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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
3章:最後の裁判

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初動失敗

「貴様、何故それを知っているのだ」


小隊長の面食らった表情を見て、彼の種が鳩であった事をナウアは思い出した。その表情が警戒へと変貌する前に、ナウアは補足する。


「なんて事はありません。私、その事件の検死に立ち会ったのです。実は被害者のイパレア氏は、死んだふりをして脱走を企てた罪人であったそうですから」

「確かにそう聞いたが、なるほどな。英雄殺しにも興味を持っている様だが、禿鷲(はげわし)の様に事件を貪っているのか?」


ナウアは禿鷲の鳥人を見た事はないが、頭頂部が寂しい禿鷲は屍肉を啄み血を啜る事で名を知られている。死体から魔力が流れ切ってしまうヒト族とは違い、自然界の獣は死後も肉に魔力が残る為、その様な事が可能なのだ。


しかし、その習性が鳥人からは特に忌み嫌われているというのは、ナウアも知っていた。


「そんなところです」


禿鷲と同列にされるのはナウアにとっても快いものではなかったが、何でもない事のように返したナウアに、鳩の鳥人は鼻を鳴らすだけで終わった。


「終わりまチたので、次の方は……あれ?」


隊員を見回したチュユンが、ナウアに目を留める。


「どうチて、いや、誰に聞いてここへ?」

「知っている人にですよ」


手段を聞こうとして取り止めたチュユンに、ナウアは曖昧な回答を返す。


「チッチッ。具体的に誰からか聞かせてください」


勝手に答えを想像してもらう作戦に失敗したナウアは、話自体を放棄する事にした。深掘りされては、検死で関わったという嘘が小隊長に露呈すると考えての事だ。


「聴取の邪魔はしません。ただ、ここにいるだけですから」

「……まあ、それなら」


渋々ではあったが理解を得られた為、チュユンとしてもナウアの存在を咎める理由は見つからない様だった。


「じゃあ最後、スワローテ=イルミアさん。話を聞きまチュン」

「準備は万端よ!」


気を取り直したチュユンは、胸を張り返答したスワローテを伴い少し離れた木陰に入る。その後の小隊の様子が、ナウアにはどことなくやさぐれて見えた。


「さっき戻ってきた鳥人と、スワローテさんが事件の関係者なんですか?」


ナウアが未だ一番近くにいる小隊長に訊ねると、問われた相手は不快そうに嘴を鳴らしながらも答えてくれる。


「戻ってきたのはクロウ=ジルコ。ウチの隊では一番の新人だ。それとスワローテの他にもう一人、マイズ=ノレハを合わせた三人が、事件現場の付近にいたらしい」

「事件現場というと……牢獄ですよね」


ガトレとの面談後にイパレアが死んでいた。ミルモウの言葉を思い出しながらナウアが殺人現場を指摘したところ、小隊長は眉根を寄せる。


「勘違いしないでもらおうか。三人がいたのは建物の中ではなく外だ。それが偶然、牢獄の近くだったに過ぎない」


小隊長が言った通り、本当に偶然であったのなら不幸な流れ弾だと同情したくもなるが、今のナウアは起こった事件に対して偶然を排するつもりでいた。


つまり、その三人がいたのは必然だったのではないかと。


「ですが、三名だけがそんなところで、何をしていたのですか?」

「先に聞いた話だと休憩していたらしい。まともに話を聞けたのはスワローテだけだが」

「どうしてスワローテさんだけなんですか?」


むしろ、先程スワローテから話を聞いたナウアからすれば、他の人物の方が信頼に足る話をしてくれるのではないかと感じられた。


そんなナウアの疑念に、小隊長はさも当然の事だとでも言う様に淡々と述べる。


「まず、クロウは臆病者だ。ウチに配属されてからは、いつも誰かの背中に隠れてばかりで、まともに話も出来やしない。使い物になる頃には、私の翼が折れているんじゃないかと思うくらいだ」


小隊長とナウアから見られている事に気づいたらしく、クロウは他の隊員の背中に隠れてしまう。その様子から、ナウアにも話を聞き出すのは一苦労なのだろうと想像ができた。


「では、もう一名、マイズさんでしたか。そちらはどうですか?」

「話せばわかる。おい! マイズ、こっちへ来い!」


マイズと呼ばれて近寄ってきたのは、白い翼と黒い首を持ち、額の付近が赤く染まった鳥人であった。ナウアは知識と照らし合わせ、この鳥人の種は鶴であったはずだと診断する。


「マイズ。今日は三人で何をしていたんだ?」


小隊長に問われたマイズは、口の代わりに翼を開いた。そして、その場で一回転すると、足を組み替えつつ、腕を空に向けて伸ばしたり、跳ねたりしながら、後方に五歩分ほど移動した後、立てたつま先を軸に五回転しながら元いた位置に戻る。


それから深く一礼するマイズに、ナウアはどうして良いのかわからなかった。拍手しようかと腕を持ち上げかけてみるも、その行動の正当性が判断できず、最終的には小隊長に現状の説明を目で請う事にした。


「ご覧の通りだ。マイズは言葉で語らない」

「もしかして、話す事ができないのですか?」


五感のいずれかを失った者は、代替となる会話の手段を模索する事がある。この鶴の鳥人も、そうした人なのではないかとナウアは考えた。


「語るのに言葉は不要。マイズは身体で示すのみ」

「普通に話せるじゃないですか!!」


が、ナウアの考えは凍てついた水の様な声に否定された。


「本人も言った通り、マイズは言葉や意思を踊りで示したがるんだ。面白いだろ? しかし、ただただ面倒だ。時々、さっきみたいに言葉をくれる時もあるがな」

「なら小隊長の権限で話す事を強制すれば良いじゃないですか」

「それは無理だ。というより、したくないな。鳥人は空を自由に飛ぶ事の喜びを知っているのだ。言い換えれば、拘束される事の不自由さも理解しているという事だ。故に私は仲間の意思を尊重したいと考えている」


道理でスワローテも自由に振る舞えている訳だと、ナウアは納得した。同時に、隣の虎人は納得していないだろうなとも考えたところで、ドリトザが鼻を鳴らす。


「ふん。自由とは、規則の元に平等であるべきだ。不自由があるからこそ自由を感じる事ができるのであって、不自由なき自由に尊重する必要性などない」

「規則とは不利益を回避する為の手段を簡略化したものに過ぎない。盲目的に規則の遵守のみに励むのは、不自由ではなく思考停止と言うべきだろう」

「なんだと? その言い分は自己利益のみを追及した詭弁にしか聞こえないな」

「どうやら鈍化した頭は何もかもを形骸化させてしまうようだな」

「ちょ、ちょっと待ってください! こんな所で言い争っても、何にもなりませんから!」


白熱していくドリトザと小隊長の言い合いを、ナウアは無理矢理に収める。とはいえ、出来上がった険悪な雰囲気はすぐに振り払えるものではなく、ナウアは他の隊員からも敵視されているのを感じた。


「とりあえず、英雄殺しの話を聞けて良かったです。ありがとうございました。また機会があれば、お話を聞かせてください」


これ以上、この場で話を聞き出すのは難しいだろうと考えて、ナウアはドリトザの右腕を引いた。


ドリトザもようやく落ち着いたのか、バツが悪そうに口を開けた後、何度か左腕の毛繕いを始める。


去っていくナウアは振り返りながら頭を下げる。それに合わせて、ナウアはドリトザも首を曲げたのを確認すると、行き先も決めないまま、ひとまずその場を離れる事にした。

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