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02.ルーカスタ王国



「えー…ゴホンッ。ようこそおいでくださりました。我らが世界へ!我らのルーカスタ王国へ!」


 十字が描かれた一番長い帽子をかぶっている老人が両手を広げて声を張り上げた。誰よりも立派な帽子だから、きっとここ(・・)を取り締まる長なんだろう。


(足元でぼんやり光る変な模様と、真っ白な服着たおじいさんたち…)


 それが魔法陣と神官だってことは、ファンタジー小説をちょろっと読んだだけの私でも分かる。

場は一向に落ち着く気配がなく、こちらを見て囁き合う神官達。


「またしても二人とは……」

「いったいどちらが」

「いやはや、困りましたな」


 またしても、二人……?


「ねえ、ねえ……ちょっと、」


 いきなり横からツンツンと突かれ、慌てて隣を見る。


「えっ……!?」


 思わず吃驚して声を上げた。

 だって!あの時痴話喧嘩してた、女の人!


「ここ、天国だと思う?」

「天国……?」

「だってアイツに突き飛ばされて死んだんでしょ?私たち」


死んだ……の……?わたし……?

 でも、言われてみればそうだ。この人がぶつかってきて、線路に落ちそうになって、電車がきて、そしてーーぐらり、足元が揺れる。


「ちょ、大丈夫……?じゃ、ないわよね」


 目眩をおこした私を支えてくれたのは、彼女だった。


 綺麗に彩られた爪先が見える。きちんと手入れされた艶のある長いブラウンの髪に、近づくといい匂いがした。私よりも年齢は少し上だろうか。背も高くて、スタイルがいい。本当に綺麗な人だ。


 しかし、そんな彼女の綺麗な顔もよく見れば真っ青で。


「ほんと、あのクソヤロー……」


 呟いた震える声を聞いて、彼女を責める事はやめようと思った。この人だって突き飛ばされて亡くなったんだし、死にたくて死んだんじゃない。


「私、愛沢美月(あいざわみづき)よ。あなたは?」

「あ……藤見真子(ふじみまこ)です」


 よろしくね。そう言って笑顔を作った彼女、美月さんに少しだけほっとする。



「今は、さぞ混乱していることでしょう。簡単にはなりますが、ご説明させて頂きたく存じます。よろしいですかな?」


 神官長のその言葉に美月さんと私、ふたり顔を見合わせると、静かに頷いた。


「我が国では、平和の象徴として百年に一度、この水晶で異世界から女神様を召喚する儀式を行なってきた」


 神官長の後ろに見える、大きな透明の水晶玉。あれで女神となる私たちをここ異世界へと召喚した……やばい。本当にファンタジーの世界だ。ついていけない。


「貴女たちは特異の女神(とくいのめがみ)として、この国に繁栄と平和をもたらす象徴となる、がーー女神となれるのは、どちらかひとりじゃ」


 ぴしゃりと、神官長は言い切った。


 私と彼女を見比べるようにして、またも神官達は囁き合う。あれはどちらが女神なのかの相談をしていたのか。


「そこでじゃ。先代の女神様が、こんな時のために以後召喚する際に女神であることを証明する質疑を残された。この質問に答えることが出来る者こそが次代の女神様である」


 先代の女神様……。

 そうか。私たちはこんな事初めてだけど、この異世界の人たちは百年に一度召喚してきている。先代がいてもおかしくはない。



「これからいくつか質問致しますが、お答えてして頂きたい」



 ごくり。唾を飲み込む。


 異世界にきて、またも面接か。今度は就活ならぬ、女神活。先代の女神が残した問題。いったいどんな問題なんだろう。



「問一、日焼けサロン(・・・・・・)とことん(・・・・)黒く肌を焼いた様を?」



 ……え?このおじいちゃん、今、なんて言った?


 異世界にいる、いかにも聖職者な真っ白お髭の老人から、思わぬ単語が飛び出して思考が停止する。


「日焼けサロン……?」

「それってガングロってことかな……?」

「ほぉ……」


 美月さんの答えに満足そうに頷く神官長。


「問ニ、化粧を鬼の様に盛ることを?」


「鬼メイク……?」

「マンバメイクじゃない?」

「あっ、あー……そーいう……」


 先代女神、絶対ギャルだ……。しかも、その時代の……!


「最後の質問じゃ。その二つを兼ね備えたジョシコーセー(・・・・・・・)を何と呼ぶ?」


「は…女子高生?えー……JK?」

「ふむ……そちらは?」

「あ!わかった!コギャル!?」

「コギャル!正解じゃあっ!!!」


 馬鹿らしい、と溜息をつく私とは裏腹に場は一層盛り上がった。


「お、お待ちくだされ!ハルク皇太子!」

「これは決まったも当然であろう」


 皇太子……それって確か皇位継承の第一順位になる呼び方だ。


(本物の王子様って、どんな感じだろ…?)


 聞こえてきた声の方、立ち上がった一人の男性に目を向けた。


 薄暗い部屋の中、ぼんやりとした灯りに照らされた髪色はヘーゼルブラウン。その上にあるのは、ブルーの宝石がついた小さな冠だ。中世のヨーロッパ風の衣装を身に纏って、白地にゴールドの刺繍がきらきらしてる。


(なんか……、アイドルみたい……)


 ゆっくりと優雅な歩調で、こちらへと歩いてくると美月さんの前で立ち止まった。そして、片膝をつき、彼女へと手を差し伸べると柔らかに微笑む。


「私の名は、ハルク・ルーカスタ。女神様、どうかこの国の皇太子である私と結婚して頂けないだろうか?」

「はい!喜んで!」


 いや返事するの早いな!その手を握り返した美月さんの目が¥に輝いて見えたのは、私の気のせいだろうか。

一層盛り上がる場内に、なんとなく置いてきぼりの私。


 しかし、間違いなく言えるのは。彼女が手を握り返した瞬間に、この国唯一(・・)の女神様が決まったってことだ。



(ほんと、先代女神に言いたい…)



 ギャルの魂は不滅でも、流行ってのは目まぐるしく変わっていくもんなんだよ!!!



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