表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Kingship  作者: 三化月
序章 【騎士と従者】
3/65

3話  「741211」

 「コスモス」の世界から出た俺は遅い時間に床に就いた。

 ギルドメンバーと話し会った結果、ゲンガーに対して何かをするということにはならなかった。所詮はNPC。人形にすぎず、ただの戦力としてカウントするのであれば、何を言い争う事があるというのか。メンバー全員の了承を得て、彼女は俺の装備として認められたのだった。

 そんなことを思い出しながら、日課である早朝のランニングを行う。いくら誰でも結婚出来るとはいえ、身体が引き締まっている方が必然的に見栄えは良くなる。この時間帯は俺の他にも男性の姿をチラホラと見ることが出来るし、思っていることは全員同じだった。

 時間的にもちょうどいい所で家が見える位置にまで帰って来た。その時だ。

 「いッ――――!」

 右手の甲に激痛が走った。内部から食い破らんとばかりに破裂しそうな痛みに、目の縁に涙が溜まっていく。千鳥足でどうにか家へとたどり着いた俺は、ドアの隙間に潜り込むように家の中へと入った。

 それだけで安心してしまったのか、我慢が解け、痛みが更に増した。今にも右手の甲が溶けだしてしまいそうなほどに熱い。靴を脱ぎ捨て、洗面台に駆けこんで流水を掛ければマシになったのは救いだった。

 「ちょっとー、なにやんよん?」

 俺の行動を不審に思った母によって患部を無理矢理見られ、病院へと連行されるのは時間の問題だった。


 診療時間外にもかかわらず無理を言って病院の先生に診てもらったはいいが、正直言って皆がお手上げだ。何せ、当事者の俺が分からないのだ。原因も分からずに結果が分る筈も無い。取り敢えずは冷やす事しかできず、俺の痛みも落ち着いてきたために家に返された。何かあれば連絡をしてほしいとのことなので、ひとまずは安心といった所か。この調子だと学校には遅刻してしまうが、二限には間に合う筈だ。

 家について風呂に入り、ランニングの時の冷えた汗を流す。右手の甲には湿布を貼って、ようやく朝食にありつけた。病院に行っている間に冷めてしまったものの、コレはコレで美味しい。

 母に学校まで送ろうかと言われたものの、仕事に遅れるとさとし、逃げるようにカバンを担いで中学校へと向かう。授業と言っても入試に向けてほとんどが自習だから、遅れた所で特に問題もなかった。


 診断書を渡しに行くと、担任の教師から誰かのノートを写させてもらえとのお言葉を頂いたので、一限は普通に授業をしたようだ。残念ながら俺の頭には何の教科だったか記憶が無いため、教室に戻った時に確認しなければならない。

 そして、まぁこれは仕方ないのだが、俺のクラスは男子が俺しか居ない。男女比が1対22なので、仕方がないと言われれば何も言い返すことが出来なのだ。要は、俺はクラスに馴染めていない。もう中学校生活も終わるというのに、特定の仲の良い人間すら碌に居ない。

 女子も女子で数少ない男である俺にアプローチをしてくるけど、それは友達とは言えないだろう。どちらかと言うとひもじゃないだろうか。クラスメイトの連絡先は全員分持っているものの、これは女子全員からの無言の圧力によって交換したものだ。今となっては本当に後悔している。

 他のクラスには男子が居るが、仲良くしていると女子から不快な視線が多く刺さるため、互いに距離を取っているというわけだ。


 丁度授業間の休み時間になるように時間は調整してあるので、堂々と教室に入った。確認した一限目は国語。まぁ、可もなく不可もなくといったところか。

 自分の席に着くと、隣の女子が声を掛けて来た。

 「大丈夫なの?」

 「うん、まぁ」

 素っ気ない言葉と共に、左手を振って見せた。実際、痛みは殆んど感じない程度には収まってきている。腫れも収まってきているため、明日には目立たなくなる筈だ。

 「ちょっとノート貸してくんない?」

 「なんなら私が写そうか?」

 彼女の目は俺の右手を見ている。確かに利き手を負傷している様に見えるのだから、自然な質問だ。後ろでハンカチを口にくわえ、何かを我慢しているような様子のクラスメイトさえ居なければだが。

 その姿から、女子達の間で一合戦あったのが想像できた。

 「ありがと、助かるよ」

 俺の言葉に遅れて、小さく歓喜の言葉が彼女から洩れた。と同時に後ろの少女等が恨みの篭った視線を投げ始める。彼女本人はそんなことは気にせずに、俺のノートを撫でて恍惚な表情をしていた。

 出来れば、そういうのは俺が見ていないときにしてもらえないだろうか。


 二限目以降の自習の時間を睡眠の時間にあて、今晩のゲームへのエネルギーへと変換していく。高校受験を控えているというのに余裕があるのには訳があり、簡単に説明すれば、男子だからで全てが解決する。

 男性の出生率が下がった日から、男は活躍の場を制限され始めた。一部組織の頭には男が据えられ、見栄えが良くなるようにされているものの、そんなものはお飾りなのだ。それでも、どうにかしようと男性の先人達は考えた。最終的には惜しい所で止まってしまったが、彼等のお陰で今の男達は社会参加が出来る。

 どこの会社もイメージアップのために男を奪い合うため、正直、勉強など必要ない。高校もまたしかり。どんなにテストの点数が悪かろうと、男が居るだけで宣伝になるのだ。男子校もあるにはあるが、そちらは本気で就職をしたいと思っている人間が集まる場所であり、会社や大学側も本気で面接、試験を行う。その後は知らないけどな。

 夢があるのは良い事なのは俺も分かっている。だけど、自分に夢があるのかと聞かれれば、その時は首を横に振らざるを得ない。特にやってみたい事も無い。働かなくても男は生きていけるのだから。


 鐘の音が学校に響き、俺は退屈な学校から帰った。

ランスロット「働くってどんな感じですか?」

ニートン博士「いいもんじゃないでしょ」

ランスロット「博士ってニートじゃないんですか?」

ニートン博士「一ヶ月だけ働いたんだよ、男ってっだけで仕事させてくんねぇよ」

ランスロット「ほんとです?」

 シルヴァ 「どこも似たようなもんですね」

ランスロット「あ、シルヴァさんどもです」

ニートン博士「どもども。シルさんって現在進行形で仕事就いてるんですか?」

 シルヴァ 「うん、まぁね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