表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノコログサ  作者: 肺腸
PR
6/6

神隠し事件

その小さな鳴き声に最初に気が付いたのは

仲間内でもやや人見知り気味の大人しい少女であった

クラスメイトの騒がしい会話を聴きながらもほんの些細な沈黙の合間に

助けを求める様な声をとらえることができたのは僥倖ぎょうこうと言えただろう


「いやいやマジだって」

「俺の兄ちゃんの友達のオジサンの仕事の同僚の人が地球からコロニーに帰ってくるときに」

「シャトルの窓の外に人影を見たって言ってたらしい」

大声で話しているのは通学カバンを背負った鼻の頭にソバカスが目立つている小学生の男の子だ


「それって噂の第一宇宙速度婆だいいちうちゅうそくどばばあの事?」

疑わし気に聞き返すのは長い髪を三つ編みにして背に流している女の子だった


「友達のオジサンの知り合いとか」

「絶対に作り話のパターン」眼鏡をいじりながら細身の男の子が反論した


「ネットニュースで話題になってる、地球から月都市への観光客がみんな言ってるとか」

三つ編みの子が同意する


「ソレな」

他の仲間内と比べて倍以上体重がありそうな男の子がケタケタと笑う


「低重力に馴れていない人達は頭に血が上りすぎて幻覚を見るとこがあるとか聞いたことがある」

眼鏡をを掛けた男の子が持論を述べ


「ホンシャはいう事がホントに夢がない」

ソバカスの男の子は眼鏡の男の子を振り返り唇を尖らせる


「ソレな」


「デブりんはそればっかだな」ケタケタ笑っている小太りにも矛先が向くが


「ソレな」当の本人はまったく気にしていないようだった


「おっちーは都市伝説が好きよねぇ」三つ編みの女の子が言うと


「ゆるんは信じないのかよ、これだけ話題になっているのにいないって証拠もないだろ」


「ソレな」デブりんが肯定するように言い


「「いや、いないでしょう」」ホンシャとゆるんは即座に否定した


「なんだよ、ちびこはどう思う・・・って」

「ちびこはどこに行った?」おっちーの声に皆が周りを見回すと


「あそこ」ゆるんが通学路にあるお宮さんの境内を指さす

コロニーの緑化計画として整備された森林公園であるがその敷地内には

小さな鳥居が見えその向こうに小さなおやしろが鎮座しているが

子供たちからすれば誰が管理しているのかも分からない無人の社など遊び場の一つに過ぎない


「くしゅん」ちびこの小さなクシャミが聞こえる


「何してんだー」おっちーはちびこに近づき背後から声を掛ける

「って、どうしたんだソレ」おっちーの声に皆が集まってくる


「なになに」

「え!可愛い」ゆるんがちびこの抱えている小動物を持ち上げる


「猫ですか・・・初めて見ました」ホンシャが呟く


「これが猫?すごーい小さい可愛い!カワイイ!!かわいい!!!」


「ゆるんがおかしくなった」おっちーは呆れたように呟く

「この辺でペットを飼っている住人なんて聞いたことがないけどな」


「ソレな~」


「ホンシャはどう思う」


「生後数か月ぐらいなのかな?迷い猫にしては小さすぎると思うけど・・・」

と何かに気付いたように子猫を指差して

「これって、違法ペットってヤツかも」


「捨てられたの?」ちびこが体と同じ小さな声で言うがおっちーとホンシャの二人は顔を見合わせて首を傾げる


「違法ペットとは言え許可を得ていないだけで、すごく高価だってことには変わらないと思うけど」


「だよな。転売されることはあっても捨てるとは思えない」


「どうするの」ゆるんが子猫を抱きかかえたまま尋ねる


「警察に届ける一択だろう」ホンシャがあっさりと正解を答えるが


「・・・」ちびこが子猫を奪い取るように抱きかかえてみんなから遠ざかる


「ちょっとちびこ」ゆるんが駆けよろうとするがその分、ちびこは同じだけ後じさりした


「くしゅん」ちびこのくしゃみを皆が耳にする

ついさっきまで風邪などひいていた様子などなかったのに、などと思いながらも

おっちーは両手を挙げてちびこに声を掛ける


「分かった。俺たちので飼おう」


「ええ!」


「やばいよ」


「ソレな」


「デブりんはどっちに対して言ってんだよ」


