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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
2章:医圏管師は希う

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真実の埋葬

チュユンの手によって、法廷に棺桶が運ばれる。法廷の入口で、他の捜査士官は離れたらしい。


棺桶は引き摺られる事なく、羽ばたくチュユンの両手に収まっていた。小柄な体型の割に力強いなと、ガトレは改めてそう感じる。


そして、棺桶は証言台に置かれ、チュユンが箱を開くと、中にはイパレアが横たわっていた。


「ふむ。遺体にしか見えぬが、生きていると?」


腹の辺りに生えた毛は赤黒く染まったまま。その他の外傷はやはり見られないが、失われたままの右脚が目立つ。


「ワシが確かめよう。医圏管師が判断を違えたとあれば、責任問題じゃからな」


傍聴席から、サジが軽やかな動きで証言台に踊り出した。年老いたと言えど、身体構成の七割を魔力が占めているヒト族は、肉体的な衰えを感じさせない。


サジは長い間、イパレアの手首に指を添えた。その後、瞼を無理やり開いて瞳を観察する。そして最後に、イパレアの身体に魔術陣を描いて、魔力を込めた。


「うわちっ!」


すると、バチっという音と共に、イパレアの身体が跳ねて、太い悲鳴が上がった。


「……これは驚いた」


冷静に驚きを表すアミヤ。一方でサジも膝を伸ばして立ち上がると、淡々と話し出す。


「かなり浅いが脈拍あり。瞳孔の収縮もあった。気付け用の電撃魔術でこの通りじゃ。どうやら、検死した医圏管師の誤診だった様じゃな。代表して詫びよう」


サジは証言台から傍聴席に向けて謝罪した。ガトレは、この原因を作ったストウの方を見る。ガトレにとっては意外にも、ストウは居心地の悪そうな表情をしていた。


「サジ卿、面を上げよ。衛生門に責任の所在を問う必要はない。この法廷において問題となるのは、被害者を害した犯人は誰なのか。その一点である」

「そう言ってもらえると助かるわい。ワシは傍聴席に戻るとしよう」


アミヤの取り成し方に異論は上がらず、サジもまた謝意を失した様子で傍聴席へと戻って行く。


そして、ただ一人、イパレアだけが証言台に残された。


「さて、スソノ=イパレアよ。貴公は療養室において、腹部に金属杖を刺された状態で見つかった。この法廷は、貴公を襲った犯人を裁く場である」

「是。状況について、承知致しました」


イパレアは棺桶の中で上半身だけを起こして、アミヤに礼をする。


「よろしい。そして、裁判を進める中で貴公が生きている可能性を代弁士が指摘した為、ここへ連れて来られたのだ。故に、貴公は犯人について証言する事」

「是。お見苦しい姿での証言となりますが、お許しください」

「あ、アタシが支えます!」


傍聴席から飛び出したのは、妻であるロローラではなく、看護役のサラエだった。


「ああ、サラエ。すまない」

「……生きてて、良かったでっす」


穏やかに笑みを浮かべるイパレアと、言葉とは裏腹な本心の読めない表情をしたサラエ。その二人の様子を眺める無表情のロローラが、ガトレには見えた。


イパレアはサラエの肩に腕を回し、証言台の前に立つ。それが合図であるかの様に、アミヤが問い掛ける。


「では、証人よ。まずは身分を述べる事」

「是。スソノ=イパレア。陸圏管第二小隊所属、役職は小隊長であります」

「よろしい。証言を続ける事」

「是。私は襲われた日、ナウア氏と会話をしていました。しかし、突然、魔道銃をこちらに向ける者が扉の方に現れたのです。私も咄嗟に魔道銃で応戦しようとしましたが、魔弾はナウア氏に直撃。その後、私も男の魔弾で意識を失い、今ここで目を覚ましたのです」


