第24話 決闘!?弁護士先生、出番です!
取り巻き連中を相手に捲し立てたあれは口喧嘩、と言っていいのかどうなのか。
とにかく、口論でボコボコにされた腹いせにしては随分と…
「少なくともこの執念を別な方向に向ければいいのに」
「何か言ったか!?」
「何も」
現在、進行形で決闘に巻き込まれて今は室外のちょっとした広場にいる。
いやぁ、相手が白手袋をアイザックの前の床に叩きつけて「決闘だ!」……とする前に、アイザックが相手の顔めがけて白手袋を叩きつけたからね。
驚いて見上げたら、「こういうのは先にやった方が勝ちです」と言っていた。…本当かなぁ。
おまけに騒ぎを聞きつけたサルーンの客達で周囲には分厚い人だかりが出来ている。…俺は見世物じゃないぞ。
第一、決闘って言ったら、映画の『トゥームストーン』で知った『OK牧場の決闘』くらいの知識しかないな。あれは至近距離でバカスカ撃ってたうちに決着ついたが、こっちでは銃じゃなくて剣だ。
これには俺の知識は役に立たない。むしろ剣術だったら俺がアイザックに師事したい。
「せめて弁護士を呼んでくれ」
座っていろと押し付けられた椅子―しかも周囲から一段ほど高くなっている場所に置いてある―で大人しくしながら法治国家の素晴らしさを噛み締めていたら、すぐ近くで決闘が始まるのを待っているらしい男性がきょとんとした顔でこっちを見ている。
灰色の髪―よく肖像画で見る、一部がくるくると巻いた髪だからもしかして鬘なのかもしれない―に明るい水色の目、中肉中背の見た感じは普通そうな人だ。
「どうかなさいましたか?もしかして、王城でお会いした事が?」
「いえ、お目にかかるのは初めてですね。バスティアン・フランソワ・ヤニックです。どうぞバスティアンとお呼びください。以後お見知りおきを」
相手がひらひらと手首を返しながら差し出した厚手の紙。
大きさは葉書や用紙のB7サイズは一回りほど小さく、名前が記してある周囲を唐草模様だろうか、植物系の模様をエンボス加工に金で箔押しした、高級感のある名刺だ。…名前が筆記体というか何というか、ちょっと読みづらい。
「ご丁寧にありがとうございます。丸橋です」
つい習慣につられてお辞儀したが、半分もいかないうちに焦った相手に「どうかそのままで!」と止められては仕方ない。国賓がむやみに頭を下げるなって事なんだろうな。…お辞儀するのが染み付いている社会人にはちょっとキツいかもしれない。
「先程、弁護士をと仰っていたので畏れ多くも声をかけさせて頂きました。それで、何か御用でしょうか?」
「ええ、この騒ぎの収拾をどうつけたものかと思って。
決闘に作法やら何やら色々とあるのは理解しています。しかし死ぬか大怪我を負う程の勝負をして、何になりますか?名誉?体裁?それは後で取り繕う事も可能です。名誉毀損でみっちり絞るとか。
相当に昔の判例ですが、決闘裁判で死んだ人を子細に調べてみたら本当は無実で、生き残った方が犯人だった事件もあります。
腹立たしいですが、非力な私では決闘を実力行使で止められないのは承知です。しかし、世話になっているバラン家の為に何とかしたい。
…今こそ法の力の強さが輝く時だと思いますが、バスティアンさん、いかがですか?」
「………ふふふ、なるほど。最高ですね。わかりました。この依頼、お受けしましょう!」
バスティアンさんは俺が話し終わるまで目を閉じていたが、笑いながら引き受けてくれた。…若干笑い方が悪役っぽいけど、任せて大丈夫だよな?
「それでは、決闘を始める。準備はよろしいか?」
「待った!その決闘、私が預からせて頂きましょう!」
名乗りを阻止する為にヤニックさんが名乗りを上げたが、相手の反応が激烈だった。
「げえーっ!?悪魔泣かせのバスティアン!?」
思わずドラを叩きたくなるリアクションだが、何だその渾名は。
周囲の早口で囁く人達が言うには、「悪魔を泣かせた」「不履行者を地獄まで追いかけ回した」「高笑いしながら完封勝利した後に身包み剥ぐ」とか、これ余計に騒ぎを起こしてないか!?
「ああ、こりゃまずいぞ!」「どうするんだよ?!」「ふざけんな、こんな話聞いてないぞ!」
遂には相手側が盛大に仲間割れして乱闘を始めてしまい、自然体に見せて油断なく待ち構えていたアイザックも完全に呆れて戻ってきた。
「あれはダメだな」
「身内だけどこれは弁護できないなー。一応バスティアンと引き合わせる予定もあったけど、来賢殿はとんでもない運を持ってるらしいね」
……経緯的には全然締まらないけど、まあいいか。