「いいじゃん!ここのやしろはあまり人も来ないし、隠すには丁度いいと思う」

勢いで言ってしまったがおっちーは何だかそれも悪くないとも思った。

「誰か猫の飼い方とか知ってるか」質問に皆が首を横に振る

当然だろうここにいる全員、所謂いわゆる中間層の一般的な共働き家庭の子供たちである

学校の遠足で月都市の動物園に行った時以外で動物など直に見たことなどないのだから


「調べればわかるだろうけど、人と同じもの食べさせてもいいもんかな」

ホンシャの言葉は反対意見と言うよりは単なる確認と云った風だ


「エサの問題かぁ~」

「まあとにかく今日はオレがこの社に泊まり込むんでこの猫の面倒を見る」

「オレんにはホンシャの家に泊まったことにしとくから」

「ホンシャは飼育方法とかを調べて皆に連絡しといてくれ」


「何か食べる物持ってくるから」ちびこは鼻水を垂らしながら笑って言った




それから数日の間は何事もなく、5人の小学生は持ち回りで子猫の面倒を見ていたが

週末に全員が社に揃うはずの日に子猫とちびこの姿がなかった。


「ちびこに連絡が取れない」ゆるんが慌てた様子でおっちーの肩を揺する


「夕べはちびこが泊まり込みの番だったはず」

「何かあれば連絡くらいするだろう・・・」


「そんな暇もなかったのもな」

社の縁の下に潜り込んで中を調べていたホンシャが膝に付いた土を払いながらいった

「地面に穴が開いている、そこから落ちたのかも」


「本当か?どうしてそんなところに・・・」

おっちーが首をかしげていると


「それは興味深いわね、是非とも詳しく話を聴きたいわ」

背後からの大人の女性の声にその場にいた全員が驚き振り返る


「驚かせてごめんなさい。私はコロニー環境保全局違法鳥獣取締り課の調査員なの」

そこには細身で背が高く顔の下半分を肌にピッタリとした薄手のマスクで隠した色白の肌をした女性が立っていた。

少し離れたところにもう一人、同じ黒いスーツ姿の若い女性が境内を見回しているのが見える。

おそらく同じ調査員だろうと子供たちは考えて顔がこわばった。


「違法鳥獣取締り課!」

ゆるんが過剰に反応してしまいその自分の声に余計に動揺を見せる


「その調査員の人が何故ここに」

ホンシャの声もやや上ずってしまっているがそれも仕方なしであろう


「子供相手に腹の探り合いをしても仕方ないし端的に言うわね」

「数日前に違法ペットのブリーダーグループを摘発してのだけれど一人逃げられてね」

「今日ようやく確保したのだけれど、ここの社に子猫を隠していたとの証言があってね」


「・・・・」子供らは蛇に睨まれた蛙の様に身じろぎもできずにいる


「先輩。子供たちが怯えていますよ」

「先輩は顔が強いからせめてしゃがんで目線を合わせてあげて下さい」

少し離れたところにいた若い女性が近くに来て助言する


「言ってくれるじゃない」自分を先輩と呼んだ同僚を振り返り言うと

彼女は改めて子供たちの前に片膝をつき目線を合わせる

「どうにも、深刻な事になりそうだからハッキリというけれど」

「確保したブリーダーの証言では。今朝早く社に隠していた猫を回収に来た時に小さな女の子がいてね」

「女の子は子猫を抱えたまま逃げ出して社の下に潜り込んださいに地面が陥没して下に落ちてしまったらしいのよ」

「大人が入るには穴が小さすぎて、どこからか地下に入る方法を探しているときに私達に捕まったわけ」


「そんな」子供たちが絶句するが

彼女は指を一本立てて見せる


「もともと此処ここみたいな公園は、地下に敷設されている水道の配管や送電施設のメンテナンス用の区画として用意されている場所なのよ」

「地下に降りる場所は判っているからあとはわたし達に任せてくれないかしら」


「おばさんならちびこを助けてくれる?」

おっちーの言葉に彼女は笑いながらも


()()()()()を信じなさい」と声高に言った




子供達は後輩に任せてメンテナンスハッチから地下に降りると、思いのほか天井の低い空間が広がっており、彼女は四つん這いで移動する必要に迫られることとなった。

マスクを少しずらすとクンクンと鼻を鳴らすようなしぐさをする

「むずがゆいわね、近くにいるのは間違いないわ」

マスクを戻し、取り敢えず前方に声を張り上げる

