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……どのぐらい歩いただろう。どこをどう歩いたかなど、まったくわからない。行けども行けども闇は闇でしかなく、出口らしきものは見当たらなかった。
そうしているうちに、若干この世界に慣れてきた私は、多分に苛立ちの含まれた怒声を張った。
「おい、早くここから出せ! 何なんだ、ここは! 誰もいないのか!」
すると今度は、発した言葉のひと言ひと言が反響しはじめた。
『おい、早くここから出せ!』
『何なんだ、ここは!』
『誰もいないのか!』
『何なんだ、ここは!』
『おい、早くここから出せ!』
『誰もいないのか!』
『何なんだ、ここは!』
永遠に続くかと思われるような木霊に恐れおののき、両耳を強く塞いだ。しかし、それでも木霊は聞こえてくる。どれだけ強く耳を押さえようが、どれほど奥まで耳の穴に指を突っ込もうが、それは脳に直接響いているようで、私のした抵抗はすべてが無駄だった。
「やめろ! やめてくれーっ!」
再び大声を出すと、ふっ、とロウソクの火が消えるかのごとく、木霊は姿を消した。私はがっくりと膝を落として四つん這いになり、しばらくの間、ブワンブワンと鈍く痺れる脳の感覚に酔わされたのを、大きく息を乱しながら落ち着かせていた。
だいぶ酔いも治まってきたところで、あぐらをかいて深くため息をつく。
……なぜこんな目に遭わなきゃいけないんだ。そもそも、ここは一体どこなんだ?
──そうだ。私はなぜ、こんな所にいるんだ……?
最初に考えなければならなかった疑問に、今さらながら自問自答を試みる。それにはまず、どうやってここに来たのかを思い出す必要があった。
……思い出せ。ここに来る前、何があった……?
……。
……。
……ない。記憶が、ない。どうしても思い出せない。朝、事務所に来てすぐ、パソコンの電源を入れた。そして画面に映り込んだ自分の顔を、何気なく見つめていた。そこまでは憶えている。しかしその後の記憶の中で、私はもうここにいる。
──違う……そうじゃない。その間に、何かあったはずだ。
自らの記憶に違和感を覚えた私は、何度も思い返そうとしたが、いくらやっても駄目だった。
──これが正しいのか? 本当に何もなかったのか……?
だんだん、根拠のない違和感に疑いを持ちはじめた、その時。遥か前方に突然、小さな、本当にごくごく小さな明かりが現れた。
……なんだ?
がばっと立ち上がり、首を前に突き出して目を凝らす。──目の錯覚かとも思ったが、やはり確かに明かりがある。当然だろう、この暗闇でわずかの光でもあれば、それを見間違えることなどない。
──出口か!?
明かりまでの距離は、よくわからなかった。しかし、とにかく一刻も早くこの世界を抜け出したかった私は、踏み出すごとに沈む床で足をもつらせながらも、明かりに向かって猛然と駆けた。
明かりには、なかなか近付けなかった。その大きさがわからないのと、この暗闇で遠近感がまったくないのとで、自分が本当に光に向かって走っているのかも疑わしく思った。だが、少しずつながら明かりが大きくなってきているように見えていたので、私はスピードを緩めることなく走っていた。
もうすぐ辿り着きそうだ、と思った矢先、急に足元が硬くなった。突然の変化に驚いて立ち止まり、身を一歩引いた。そろりと足を出して、爪先で床を二、三度叩いてみると、コツコツと音を立てた。一歩一歩確認しながら進むと、ここから先は同じようだった。
──やっぱり、あの明かりは出口だな!
床が硬くなったのをこの世界の端だと信じた私は、わずかに安堵し、ゆっくりと明かりに近付いた。




