第23話 価値観の違い
遅くなりました。
まだ召喚されて3日目、しかもまだ午前中なのにこの疲労っぷり。こんな調子だと1ヶ月とか1年なんてもつだろうか。日本にいても過労死、異世界に召喚されても過労死……ぞっとした。
東屋にセットされた椅子で4人がぐったりしていると、椅子にかけてはいないが目が死んでいた侍女が「誰か来るようです」と耳打ちしてくれた。
慌ててぐにゃぐにゃだった背骨をしゃんと直すと、東屋近くにある背の低い植え込みの向こうに現れたのはカムデンだ。
「目星が外れなくてよかったですね」
「ええ全く」
顔は笑顔なのにカムデンの目は全然笑ってないが、まあ想定の範囲内だ。動きが急すぎて警戒されているんだろう。
「あまり怖い目をしないでください。うら若い令嬢もいらっしゃるんですよ。女性の噂話の広がる速さはあなたもよくご存じのはず。ところで、医師にお知り合いはいますか?」
紅茶を一口。香りはいいけど、味はそこまででもない。いや、香りがメインで味は二の次?なら納得できる。
それと、何でそんな「ガードしてたら予想してなかった方向から殴られた」って顔をするんだろうか。
「何故、医師をお探しになるのですか?」
サラが可愛らしく尋ねてきたので「就職しようかと思って」とにっこりしたが、全員の反応は予想と違っていた。
バラン家の面々は表情が凍り、カムデンは顔を片手で覆っていた。吹き出しをつけるなら「あちゃー」がぴったりだ。
「理由を」
「はい?」
「タツキ殿。理由を、お聞かせ頂けますか」
「おい、ちょっと待てくれアイザック。何でそんなに悲痛そうな顔と声をするんだ?」
「来賢殿、あなたの国の事はよく知らないが、この国では火急の件や不名誉な事、あるいは受け入れた先に何かしらの事情がない限り、世話になった相手の家を出る事はそうそうないんだ。
それに、来賢、来勇、この場合はどちらでもいいが、世話した家となると格が上がるし、場合によっては逗留していた部屋を市民へ開放している家もあるほどだよ」
げっ。いうなれば、国賓とかそんなクラスなのか。家に泊めて丁重に扱っていたのに、数日後に「出て行く」宣言されたら固まるよな。
「申し訳ない。お互いに価値観が違うので、誤解を解く為に説明させてください。
私が医師を探していた訳は2つです。経済的な自立、そして立ち位置を見失わない目印。
とは言うものの、経済的自立は当分無理です。引き続きお世話になりますのでそこはどうか安心してください。
目印と言った訳ですが、来勇達は力勝負、体力や若さに任せたゴリ押しに恩恵で前には進めるけど、目印を見失うとどこへ行くか判りません。おまけに若い子の暴走ぶりときたらもう怖い。
私は若くはないし、彼ら程の強力な力や無鉄砲さはないですね。代わりに、後方でない知恵絞っていくつもりです」
「ふうん。自立は自発的に断念してくれたか。よかったよかった。こっちの情報言う前に防御に入らなかったらどうしようかと思ったよ。実は君、狙われているよ」
「さらりと嫌な話を言ってくれますね。3日目で命狙われるって、こちらでは最短記録ですか?」
「いや、最短記録なら確か1時間だ。何代前の来勇か来賢か忘れたけど、王妃に」
「ああもうその先はいりません聞きたくない。うら若い令嬢にそんな話を聞かせたい趣味はない。…取り巻き連中以外、身に覚えがないですが、正解を聞いても?」
「正解だ。あの取り巻き連中が実家に泣いて縋ったようだよ」
「あれ程度で。へぇー」
随分と軟弱なんだな。あの程度なら俺じゃなくても、多少知恵の回る人ならすぐ考えつくと思うのに。
「ついでにもう一つ。医師探しは諦めた方がいい」
「理由は縁故採用、裏金、どちらです?」
「ん?どっちも」
こん畜生。再就職までがハードモードか。金銭的に相当な余裕があるのは救いだけど、その余裕だっていつまで続くか。……アレクサンダーさんに後で「遠慮なく、家計の足しにしてください」ってセラトニア金貨を渡そう。
「じゃあ医師は諦めるので劇作家に画家、弁護士の仲介をお願いします」
「…意外とタフだね、君」
「医療系はタフで機転も利かせないとやっていけませんから」
焼き菓子が盛られた3段組みのトレーの最上段から菓子をとる。あ、ちゃんと美味しい。




