないって」金子は言葉を失うが
「マイナンバー端末を抹消されてもコロニーの住人であった記録は残っているけれど」
「ここでそんな両親から生まれた子供には何もないのよ」大山根は金子の肩に手を置き感情を出さない声で伝える
「あの子たちはどうなるんですか」
「小惑星帯に送られるわ」
「両親と一緒の方がましと考えるしかないわね」大山根はあくまでも無表情を崩さない
金子が更に言葉を続けようとしたときに連行されていた少年の一人が逃げ出した。
「コラ待て」気付いた警官が追いかけようとするが、
「わたしが行きます」金子が真っ先に駆け出すがかなりの鈍足で、その様子を見た警官が続こうとする
「私も行きます。警察の方々は引き続きココをお願いします。」
大山根がそれを制して電動自転車を走らせる大山根は直ぐに金子に追いつくと叫ぶ
「後ろに乗りなさい」
金子は横を抜き去ろうとする自転車の荷台に何とかしがみつくように飛び乗ることができた。
逃げ出した少年は、長屋のような建物の中へと逃げ込むが大山根は扉が開け放されているのをいいことにそのまま自転車で屋内に突っこんでいく
建物の内部は左右に何段にも積み重ねられたゲージが奥まで続いていてその中にブロイラーがギュウギュウ詰めに押し込まれている数え切れない程の鶏の視線を受けて金子は小さく悲鳴を上げた
少年はゲージの間を走り抜けながらも器用にゲージの前に設置されている卵を受けるガイドから卵を拾い上げながら背後に迫る大山根に投げつける
が、大山根は飛来する生卵をあっさりと受け止めて自転車の前カゴへと割れない様に優しく放り込りこみ
「止まりなさい」
尚且つ警告を発する余裕すらあった。
遂に長屋状の建物の突き当りに達し少年は壁を背に振り替える
背後から追いかけて来る女性が乗る自転車はまるでスピードを落としていない
荷台に乗っている小柄な女性が上げている悲鳴が何か他人事のように耳に入ってくるが少年の身体は逃げようとする意志に反し動こうとしない
「うわーーーー」
壁に大の字に張り付いて悲鳴を上げる
少年の悲鳴に呼応するように自転車の機械的なブレーキ音が響き
自転車の前輪は少年の股の間で止まった
少年は警官につかまれながら護送車両へと放り込まれようとしている
それを見ていた金子に対して少年はいう
「俺たちは生活しているだけだろ生きることさえ許されないのかよ」
「コロニー社会が俺たちに何をしてくれた?」
「飯の種をくれたのはマフィアだけだった」
大山根が無表情で口を開こうとする前に金子が少年の頬を叩いた
「義務も果していないのにコロニー市民としての権利だけを主張しないでください」
「マフィアはあなた達に手を差し伸べたわけではない、あなた達を利用しただけです」
「あなた達は犯罪に手を染める前に先ずはコロニー社会に対して義務を果たすための方法を訊くべきでした」
「確かにコロニー社会は非情です、ですが法によって治世されています」
「コロニーでは大気ですら有料なんですよ、あなた達が呼吸できるのはマフィアのおかげではありませんよ」
「なんだよそれ・・・」少年は怒りに震えているが感情を言葉にするには知識が足りていない
「子供の為を考えるならあなたの両親はスラム街で子供を産むべきではなかった」
金子はつぶやくように言うがその様子を見た少年は
「なんであんたが泣いてるんだよ、そんな悔しそうな顔で」
「泣いてません」
金子とスラムの少年のやり取りを大山根は少し下がった位置から眺めている
少年の腕を逃がさないように掴んでいる警官は敢えてそっぽを向いて知らん顔を決め込んでくれているようだ
大山根にしてみると随分と感情的になりすぎていると思うが金子をたしなめる気にはなれない
と、電動自転車の前カゴに入っている卵から雛がかえり色とりどりのヒヨコがカゴの中に溢れかえる
カゴの中のヒヨコはまだろくに歩き回ることもできず殻の残骸に紛れ鳴き続けるばかりだ
ゲノム編集によってカラフルに色付いてはいるが羽毛が生え変われば皆が白く戻る
コロニーの中層階級の子供はこの着色ヒヨコの卵で珍しい色が生まれるかをゲーム感覚で楽しんでいる
下層の飯の種は中層の子供の娯楽に過ぎない
需要と供給どちらが悪いなどとニワトリとタマゴの問答をするつもりもない
双方の犯罪意識の低さが問題なのだ
子供は飽きれば直ぐにヒヨコを捨てて住宅街が野良の鶏であふれる事となった、本当にいい迷惑だ。
などと考えていると金子と少年の会話はまだ続いているようだった
「これは旧地球世紀時代のアニメグッズで『ホウイチ』の缶バッジです」
「なんだそりゃ」
「未来の世界から平家の破産を回避する為に送り込まれてくる人型ロボットがギターの弾き語りの路上ライブからメジャーデビューを目指す物語です」
「良く分からんが、未来から来ている時点でその平ってやつの未来は決まってるんじゃないのかよ」
少年は学はないが結構、頭の回転は良いらしい
「まあ兎に角。これはビンテージものなんです、あげますからイザって時には使ってください」
金子のセリフに大山根は額を手で押さえる
隣の警官は無線連絡を取っている振りをしてくれているようだ、かなり人の良い方でありがたい
「刑期を終えて帰ってきたら環境保全局の金子「ゴホゴホ」・・・・警官が突然せき込み金子のセリフを妨害した。
何から何まで申し訳ないと大山根は心の中で警官に頭を下げる
「ほらもう行くぞ」警官は少年を促す
「もう会うことはねーよ」少年は警官とともに去っていく
舌を出したその表情に諦念はなかった。
着色ひよこを知らない若い子は
昭和生まれの実際に着色ひよこを買った・・・
飼ったことのある人から話を聴いてほしい
AIに訊くより面白いと思うから




