03.牢屋と紋章
無事、揉めることなく女神も決まり、そのおかげで私は現在牢屋の中だ。
「待って。だからって牢屋に入れる?」
「申し訳あるまいが、私たちではお主を持て余してしまう」
持て余すって……そっちが勝手に召喚したくせに!
神官長に叫んでやりたいのは山々だが、元の世界へ戻ったところでたぶん死んでるし、もしかしたらここは天国の一歩手前、むしろこれは神様からのサービスだったのかもしれない。そう考えると、なんとも言えず口籠る。
「ね、女神二人じゃだめ?一人より二人の方が安心できません?」
「先代の時も二人召喚されたのじゃ。まあ、なんだ……ふたりの相性が悪くての。国に混乱を招き、最終的にひとりの女神が王宮から追放されてしまった」
「つ、追放……」
「異世界からやってくる女神様は、どうしてこうも気が強い女子ばっか……げふんげふん」
まあ……先代女神がマンバギャルだとしたら、相当強そうだ。
「もう一人はどういう人だったんですか?」
「ふむ、確か……トーダイセーと言っておったな」
トーダイセー……トーダイ……東大生か!
マンバギャルと東大生……確かに右と左、太陽と月ぐらい正反対に思える。でも、同じ人間だし……一周回って仲良く出来なかったんだろうか。
「無用な混乱を起こさない為にも、お主には此処王宮ではなく西の辺境にあるガルシア領へと行ってもらう予定じゃ」
「ガルシア領?」
「そうじゃ。広大なガルシア領土を支配し収めるジオン様であれば、お主を余すことはない」
「つまり、そのジオンって人の管理下に置かれるってこと?」
「ジオン様じゃ。まだ若いが財も兵力も、それらを纏め上げる才能もある。なんとも素晴らしいお方じゃ。ジオン様の元で過ごすのが、お主にとっても良い話だと思うが、果たしてジオン様が受け入れてくれるかどうか……。今は返答を待ってる次第じゃ」
「でも許可が降りても、管理下に置かれて下手したら一生牢屋暮らしもありえるんでしょ……」
私の言葉に神官長は眉を下げて私をみた。ちょっと不憫そうな表情だ。
「あとでワシのお気に入りのふかふか座布団を持ってきてやるから、ちと我慢してくれんか…?」
たぶん、悪い人ではないんだろう。それなのに牢屋に入れるということは、言った通り対処に困っての、この処遇なんだと思う。
(わたし、噛み付いたりしないのに……)
神官長は皺のあるヨボヨボの指で、牢屋の壁にあるへんてこな紋章を指差した。
「あの紋章は、まだ我々人間が魔法を使えた時代に作られたものじゃ。ある人は炎を操り、ある人は氷で見事な城を作り上げた。それぞれが皆、何かしらの特異を持っておった。しかし、それはもう何百年も前の話。今や持っている人間は一人もいない」
なんだ……ちょっと残念。
せっかく異世界、しかも憧れたファンタジーの世界だと思ったのに、もう魔法が滅亡しているなんて。
「唯一、それを持っているのが異世界から召喚した女子じゃ」
「え……!?じゃあ私は使えるってこと……!?」
思わず手をグーパー開いてみる。前の世界と変わらない、普通の私の掌だ。
「しかし、じゃ。それが何の特異なのか、わしらには調べる方法がない」
「そーいう魔道具とかないの?」
「先人達の産み出した魔道具は多々あるが、そんな凄いものはみたことがない。最高傑作といえば、あれじゃ。異世界召喚の水晶玉じゃ」
神官長はちょっと自慢げだ。
先人達め、余計なもん生み出しやがって。その最高傑作のせいで、牢屋に入れられた幼気な女子がいるってことを教えてやりたい。
「無論、物にも魔力が宿る。道具にも草にも水ですら、ある。亡くしたのは人だけじゃ」
人は魔力が宿ったものを使えるだけで、生み出すことは出来ないってことか。
「だからこそ何も持たない我らは、特異を持つ異世界人たちを神と崇めるのだ」
「それにしては私への扱い酷くないですか?」
「仕方あるまい。お主にも少なからず何かしらの特異が宿ってるはず。それを封じているのがあの紋章じゃ」
あの紋章の下では、一才の魔法が使えない。
……そんな残念な話ある?せっかく異世界に来て、魔法が使えるって知ったのに……!
(絶対に使ってみたい!私の魔法!私だって作りたい!氷のお城!!!)
「神官長様!ガルシア辺境伯様より返答が来ました!」
「まことか!それで、なんと?」
「魔獣よりも魔獣らしかった先代女神様のような女子でなければ、可!だそうです」
先代、酷い言われようだな……。
「ふむ……先代と比べて爪も短く、肌も目の周りも黒くない……ハイビスカスもついておらん……」
神官と、神官長。二人が私をじっと見やり、互いにゆっくりと頷くと言った。
「すぐにジオン様の元へ護送しましょうぞ」




