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Kingship  作者: 三化月
二章 【新たな出会い 巡る線】
40/65

38話 「0408」

 三限目が終わって昼休み。購買で売っている紙パックのコーヒーが飛んできた。俺自身何を言ってるのか分からないし、どうしてこんなものが飛んできたのかも分からない。

 取り落とすような軟な反射神経をしてはないからしっかりとキャッチしたものの、底の角が思いっ切り掌に刺さって ―― 全く痛くない。そういえば痛みを感じないんだった。

 「・・・えーっと、なにか?」

 手のひらのカフェオレをミクに手渡し、俺はソレを投げて来た彼女に声を掛ける。投げてきたのは言うまでもなくササクラだ。はて、何がしたいのやら。

 「・・・・・・」

 「なに」

 「・・・悪いんだけど、連絡先を、ね。そのー、貰いたいなーって、うん」

 歯切れが悪すぎてまともに聞き取れなかったけど、言いたい事は何となくわかった。つまるところササクラは俺の連絡先が欲しいのだろう。俺としても彼女の連絡先を知っときたいから、別段断る理由もない。

 それにしても彼女は聞くタイミングが下手くそすぎやしないだろか。

 女子過多の教室、昼休み、弁当。これだけで俺の周囲に女子が群がってるって分かりそうなものだけどな。いや、目が悪い訳じゃないんだし、群がってるのは見えてる思うんだが。それに朝からササクラは俺を取り巻く女子のヘイトを買い過ぎだ。男同士ならこんなもんなんだろうけど、女子が居る場所で今みたいな態度を取ってるといつか叩かれてしまうだろう。

 「後で送るわ」

 「あぁ、ありがと。助かったよ」

 彼女は安心から大きな息を吐いて背を向けた。その背に掛けられるのは、やや低いミクの声。

 「キョウ君ブラックしか飲まんから気を付けた方が良いよ」

 突っ込むところはソコじゃないと思うんだけど?謎の情報暴露をされた俺からは乾いた笑い声しか出ない。

 「買い直してくる」

 「うん」

 おーい、ミクさーん、「うん」じゃないんだよ。学校は「コスモス」明けで眠いからブラックしか飲まないだけであって、家だと砂糖とか普通に入れるから。

 いやいや、それは別に問題じゃない。俺が止めようとした時には既に彼女の姿は見えなくなっていて、伸ばした手は虚しく宙を切る。

 ・・・ササクラが律儀に買って来てくれたブラックの缶コーヒーはいつも以上に苦かった。


 ―― 【ベルレフォン・グラウス】メッセージが届きました ――

 ―― 本日の22時頃、イェソドの女神像似て待つ ――

 おい、果たし状と内容が殆んど変わらないんだが。


 イェソドの都市のテーマは「基礎」。廃都市や旧王都と呼ぶプレイヤーも多い居るこの場所は「王都」と墓地で繋がっており、ネット民の見立てでは「王都」の前身、もしくは解体された「王都」というのが主な見られ方だ。

 膝の辺りまである家屋の土台に、たまに見かける廃屋。テントに近いのもある。

 まぁ、何となく分かるかもしれないけど治安もそんなによろしくない。ココに居るのは孤児やら闇商人が大半だ。盗賊や盗人も最初は居たのだが、攻略組によって狩られてしまい、その姿を見ることは無くなった。NPC狩り。これは当時ネットも荒れに荒れた痛ましい事件で、これ以降、俺達のギルドが準攻略組から外される原因にもなった場所である。

 だがどうして彼女はこんな場所に呼び出したんだろう。掘り出し物を探しに来た人か商人ぐらいしかこの都市にほぼ固定でいるプレイヤーは居なかった筈だけどな。4ヶ月で歩かなかったとはいえ、情報収集ぐらいはしていた。ワールドチャットだって覗いてたし、何かあればまず耳に入ってくる。

 視線を彷徨わせながら女神像の前で待っていると、時間ピッタリにササクラが姿を現した。どうやら他の都市から飛んできたらしい。

 「すみません、少し遅れました」

 「いえ、私も今飛んできましたのでお気になさらないでください」

 「ここに来てもロールプレイですか」

 「おや?ベルさんも演じていたと思うのですが、どうやら私の思い違いだったようですね」

 「・・・」

 俺が知ってるベルさんはもう少し明るいと思っての言葉だったけど、いい感じに彼女に刺さったみたいで満足だ。真のロールプレイヤーは1人の時以外は口調を崩さないのさ。・・・真のロールプレイヤーってなんだろ。

 俺の言葉を無視して歩き出したベルさんの後を追いかけ、向かう場所も分からずに寂びれた道を歩いて行く。

 「それで、イェソドに呼び出したのは何故ですか。待ち合わせるなら他の都市の方が都合がいいと思うのですが」

 「うーん、実はここにギルドを構える事になっちゃって」

 あ、キャラ作った。

 にしても、こんな場所にギルドを構える利点が分からない。他の都市の方が便利に決まってる。

 「キョウはそのギルマスに会ってもらいたいんですよ。覚えてます?月様なんですけど」

 「もちろんです。フレンド登録もしていますし、知らない間柄ではありません」

 月さんがギルドマスターか、だとしたら結構最近に作られたギルドと言う事になる。彼女が「コスモス」を始めたのが大体4ヶ月前だから、今はそれなりに規模になってるんだろう。

 ベルさんは月さんの従者的存在だったから納得と言えば納得だ。

 「月様がランスロットさんと話したい、って言うから、私がどれだけ頑張ったか・・・」

 「・・・カフェオレですか?」

 「カフェオレです」

 「カフェオレですか・・・」

 「まさかブラックしか飲まないとは思わなかったですけどねー」

 「あれはミクの勘違いですよ」

 気付けば俺達の間に合った変な空気無くなっていたように思う。現実で俺達が会う前の、ただの「コスモス」プレイヤーとして。

 この世界のベルさんはどこか雲を思わせた。カラッと晴れた快晴の空に漂う、風に吹かれるがままの雲だ。現実だと曇ってるようなもどかしさを感じていたが、今の彼女にソレは無い。普段からこんな感じなら俺も接しやすいのに。

 彼女に案内された先にあったのは、こんな寂びれた都市とは場違いなほどの豪華な一軒家。そして――

 「あれは・・・、ドナさん?どうしてここに」

 俺の目の前に居たのは、同じギルドの彼。dominate、通称ドナさんが立っていた。

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