「ちびこちゃーんどこにいるの。返事して頂戴」

「おっちー君たちが心配しているわよ」

点在する非常灯の明かりを頼りに社の真下を目指して進んで行くと

「へくち」とクシャミが聞こえた

「ちびこちゃんいるの」

彼女の声に「はい」と子供の声の返事があった

わずかな光の中に子猫を抱きかかえた小さな女の子が座り込んでいた

「あらあら、鼻水出てるわよ」

「これを付けて」彼女は予備のマスクをちびこにつけてあげる

「貴女も動物アレルギーなのね・・・」

環境を完全管理されているコロニーで生活しているとアレルギー体質であることに気が付かない市民は多い、特に動物アレルギーに関しては一生を気付かぬまま終える事もあるほどだ

彼女の声色に同情がにじむのも仕方なしだろう

天井部分を見ると空調ダクトが外れて垂れ下がっていた

「ここを滑り落ちてきたのね、怪我がなさそうで何よりだわ」

「さあ。戻りましょう」




「さて」

「どうしますか、先輩」

若い調査員は半ば答えを予想しつつも諦め交じりの声色で問う

子猫は既に彼女の背負う猫キャリーバックに収まっている


「ちびこちゃんだっけ」

「落ちた後も子猫と一緒にうごかずにいたのはいい判断だったわね」

「精密機械ある場所で動物が野放しになっているのは非常に危険なことだからね」

「子猫一匹の為にこの辺一帯が停電する可能性があったわけだし」

「もしそうなっていたら、あなたたちのご両親に多大な迷惑が掛かることになっていたのよ。」

そこまで言って調査員の女性は子供たちを見まわす

流石に事態の重さに気付いたのか子供たちは皆が口をつぐみ言い訳もできない様子だった

しかし、同僚の調査員が一応たずねる


「先輩それじゃあこの子達はどうするんですか」


「未成年だし見逃してあげましょう」彼女は言って同僚を振り返る


「隠した子猫を回収に来たペットブリーダーが、その場に偶然居合わせた女の子を目撃者と考えて追いかけていた時に地面のパネルが外れて体の小さい少女と猫が落ちてしまったという体で・・・」


ていとか言っちゃってるし」


「その子はどうなっちゃうんですか」ちびこが調査員の女性に詰め寄る


「一か月ぐらいは預かるけど期限内に新しい飼い主が見付からなかったら処分されるわ」


「そんな」子供たちの間に動揺が走るが女性はハッキリと言い切る


「ペットだろうと、コロニー(ここ)では人の決めた法律に従わなければならない」

勿論もちろん動物にそんなことは判らないでしょう、だからこそ飼い主が責任を持って正しく世話をしなければならないの、それがペットに対しての愛情というものよ」

「ちびこちゃんは軽い動物アレルギーみたいだけれど、症状の重い人は呼吸困難になることもあるのよ」

「地球ではない、造られた箱庭コロニーでは命は平等ではないの、人間原理の中で私たちの生活が維持されていることを覚えていて」


「先輩。こんな小さな子供にその手の説教は難しいのでは・・・」


硝子しょうこ。」

「彼らは経験が少ないだけで感情は大人と変わらないのよ」

「子供だからと、知るべき時に知っている事を教えないのはいけないわ」

同僚を振り返り彼女は本気で言っている事を伝える

そしてもう一度子供に向き合って

「もしあなたたちの誰かがコロニーの社会に疑問を感じるなら環境保全局うち就職なさい」

「その時には」彼女は背後の後輩を指差して

「この渡硝子わたりしょうこが先輩として教育してくれるわ」


「なんで私なんですか」


「その頃には私はもっと出世しているだろうから当然でしょう」

彼女は自信満々に言う


「おばさん」ちびこが一歩前に出て声を掛ける


()()()()()ね」


ちびこは両のコブシを握りしめて言った

「おねーさん。わたし必ず環境保全局に入ります」

「わたしの名前は大山根琴音子おおやまねことねこです。覚えておいてください」


「あら、そう」小さな宣言に彼女は嬉しそうに笑った。

「楽しみに待っているわ」




この作品で云うところの人間原理は

人間ありきの環境こそが世界コロニーである

といったような考え方として調査員の女性は発言しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