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流れ魔弾と救国の英雄  作者: 天木蘭
2章:医圏管師は希う

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開廷:零下の墓標

「それではこれより、ヒト族シラノ=ナウア五等医圏管師を被告人とした裁判を開始する」


ガトレにとって、既に立つのが三度目となった法廷。一度目だけは立場が違っていたが、厳かな雰囲気や錚々たる面子には耐性ができた気がしてきた。


その余裕を持って、ガトレは法廷を見回す。


裁判長はいつも通り鷲の鳥人アミヤ=パルト。法務官席には牛人のミルモウと、その背後にチュユン捜査士官が控えている。


傍聴席の顔触れも、ネッセ王子を筆頭とした賓客や門頭らには殆ど変わりない。


ただ、究謀門からは門頭のピューアリアではなく、副門頭のデリラ=ノザが来ていた。デリラはガトレの視線に気づくと、微笑みを浮かべて会釈したのでガトレも小さく礼をする。


「まず初めに、代弁士に言っておく事。今回、本法廷は代弁士の要望により緊急で開かれたものである。この場にいる門頭の過半数が賛成した為に受理された特例であると心得よ」


アミヤが厳しい声音をガトレに向けた後、鋭い目線をデリラに投げ掛ける。


「……一人、副門頭もいるが」

「たはは……」


デリラは頭の後ろに手をやって、乾いた笑いで流した。


「是。当然、心得ております。特別な計らいに感謝致します」


六人いる門頭の過半数という事は、サジと代理のデリラは間違いないとして、その他にも最低二人が同意してくれたという事だ。


「よろしい。しかし、一個人の要望を反映させる特例が続く事は望ましくない。よって、いかな結果になろうとも、当事件は本裁判中に導かれた結論を正とする」

「是。承知致しました」


つまり、この裁判中に真犯人を明らかにしなければならない。それは、残された時間の少ないガトレにとっても望むところであった。


ガトレは隣を見る。そこにいるのはナウアではなく、梟の鳥人で知識人であるフギルノ博士だ。


振り返らなければ姿の見えないナウアは、今どの様な顔をしているのだろうか。不安そうな表情を浮かべているのなら、心配はないと声を掛けてやるものを。


そこまで考えてから、ガトレは自分の中にある余裕を改めて認識した。それから、誰にも見られない様に顔を下げ気味にして口にだけ笑みを浮かべる。


「ミルモウ法務官よ。初めに事件のあらましを説明する事」


アミヤの声に、ガトレは笑みを消して顔を上げる。ガトレは決して、余裕に足を掬われるつもりはなかった。


「はっ。申し上げます。事件が起きたのは昨日、十と四の日でありますな。十七時ごろに法曹管へ通報が入りました。療養室で殺人事件が発生したとのモーのです」


通報したのはデリラだった。ガトレは自分で用意した時系列の記録を取り出し、通報があった時刻を追記する。


挿絵(By みてみん)


その間も、ミルモウは事件の概要を説明し続けた。


「事件現場は療養棟二階の療養室。現場では冷却魔術陣が発動しており、室内はかなりの低温となっていました。被害者は寝台の上に仰向けの姿勢で、腹部に金属製の杖が刺さっていたとの事。そして、その場にいたストウ=ザナトリクス四等医圏管師により死亡を確認」


まずは被害者と現場の状況。ガトレの認識と相違点もなかった。


「被害者は陸圏管のスソノ=イパレア小隊長。作戦中に右脚を欠損し療養中でした。凶器は腹部に刺さっていた金属製の杖。究謀門の副門頭であるデリラ氏が作成したモーので、魔力を込める事により折り畳まれたり伸びたりする仕組みです」


あの杖は、伸縮の機能のみに魔力を使うという事か。形状を保つ事には魔力を必要としないのなら、使用するのに大した魔力は使わないのだろう。


多くの魔力を必要とするならともかく、この情報は、犯人の参考にはならなそうだとガトレは判断した。


「また、この杖は魔力による誤作動を防ぐ為に、自然魔力を帯びない仕組みになっており、魔力の干渉が起こらない。故に、被害者の身体が魔力で覆われていようと、突き刺す事は可能であったとの事です」