ガトレには、あまりにも適当な言い分に見えた。

イパレアはこの法廷で行われた議論の内容を知らない。故に、事前に話す内容を決めていたなら、その内容を変える事はできない。


ガトレは、そこがイパレアの隙だと考えた。


「ふむ。犯人は魔道銃を所持していたと。容姿をもう少し具体的に挙げる事」

「申し訳ございませんが、まだ頭が混乱しているようで、思い出せません」

「致し方あるまいな。しかし、犯人が被告人でない事は証明された。故に、被害者の体調が回復次第、聴取を進める事」

「異議あり!」


アミヤが小槌を振り上げた瞬間、ガトレは声を張り上げた。


「代弁士よ。何事か」

「被害者の証言は正確とは言えません。一度、尋問をさせて頂けないでしょうか」

「しかし、被告人は罪を逃れたのだ。あとはもう、真犯人を被害者から聞き出すだけで良いのだぞ?」


アラクモの時と同じだとガトレは思った。異なるのは被害者が生きており、犯人を追求する手立てがあるという点だ。


「モー、代弁士に任せてみてはどうでしょうか」


ガトレが反論を考えている間に、ミルモウから助け舟が出される。


「ミルモウ法務官よ。それは、どういう意図によるものか」

「仮に、襲撃者が別にいたとして、被害者は意識を失っていたと主張している以上、その後はどうなったのかわかりません。モーしかしたら、目を覚ました被告人が真犯人の可能性モー考えられます。であれば、ある程度の疑問は先に氷解させておくべきでしょう」


ミルモウが理由を並べ立てる。ガトレもそれに乗る事にした。


「同感です。ここで被告人の容疑を完全に晴らす事が、代弁士としての役割かと。それに、尋問を進める内に、被害者の記憶もはっきりするかもしれません」


恐らく、ミルモウも真実を知りたいのだと、ガトレはそう考えた。


法務官としてなのか、妻を持つ身としてこの事件に思うところがあるのか、それはわからなかったが、思いは重なっているはずだと。


「ふむ。代弁士と法務官の論には一理ある。ならば、徹底的に話し合ってもらう事とする」


アミヤは改めて木槌を振り上げ、叩き下ろした。


「代弁士に尋問を命じる。証人は代弁士の尋問に回答する事」

「是。答えられる事には答えます」


イパレアとガトレの視線が交わる。その交差点で火花が散った様に感じたのは、この場ではガトレだけであった。


「代弁士より尋ねます。犯人は扉の方にいたという事ですが、扉の外と内側のどちらにいたのでしょうか」

「当然、内側です。驚きましたよ。突然現れたものですから」

「扉の開く音や窓の開く音はしなかったという事ですね」

「もちろん。他に出入りがあれば先に気づけたはずだ」


イパレアは姿のない犯人について、具体的な犯行計画を考えてはいない様だった。立証の必要もないのだから当然か。


恐らく、このまま犯人は永遠に見つからないだろう。適当な容姿を言って、似た者が犯人として捕まったなら、犯人ではないと否定し続けるだけで有耶無耶にできる。


ガトレは、それがイパレアの計画だと考えていた。


「わかりました。このまま話を聞いても無駄な様ですので、ここからは、私の話を聞いてもらいます。話といっても、尋問ではありますけどね」

「へえ。一体、どんな話を聞かせてくれるんだい?」

「今回の事件が、全てあなたの自作自演であったのではないかという話ですよ。何かおかしなところがあれば、好きに否定してください」


本当なら、尋問でイパレアの信用を下げるつもりであったが、ガトレは埒が明かないと諦める。そして、最早、攻め方を変える他ないと考えた。


あとは、俺がどれだけの信用を得ているかだ。


「自作自演だって? まさか、そんなはずはないよ。是非とも、聞かせてもらいたいね」

「ええ。あなたが望んでも望まなくても、話して差し上げますよ」


そして、ガトレはイパレアの犯行計画を語り始めた。



密室で実は被害者が生きていたというのは良くないと思うのですが、ご容赦を。


前話と今話が折り返し地点の様で、二章ももうすぐ終わると思います。

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