深くより暗きから蠢きすべてを飲み込み
2025/07/20(日) 04-07時更新
[日間]ローファンタジー〔ファンタジー〕 - 連載中
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「ちっ…対ゴ◯ラでも想定した訓練でもしておくんだったな。」
「その場合、ダンジョン警察ではなく自衛隊に入隊すべきかと。あと、自衛隊にス◯パーX IIIを作らせることになりますね。そうすると来年度の我々の予算はゼロです。」
「冗談を言うな。」
「割と本気です。本当にス◯パーX IIIと、メーサー◯獣光線車を投入できれば、どれほど楽かなと考えています。あとは継戦能力的には、M◯GERAですかね。」
「そうかい。だが、現実は非常だぞ。ファンタジーではあっても、M◯GERAは無い。」
「…はぁ、クソったれめ。で、民間人の避難は?」
「逐次完了しています。あと30分で指定区画の完全退避、完了します。」
「よろしい。では、前線は?」
「ダンジョン警察並びに、探索者協会の緊急レイド動員で、氷魔法と電気魔法を使えるものが、交代交代で釣瓶打ちしています。MP切れを起こして、倒れた者が数名。ですが、そのおかげである程度足止めできています。」
地上での事態は、既に探索者協会が統括する範囲を遥かに超えてしまった。警察・ダンジョン警察・自衛隊・探索者協会の合同による、『巨大スライム討伐作戦』が実行されていた。
そもそもダンジョン警察は、ダンジョンにおける治安維持が目的である。そして、その対象は探索者だけではなく、防衛のために危険なモンスターの討伐も当然業務に含まれている。通常想定されているのは『ダンジョン内の治安維持』が主で、次に『(ダンジョン外での)犯罪探索者の取締とモンスターの討伐』である。故にダンジョン警察は、警察組織を源流として、そこに一部自衛隊からの出向部隊と、ダンジョン出現直後から治安維持のために活動していた探索者が合流して発足している。そのため、普段から、警察とダンジョン警察・探索者協会の治安業務は、度々重なる部分が出てくる。
そのため今回のケースも、本来はダンジョン警察か探索者協会の守備範囲と言えなくもない。…だが、スケールが違いすぎた。コトは既に『実際に地上に巨大怪獣が出現したら、どう対応するべきか?』という空想の話を、実践しなければならなくなってしまっている。
本来地上に出てくるモンスターは、低階層のスライムや触手・虫型の危険度が少ないモンスターである。そもそも地上に、ボスクラスのモンスターが出現することは、想定されていないのだ。一方で想定していないのは、警察・自衛隊・探索者協会も同様である。あくまで、通常の活動は『治安維持』や『災害救助』や『犯罪の取締』等が目的なのであって、『巨大怪獣の討伐』を想定した組織は存在しない。
唯一探索者協会だけが、『ボスクラスの集団討伐』で微妙に想定しているとは言えなくもないが、探索者協会が行うそれは、あくまで主目的は『ダンジョン攻略』であり、『ドロップ品の回収』である。ダンジョン内での治安維持に一定の権限はあるものの、ダンジョン外ではその権限は無い。唯一例外としてダンジョン特措法に定められる『犯罪探索者への武力行使』や『緊急事の自己防衛の特例事項』程度しか、地上で大規模な武力行使を行う法的根拠が存在しない。今回の緊急レイド動員も、厳密に法律を解釈すれば越権と言われかねない。(そのため、今回のことは『超法規的措置』あるいは『法律の拡大解釈』が適用される事になるだろう。)
警察は既に自衛隊と協力して、民間人の避難誘導に勤しんでいる。拳銃は、スライムにはまったく歯が立たなかった。それ以上の火力を行使するとなると、もはや自衛隊の領分である。そもそもが、対モンスター戦を想定していない。そのような役割になると、今度はダンジョン警察の領分だからだ。だからこそダンジョン警察がある。では一方のダンジョン警察はと言うと、実銃の類は一部を除き、早々に放棄して、魔法主体の戦闘に切り替えた。今は、警察に避難誘導を任せ、探索者と協力して足止めが目的の「遅滞戦闘」を行っている。これは、初動で一番被害を被ったのが、ダンジョン警察であるということも関係しているだろう。FPダンジョンを包囲していた隊員が、何名も『膨張するスライム』に飲み込まれている。
となると、やはり『対怪獣』は自衛隊の仕事ということになる。国防という目的にも合致して、武力を行使する理由も法的根拠も問題はない。だが今度は、対モンスター戦のノウハウや運用は、ダンジョン警察や探索者協会に劣るという、対モンスター戦への経験と想定不足が、明るみになってしまった。あくまで、自衛隊は自衛隊なのだ。探索者とは違う。これを見て、誰が言ったか、『適格なれど、適任であらず。』と。
ダンジョンとモンスターという新時代の脅威に対して、現行制度は、「三者三様ならぬ四者四様」の有り様を呈していた。そもそもが現在の法制・体制・想定が現在の事態を考慮されていなかったのだが、じゃぁ、今日より前に「対怪獣を考慮しろ」なんて言われても、誰もが笑ったことだろう。それこそ「ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」と返されるのがオチだ。…いや、そういえばファンタジー(アップデート)だった。
つまりはこの一言に尽きる、「対ゴ◯ラでも想定した訓練でもしておくんだったな。」である。
長くなったので分割
新作あり〼
触手 in クーラーボックス(仮)
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