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Kingship  作者: 三化月
序章 【騎士と従者】
5/65

5話 「1212-2」

 「コスモス」の世界に存在する生物は胸に赤くて丸い石が埋め込まれている。これはプレイヤーも論外ではなく、装備などにより普段は見えないだけで存在は確認されていた。

 設定上、この赤い石は「ミクロコスモス」と呼ばれている。一ヶ月に一度 ―― ゲーム内では二ヶ月に一度 ―― NPCの「ミクロコスモス」は主神と情報のやり取りを行うために活動を停止し、それに合わせて魔物の群れが全ての都市を襲う。プレイヤーの「ミクロコスモス」はログアウトしている間に情報のやり取りをしているらしい。

 一見ただの石ころだが、これこそがプレイヤー、ひいては、「コスモス」の全ての住人のエンジンと言った所だ。

 それが俺の胸にも出来た。それなりに考えてみたものの、あまりの出来事に頭は上手く回らず、隠さないでいくという結論に至った。そもそも、胸など誰に見せると言うのか。




 どうにか抜き取れないものかと爪で皮膚を削っていると通常ではあり得ないような激痛が走った。そりゃあそうだ。これがゲームと同じ「ミクロコスモス」であるとするならば、これは俺の命の源。心臓と言っても過言ではない。

 「王冠」の印に、胸に出来た「ミクロコスモス」。俺に一体どうしろというのだろうか。どうしようもないではないか。何も分からい事だらけだ。

 他のギルドメンバーに聞いてみるか。ドナさんは何か知っているようだった。ならば他の人も、とは上手くいかないのは分かるけど、心の何処かで、これしか救われる方法が無いような気もしていた。

 明日にはアップデートが始まる。今日しか時間が無かった。それに、月曜日になれば学校も始まってしまう。そうなればログイン時間が誰かと重ねることは途端に難しくなってしまうだろう。彼等の午後の日が出ている時間は夜だから。

 結果がどうであろうと、今日が俺の勝負所であるのは間違いなかった。


 「コスモス」に入り、ギルドメンバーの誰かがログインしているのかをフレンド欄から必死に探した。指を滑らせて、滑らせて、スクロールしていき、一人のフレンドが目についた。

 「シルヴァさんなら・・・」

 シルヴァさんがログインしていたのだ。代わりにドナさんがログアウトしていたのだが、今の俺には些細な問題でしかない。

 彼は円卓が置かれた、ギルドホールで彼のホムンクルスを睨みつけていた。誰も寄せ付けないような異様な光景に足を取られるものの、俺もここで引いてはいつチャンスがやってくるかも分からない。やるしかない、と心を奮い立たせ、わざと踵を鳴らして彼へと目指す。

 「シルヴァさん、お話しがあります」

 彼は俺を一瞥すると、再びホムンクルスへと視線を向けた。珍しい。今のシルヴァさんは随分と気が立っていた。俺もロールプレイを忘れて普通に名前で呼んでいたので、お互い様なのではないだろうか。

 構うことなく独り言の様にドナさんにしたような説明を口にすると、シルヴァさんは目の色を変えて俺の言葉に飛びついて来た。両手は俺の肩に乗せられ、力が入る。装備の防御力も相まってダメージを受けるという事は無い。しかし、彼が相当に焦っているのだろうことは察することが出来た。

 何か他に情報はないのかと言う彼に向かい、ドナさんに教えてもらった情報を渡す事で、彼はようやく落ち着きを取り戻したのだった。

 そこで俺は彼も同じ境遇だと知った。


 「いや、すまなかった」

 「謝ることはありません。私も何が何やら分からないので気持ちは分かります」

 ホムンクルスを後ろに下がらせ、俺と向かい合うシルヴァさん。円卓に肘をつき頭を抱えている姿は、普段の彼とは想像もできず、俺達が置かれている状況が殊更に悪い方向にあるのではと考えてしまう。実際、今の俺やシルヴァさんがどのような状況に居るのか分からない。これでは未来も見通せない。

 「一先ず状況を確認しましょう」

 シルヴァさんの号令の元、言葉を交わし合う。しかしながら、分かったのは何も分からないという事だ。

 「とは言うものの、現実の方で隠すのが精一杯でして・・・」

 「何も分からない、と。まぁ、それも私も同じなのですが」

 どちらとも分からぬ乾いた笑いがギルドホールに響いた。諦めに近い何かがあったのは間違いない。

 良いことも、悪いことも。何もかもが動き始めたばかり。ゲームに侵食され始めた現実に対して、俺は、シルヴァさんは、何が出来るのか。ただ話すことしか出来ないのが悔しい。

 「これ以降は別の連絡手段を用いた方が良いかもしれません。何かSNSは?」

 「ゲーム垢が一つ、マケングラムにありますね」

 「ではそちらの方で連絡をしましょう。ダイレクトメールの機能がありましたよね」

 「ええ、使う機会が無いのであまり詳しくは無いのですが」

 俺が吐いた弱音に、今度は二人が声を出して笑う。話している間に余裕が生まれてきたのかもしれない。

 そうしている間に暇を持て余したギルドメンバーがホールにやってきた。密談というには大っぴらな場所での会話だったが、余裕が出来た俺達は、話していた事なんか忘れてついに明日に迫ったアップデートについて会話の華を咲かしていった。

作中用語解説

マケングラム……SNSの名称。作者はインスタグラムをしていないので、イメージとしてはTwitterである。

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