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第13話 足湯

生暖かい目で見てくる執事のトリスさんと、緑色の瞳をいたずらっぽく輝かせたアイザックさんにエスコートされ、アイザックさんのおばあ様の容態を診に行っている。

アイザックさんのおばあ様はロベルタという名前で、昔は美貌で名を馳せた美女、という皮を被った猛者だという。何だそりゃ。

家系は母方、つまりジャクリーンさんのお母さんか。

歳は83。こちらの基準では随分な長寿らしいが、現代なら見かけるお年寄りの殆どが70から80代、時々は上下するけど平均がその辺りだ。全然驚かない。



屋敷は外観からは2階建てにしか見えなかったが、隠し階段で上がった先は3階のようだ。

ただし、手燭が2つしかないので光量が足らず、周囲は暗い。しかも断続的なベルの音は目的地から聞こえている。

「手が震えてますよ」

「緊張すれば誰でも震えますよ」

残念だけど幽霊怖くないんだよ。救急外来あるような大きい病院だと年末年始なんて幽霊すら使い倒す白衣の猛者だぞ。涙目で震える男なんてどこに需要あるんだ。


ロベルタさんの寝室に行くと、縺れた白髪に骨ばった手足、血色の悪い身体をよじった老婆がベッドの上から警戒心剥き出しでこちらを見ていた。

「トリス、この者達は誰です?」

「来賢ですが、もしや足が冷えていらっしゃいますか?ならばよく効く方法があります。準備をしてきますので少々お待ちを」

問答無用で言葉の先制パンチと急速離脱で台所に飛び込んだ。

足湯はリフレッシュ効果に発汗作用、老廃物の排出も促すし、相手とのコミニュケーションツールとしても使える。何も言わずにやったらびっくりするからな。

用意するのは、空のバケツと水が入った水差し、水を空ける桶、お湯、そしてタオルも忘れずに。

お好みで塩やアロマオイルを入れるのもお勧めだ。


本当はソファとか椅子でくつろぎながらしてもらう訳だが、しょうがない、臨機応変で行こう。

起き上がった体勢からベッドの縁に腰かけてもらいたいので90度位置を変えるとしよう。

両膝を曲げてもらい、ロベルタさんの両腕はこちらの肩に回してもらって、出来る限りお互いの身体を寄せる。

片膝を乗り上げ腰を落とすと、曲げた膝の下と首の後ろへ腕を回し、数回に分けて移動する。

「変わったやり方ですね」

「でも覚えればトリスさんの腰痛は軽くなりますよ」

「げっ」とか聞こえた気がしたけど、ちょうどロベルタさんを斜め後ろから支えるようにアイザックさんを誘導していたので現場は見ていない。

バケツにお湯と水を入れ、ぬるめのお風呂くらいの温度にして足元に用意した。

声をかけてそっと片足ずつ触れて、バケツへ足を浸す。女性なら膝へかける毛布も忘れずに。

「初めての足湯ですが、お湯加減はどうですか?」

「奇妙だけど、悪くはないわね」

まあまあ好感触らしい。嬉しい。



「もう大丈夫よ。足の痛みがだいぶ楽になったわ」

来た時より随分顔色がよくなったロベルタさんにそう言われ、足湯から上げた足をタオルで丁寧に拭う。

「アイザック、それにトリス。見に来てくれてありがとう。さあ、明日も仕事なんでしょう?早く寝なさい。私ももう一眠りするわ。今度はよく眠れそうね」

やんわりと追い出されてしまったが、少しずつでも良くなればそれでいい。

瞼を糊付けしようとする眠気は、自室へ下がってベッドへ寝たかどうかで完全に意識を刈った。


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