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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
2章:医圏管師は希う

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医圏管師は乞い願う

中途半端なところで更新に時間が空いてしまいすみませんでした。寒さや色々なものに負けて冬眠しておりました。

証言台には複数の人間が並んだ。


この事件の被害者であり自作自演を疑われているイパレア。生まれたばかりの子を失いながらも、共に子を成した相手を支えるサラエ。そして、事件の協力者として告発されたストウ。


決して寒くもない法廷で、三人はいずれも体温を奪われた様な面持ちを浮かべる。強張り、青ざめ、怯えていた。


「片足のない被害者への配慮により、異例ではあるが証言台に三人の証人が並ぶ事となったが、求める事は変わらない」


アミヤは木槌を叩き鳴らすと、証言台を見下ろした。


「ストウ=ザナトリクス医圏管師よ。貴公は今、代弁士から本事件における協力者であると告発されている。本事件がイパレア氏の自作自演であり、動機が脱走であると結論づけられた場合、当然その協力者にも罪が及ぶ。理解した上で、代弁士への反論となる証言をする事」

「わかりました。証言しますよ」


虚勢を張るかの様に、ストウは苛立たしげな声を出すが、アミヤに射竦められて肩を縮めた。


「はぁ。……私が故意に誤診したという事実はありません。被害者は冬眠していたとの事ですから、脈拍が低下していたのは事実ですし、言い訳の様ですが誤診しても仕方ない状況です。そもそも、私には被害者の脱走に協力する理由がありません」

「異議あり!」


ガトレが雲をも掴めそうな勢いで天に向けて手を伸ばす。


「理由はあったのではないでしょうか。例えば、イパレア氏と利害が一致する関係にあれば、今回の事件にも協力したはずです」

「はっ。脱走する兵士と利害が一致する事などあるはずがないですよ」

「ナウアを追い出すという点で、一致したのではないですか?」


サラエが子供の存在に執着したのと同じく、ストウはナウアを追い出す事に執着していた。それは、イパレアを殺害した動機として証言を行った事からも明らかだ。


「今回の事件で、ナウアを犯人役に仕立て上げたのは意図的なものでしょう。ナウアにはイパレア氏を殺害する動機がなく、イパレア氏もナウアに罪を被せる動機はなかった。この接点を結ぶ存在は、ストウ氏を除いていません」


ガトレはこの審議の序盤に追い詰められる要因となった強力な動機を、ストウがイパレアに協力する動機として切り返す。


「ふん。たかが一人の医圏管師を追い出して何になりますか。言われなければそんな事にも気づかないのですか?」

「残念ながら、心当たりはあります」

「なんだと?」


ガトレの物言いにストウの眉根が寄るも、ガトレは意に介さずに続ける。


「今回の脱走計画は綿密に組み立てられていました。私の推測が正しければイパレア氏は欠損した脚を保持していた事になり、であれば故意に脚を失ったのだと考えられ、計画もそれ以前に立てられていたと考えられます」


ガトレは語りつつ、アミヤに視線で問いかけると、アミヤから賛意を示す頷きが返された。


「代弁士の主張は一理ある」

「ありがとうございます。また、魔術陣の発動も自身で行っていません。これは、つい先日になって使われ始めたばかりである、魔力紋採取機を意識した行動であると考えられます」

「…………」


証言台にいるサラエが顔を背ける。ガトレは自身の想像に間違いがない事を悟った。


「恐らく、サラエ氏が話したのでしょう。火柱の裁判について、ナウアから聞いていても不自然ではありません」

「……確かに、話しました」


サラエは諦めた様子で頷く。次に顔を逸らしたのはイパレアだった。


「つまり、魔術陣の対策の為、身勝手に子供も作ったのです。全て、計画の通り。だとしたら、検死についても医圏管師が気づかない偶然に頼る事なく、必然を狙ったはずです。実際、立ち会ったのがサジ殿であれば欺けなかった事でしょう」

