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第26話 怒髪天(下)

俺とジャクリーンさんが座っていた場所が、サラとベレンガリアの2人からは少し離れていたのは幸いだった。

「マルハシ様、私の母が異名を持っているのはご存じですね?」

「ええ、確か、猛者とか何とか」

いや、ちゃんと覚えちゃいるんだけど、異名とかってそんな気軽にペラペラ喋っていいのか判断つかないからぼやかした。屋号とかみたいに個人特定の手段か、箔付け、もしくは本物ガチか。

ジャクリーンさんはにっこり微笑むと、「母からの受け売りですが」と切り出した。

「曰く、この世で最も許せないものが3つあると。

1つ、自分の馬の手入れが出来ない男。

2つ、博打狂い。

そして3つ、人や子供、女性の心を傷つける事。あと食べ物の食べ方が汚い男」

「…3つって言ったのに4つなんですね」

効果音と共にドアを蹴り開けて「まさかの時の〇ペ〇ン宗教裁判だ!」と口上を言っている3人組が脳裏をよぎったがスルーだ。

「そこは私もさっぱりなんです。ですが細かい事は脇に置いて、注目するべきなのは3つめの『人や子供や女性の心を傷つける事』です」

「え、ええ、そうですね。しかし、何をする気なのか教えて頂けますか?危険は」

「危険はありますとも。ちょっと体に傷がつくくらいですが、やる価値はあると思います。昔取った杵柄もございますし」

……このお母さん、放っておいたら相手を仕留めてきそうだ。

「考えなおしていただけますか?きっと別のやり方があります。武力ではなく、知恵で解決しましょう。時に、不躾承知でお聞きしますが……」



「つまり、ウエストが細ければ細いほど、より結婚市場では有利だと。……考えた奴と流行にしようと言い出した奴は馬鹿でしょうか?」


どれほど危険なのか説明するとしたら、ヘーリングの模型があれば最高だがまあどうにかしよう。

皮袋の中に柔軟性のある薄い仕切りともう1つ皮袋を入れ、仕切りを動かすと中の皮袋が膨らんだり縮んだりする。これが普通の呼吸。

次に外側の皮袋を紐で縛って、同じように仕切りを動かす。しかし中の皮袋の伸び縮みは、普通の時と比べて小さい。紐を外す?論外!よって、回数で補う他ない。

おまけに肋骨や内臓にまで変形という深刻なダメージが及ぶ。ここらへんは解剖して確かめるのもアリだが、そう簡単に貴族の子女は自殺しないだろう。

変形からの回復方法は原因の除去、つまりコルセットを外す。


大雑把に噛み砕いた説明だったが、途中で窓のカーテンと留めているタッセル、それに自分の体を使って何とか理解してもらえた。

「まあ、何て恐ろしい。幸か不幸か、母も私も、それにサラもコルセットはしておりませんわね」

すい、と彼女の手が腰に沿って動いたのを目で追う。

「…しっかりくびれてますね」

「ほほほ、私達のは日々の鍛練の賜物ですわ。…前々からコルセットなどやめなさいと忠告したのに、それでも毎日締めていた友人がおりました。もう亡くなってしまいましたが、亡くなってこそ解放されたと思うと少しは楽になります」

故人を悼むように目を伏せ、一瞬寂しそうな顔をしたジャクリーンさんに何と言えばいいかわからず、ごく軽く「お悔やみを」とだけ言った。

「マルハシ様の世界にはこのようなコルセットはありますか?」

「ありますが、腰痛の緩和が主な用途ですね。ごく一部の愛好家はいますが、こちらのように席巻してはおりません。それと国は異なりますが、女性の足を変形させて小さければ小さいほど結婚が有利な時代もありました。が、無事にその国家は滅亡しましたよ。

コルセットは体に悪いという事は何世紀にも亘って医師達が口を酸っぱくして言っていましたが、効き目は薄いですね。やはり根底からひっくり返さなくては。例えば、ドレスの流行り(・・・・・・・)とかで」

「まあ素敵、うふふ。さすがマルハシ様ですね。サラ、ベレンガリア様と一緒にこちらへ。来賢様があなた達にとお知恵をお貸しくださったわ」

……また妙な具合にハードル上げられた気がする。


意外と、流行りはこうして作られるのかもしれませんね。

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