第14話 寝坊とチョロい副官
昨夜は寝付いたと思ったらロベルタさんのベルに飛び起き、足湯と片付けを終えて、部屋に何とか戻った。
ここまでは覚えている。きっと死んだように寝ていたんだろう。
「来賢様、来賢様!起きられませ!」
声の大きさは押さえているが誰かに肩を揺さぶられ、すわ急患かと飛び起きる。
起きた直後に自分がどこにいるか自覚した。
さっきまで横になっていたのは無機質な灰色の自室ではなく、重厚な飾り彫りがされた支柱が天蓋を支えるベッドだ。
叩き起こしたのは昨夜遅く、一緒にロベルタさんの部屋にいたトリスさんだ。何でここにいるんだ。
「まさかロベルタ様に何か」
「いやいやいや、あの後ぐっすりお休みになられてました。今朝は近年一番の晴れやかなお顔でしたよ」
「ああびっくりした」
え、じゃあ何で俺起こされたの?そんな疑問が顔に出ていたのか、トリスさんが早口でだが説明してくれた。
「若が出仕なさるのでお急ぎください。厩番が何とか時間を稼いでおりますが、いつまでもつか。お召し物はこちらに。旦那様のお若い頃の物です」
薄い色のシャツ、暗い色のベスト、灰色のズボンを手渡されたので急いで着換えると玄関へダッシュした。
「お疲れのようでしたので起こさず行こうとしましたのに、トリスめ」
「どうか彼を怒らないでください。起こしてもらって、こうして一緒に行けるんですから」
ジョージの背に揺られ、しょぼしょぼする目とふらふらの頭でマントの後ろにしがみついたままとりなす。執事に限らず、長く働いてくれるいい使用人というのは実際見つけるのは難しいだろう。
「ああタツキ殿、あなたにそう言われては怒りも萎んでしまいます。しかし心配なので、兵を訓練している間は私の副官を付けます。何か必要な物があったら、彼女に言ってください」
「わかりました。見学しながら大人しくお待ちしてますね」
「うぅ」とか何とか呻いてたけど、大丈夫か?
引きあわされた副官はアイリス・マニング。歳は23。背は女性の中では高く170cmはあり、下ろした長い金髪は毛先が緩やかに巻いている。鋭く濃い青い目で上から下までじろじろ見られた後、「弱そう」とバッサリ言われた。
「ええ、騎士の方に比べたら勿論弱いですとも」「え」
牽制ジャブのつもりだったんだろうが、俺の言葉の右ストレートががつんとぶつかった。
予めがっちりと掴んでおいたアイザックさんのよく鍛えられた太い右腕が逃げようとするのと、捕まえておこうとする俺の両腕が拮抗する。
「こちらに召喚されるまでは市井の民でしたから、高度な専門の訓練を長年受けた貴女方には全く歯が立たないです。それに、私の故郷では騎士は今は失われし花形職、しかも女性の方なんて素敵です」
嘘は言ってないぞ。オンラインゲームでは騎士は花形職だしね。俺ゲームやらないけど。
右ストレートの次は優しく相手を持ち上げる言葉。緩急ついた行動に違和感を覚えるも、褒められてどんどんドヤ顔になっている。どうどうアイザックさん。あとちょっとですから。
「そんな強い貴女に守って頂けるなんて光栄です」
「まあ、身に余るお褒めの言葉、ありがたく頂戴しました。マルハシ様、どうぞ大船に乗ったつもりでいらしてください!この訓練の間だけと言わず、何かあったらどうぞこのアイリスを頼ってくださいまし!」
チ ョ ロ い 。
その後、彼女を「アイリスさん」と呼ぼうにも呼び捨てで構わないと言われたのはちょっと面倒だった。
アイザックさんも何故か便乗してきたし。若干恥ずかしかったけど頑張って呼んだら、呼ばれた方が狼狽えるってどういう事だよ。