「まあ、事前に言われなければ気づかなかった可能性はあるがの。ただ、魔力循環器を負傷していないなら、死亡判断は慎重にすべきじゃろうて」


サジは目を眇めてストウを見下ろす。ストウは呻き声を上げてから顔を腕で覆った。


「衛生門頭が慎重に判断すべきというのに、ストウ氏はその場で死亡判断を出しました。その理由は、事前にイパレア氏から頼まれていたからではないですか?」

「違うっ! 私が軽率だっただけだ!」


ストウが顔を隠していた自身の腕を振り払って叫ぶ。ガトレは口元を緩めて頷いた。


「ええ、その通りですね。あなたは、確かに軽率でしたよ」

「な、なんだ。わかってるじゃないか。そうさ。私は、軽率に誤診してしまっただけだ。そもそも、全て代弁士の憶測でしかない。証拠だってありません!」


徐々に上半身が前のめりになっていくストウに対して、ガトレは緩やかに首を振った。そして、ストウを人差し指で差す。


「いいえ、ありますよ。それこそが、あなたの軽率な行動なのです」

「なっ!?」


身体を仰け反らせたストウに、ガトレは避けさせまいと言葉を武器にして突き付ける。


「イパレア氏を発見した時の事です。あなたは、イパレア氏に治療魔術を使っていましたね。これこそが、あなたがイパレア氏と通じていた確たる証拠です」

「馬鹿な事を! 医圏管師が患者を救おうとするのは当然の事でしょう!」

「そうですね。あの状況でなければ、その通りです」

「……あの状況?」


ストウは、ガトレの言わんとしている事を理解できていない様だった。ガトレは過ちを認めさせる為に、ストウに追憶を促す。


「思い出せませんか? あなたはイパレア氏に治療魔術を使った。その時、イパレア氏の身体はどうなっていたのか」

「身体? ……確か……ぁ」


ストウは両手で頭を支えたまま、擦り切れた様な声を漏らした。


「思い出しましたか? あの時、イパレア氏の身体には杖が刺さっていました。なのに、あなたは治療魔術を使おうとしたのです!」

「むう。それの何がおかしいのですかな。やはり、治療するのは自然な事では?」

「ワシが補足しよう。木の枝や石など、肉体に刺さったり付着した物は、治療しても勝手に体外には出ていかんのじゃ。故に、治療魔術を使い身体を治療する際、不純物が体内に残る様な治療は禁忌としておる」


ミルモウの疑問にサジが返答する。衛生門頭からの説明には説得力を感じたらしく、ミルモウはサジに一礼を返した。


「しかし、軽率な行動を取ってしまう状態だったのなら、その禁忌を失念してしまったとモー考えられますな」

「いいえ。ミルモウ法務官。それはあり得ません」

「何やら確信があるのですな」


ミルモウは不釣り合いに愉快そうな表情を浮かべる。ガトレはそこで、ミルモウが罪人を守るのではなく、追い詰める為に疑問を上げているのだと察した。


「……はい。ストウ氏は禁忌を忘れてはいなかったはずです。何故なら、私が扉の窓を割って負傷した後、すぐに治療を始めようとしたサラエ氏を止めたからです。硝子を取り除いてから治療しろと。直前まで禁忌を覚えており、指摘もしておきながら、身体に刺さった杖を抜くことなくイパレア氏の治療を試みた事は不自然でしかありません!」


ガトレが提示した状況証拠を聞いたストウは、両手で耳を塞いでいた。だが、せめてもの抵抗と思えるその行動も法廷では意味を為さない。


「ふむ。他に目撃者もいるのなら、代弁士の言う通り、ストウ氏の行動は不自然な事。事前にイパレア氏が生存していたと知っていたなら、適切な治療魔術を行わなかった事の説明はつく」

「つまりは、死の偽装モー必然になっていたという事ですな」

「代弁士側はそのように考えております」


これでイパレアの企てはほとんどが明らかになった。ガトレはそう確信する。未だ憶測を裏付ける根拠には乏しいが、明らかに不自然な行動を取っているストウを踏み台にしてイパレアを貫く。