「なんだと? それでは、その杖を使えば誰にでも殺人が出来てしまうという事ではないか!」


アミヤが木槌を使わずに、自身の拳で机を叩く。ガトレの視界では、チュユン捜査士官だけが肩を跳ねさせていた。


「たはは……。まあ、そういう事になりますね。武器の魔力を絶って獣を狩る人達の技術を借りてみたんですけど、俺の失策です。まあ、魔力を帯びてようと、殴れば武器になるんですから、結局は使いようじゃないですか?」


人々や生物の防御力はその者が持つ魔力総量による。その常識は、あくまでも魔力を帯びたモノからの防御力でしかない。


動鉱植物は通常、自然魔力を帯びているからこその常識ではあったが、この事件に用いられていた杖は、その常識を打ち破る存在である。


衝撃は大きかった。


「危険な技術だ! そんなものあってはならない!」

「広く普及してしまえば殺人が加速するやもしれぬ!」

「今すぐにでも技術の封印と各国間での条約を!」


傍聴席で議論が巻き起こる。混乱と焦りが良くない方向へ加速し紛糾した。


しかし、それでも揺るぎない存在こそが、この法廷の長だった。


コン! コン!


落ち着いた音程で木槌が鳴る。隣を見ていた者も、両手を持ち上げて必死さを伝えようとしていた者も、あるいは目を閉じて場の成り行きを待っていた者も、一点に視線を向ける。


「一度、落ち着く事。その話は、この裁判が終わった後に話し合いの場を設ける。魔力の乏しき者でも獣に致命傷を与えられる技術を奪えば、狩猟で生活している者達の命を奪いかねない。故に論は慎重に進める。世界中が連合軍となり結束した今、それが我々の為すべき事」


アミヤが話し終えた途端に、法廷は納得と了解を示す静けさを取り戻した。


ガトレは他の門頭達の反応を伺う。

コゲツは目を閉じて何度か頷きを繰り返し、デリラは苦笑を浮かべ、サジは渋い顔をし、コクコは呆れた表情で手元の紙に書き続け、エインダッハは胸を撫で下ろしていた。


「さて、話が逸れてしまった。ミルモウ法務官よ。続きを述べる事」

「はっ」


アミヤが法廷を裁判の場に戻す。

ミルモウは一切動じた様子もなく、手元に視線を落としつつ話を再開する。


「最初に異変に気づいたのはシマバキ=ガトレ氏。療養室に向かったところ、廊下で冷気を感じたとの事。また、扉の丸窓からシラノ=ナウア氏が倒れているのを発見するも、扉が開かず丸窓を破壊。音を聞きつけて集まった者の内、デリラ=ノザ氏が扉を破壊し、全員で室内へ。この時、扉に鍵が掛かっているのを確認したとの事」


ミルモウの話に間違った点はない。下手な小細工はしてこないだろうと、ガトレはミルモウの事をそう評価していた。


「現場の窓にも鍵が掛かっており、扉と窓以外には出入り口がなし。よって、法務官側は冷却魔術陣の上に倒れていたシラノ=ナウア氏を、スソノ=イパレア氏を殺害した犯人として起訴致します!」


ミルモウは両手で机を叩き、力強く意思を示した。アミヤが頷いてそれを受け取る。


「よろしい。また、参考までに法務官から事前に共有された上面図を提示する」


リザルドの時よりもミルモウの根回しが早いからか、今回は法務官ではなくアミヤが表示させる様だ。


アミヤがデュアリアを操作して机に接触させる。法廷の中央に、二枚の上面図が表示された。


どうやら、一枚目が事件現場とその周辺、二枚目は療養棟自体の上面図の様だ。


挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



ロローラがどの時点で帰宅したのか、ガトレは確認出来ていなかった。一緒にいたミルモウも同じだろうとガトレは考える。


つまり、この上面図に示された各人の位置情報は、特定の時間帯におけるものではなく、あくまでも聴取から導き出された位置情報でしかないはずだ。そうガトレは認識した。


「まずは、法務官側より証人を召喚します。被告人に殺害する動機があった事を証言してくれるそうですな。ストウ=ザナトリクス四等医圏管師」


ミルモウが傍聴席へ問い掛けると、青い短髪のヒト族、ストウが立ち上がった。


「ああ、そのつもりだ」


ストウは嫌な笑みを浮かべながら、証言台へと向かう。



前と同じなのですが、上面図のバランスとかはあまり気にしないでください。画力(?)の問題です。隠し通路はありません。

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