「異議あり。被害者であっても構いませんよね?」

「貴公は今、代弁士により脱走の罪を負わせられようとしているのだ。当然の権利と言える」

「是。それでは申し上げますが、私がストウ氏に誤診を願ったとして、果たしてストウ氏は協力するものでしょうか。代弁士の主張では被告人に罪を被せる為に協力したとの話でしたが、嫌いな相手を追い出す為に、今後の医圏管師としての道を断たれる様な選択をしますか? 子供ではないのです。よく考えるまでもありませんよ」


イパレアの主張に同意する声が傍聴席からガトレの耳に届く。だが、ガトレにとっては予想の範疇であり、同時に切り崩さなければならない最後の壁であった。


「異議あり。代弁士側には、ストウ氏がイパレア氏に協力するに値する動機を持っていたと考えており、説明の用意があります」

「よろしい。では、代弁士はストウ氏の抱えていた動機について説明を果たす事」

「是。まず、ストウ氏について不可解な点として、被告人のナウア氏に対する執着が挙げられます。きっかけとなったのが、医療事故として片付けられ、ストウ氏の証言でも語られた終人010にあることは間違いありません」


医療事故となった背景には賄賂もあった。認められないものであることは確かだろうが、正義に目覚めての行動にしては、ストウの態度には嫌らしさがあった。嫉妬か、あるいは別の何かか。だが、役職もストウの方が高く、ナウアは治療魔術も使えなくなってしまった。


状況から、ナウアを目の敵にする理由がないのだ。そこに至ってガトレは、全ての辻褄を合わせて貫く弾丸に手が届いた。


「恐らく、終人010は医療事故ではありません。その事件もまた、脱走を目的とした計画だったのだと思われます」

「なんだとぉ!?」


渇きしわがれた声が法廷を打つ。孤独な墓守がしばらく出したことのない声量であろうことは、その場の誰しもが体感した。


「ストウ氏は、計画の立案者か協力者だったのでしょう。負傷した兵士をすぐに回復せずに連れ帰り、死を偽装して安置室へ。そこから先は、今回の計画と同じ流れでしょう」

「おモーしろい話ではありますが、実際に兵士は死んでいたはずですな」

「否。正確には、遺体が発見されなかったために死亡扱いとなったのです。無事に逃げおおせたのなら、その時も遺体はありませんよ」

「ガトレくん。それが本当ならワシも信じたい。じゃが、治療魔術でも回復しなかったと治療したナウア自身が言ったのだぞ。これはどう説明を付けるつもりじゃ?」


サジまでもがガトレの説に反論する。突飛な発想として受け止めたからこそ、すぐに思い浮かばないだけで、冷静に考えればサジも同じ結論に辿り着くだろう。ガトレはそう考えていたが、法廷という場においては利用させてもらう事にした。


「終人010において唯一提出された証拠品は、被害者が出した医圏管師への転属願いでした。そして、私が医圏管師のナウアから聞いた話によれば、医圏管師になるには素質が必要とのことでした。その素質とはもちろん、治療魔術を使う素質です」

「あぁ、まさか、そういう事だったのか。なんという事じゃ」

「サジ老よ。一体何に気づいたのだ?」


頭を抱えるサジにコゲツが問い掛けるも、サジは何も答えない。ガトレは自身に話す権利が委ねられたのだと理解し、代わりに語る事にした。


「サジ卿がお気づきになったのは、ナウアの治療に効果が出なかった理由でしょう。被害者は医圏管師になる素質を持っていた。医圏管師から術式を教われば、治療魔術も使えたはずです。そして、治療魔術とは、自身の魔力を自然魔力に変換し、負傷者へ与えることで回復させる魔術です」

「わからんぞ!? つまりどういう事だ!」

「つまり、被害者は治療魔術を受けながら治療魔術を使うことにより、供給された魔力を相殺したのです。だからこそ、治療魔術の効果がなかった。そして、残った魔力で身を隠し、回復を図りながら逃走した。これが、医療事故として処理された終人010の真実だと思われます」


法廷が水底に閉じ込められたかのように静まり返る。ガトレの話を整理しきれない者、衝撃的な話を聞いて呆気に取られている者、許しを乞うような表情で必死に頭を巡らす者。


それらを差し置いてガトレの視線を奪うのは、氷の様に冷たい表情で、内面に憎悪の炎が滾って見えるイパレアの姿であった。


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