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「何故、俺なんかを庇った」

幾分動けるようになったクロードはベッドの上で半身を起こすサラに問いかける。そこまで愛されていないのはわかっている、と付け足して。

サラは可笑しそうに小さく笑う。

「ええ、私はあなたの事には関心は無かったわ。いつも自分の美しさや、注目度の方が大事だったんですもの」

クロードは静かに目を伏せる。

「既成事実を作られて、勝手にレールを敷いた貴方が嫌いだったんです。だからね、最初は嫌味のつもりで愛を囁く事にしたんです。あなたは私に好意を示されることを嫌っていた。そんな態度にも傷付いていました。けれど眠っていたら関係ありませんから。この機会に嫌がらせをしたんです」

そうか、と短くクロードは返事をする。

「無責任に愛だの恋だの言う人は嫌いでした。でも、段々とその言葉を口にする度に自分でも錯覚のようにしっくりと来たんです」

「少しは君の心に俺がいると自惚れてもいいのだろうか?」

サラは笑みを深める。

「きっと魔法の言葉なのでしょう」

クロードはサラを力の無い腕で優しくだき抱いた。

サラは初めて誰かに心を許す喜びを感じる。








ジャンが衛兵に連れ去られた後の事をサラは知らない。義父やクロードは話してはくれなかったからだ。

そして、傷が癒えた今も、サラの胸と背には傷がある。もう少しずれていたら危なかったと教えられた。


サラはあの日殆ど無意識にクロードを庇った。薄れゆく意識の中で、なんて馬鹿な事を、という自分。それから、これで良かった、という自分がいた。

どちらも正しく自分の本心であるし、きっと助けなかったとしても同じく対を成すような己の二つの本心に苛まれただろう。

人間はいくつもの仮面を持つ生き物なのだ。

何が本当の気持ちなのかを選びとって生きていかなければならないのだろう。


今サラはクロードや義父に少しずつ教わりながら家業の手伝いをしている。失敗もするが、毎日新鮮で愛おしいと感じる。

クロードとの仲も、目に見えて深まっているように感じる。来年の夏には新しい家族も増える。クロードはサラの腹を撫でて幸せそうに笑う。そんなクロードを見るとサラは堪らなく幸福な気持ちでいっぱいになるのだ。

「サラ」

「はい?」

「俺ばかり幸せで、俺はいつも辛い」

「あなたばかり幸せ?」

「そうだ。昔からサラが欲しくて欲しくて堪らなかった。だからサラの自由を奪う形で婚姻を結んだ。それで安心出来ると思っていた」

「そうではなかったのね?」

「そうだ。空虚な何の感情も返さないサラの瞳を見る度に不安になって屋敷に閉じ込めた」

それは間違えだったとクロードは嘆く。

「自由を奪う前に君と話をするべきだった。現実をきちんと見て、サラが納得する形で婚姻を結ぶべきだったのだ」

「そうですね。そうすれば私はあなたを幼馴染みとして慕っていられたし、こんなに拗れなかったかもしれませんね」

ただ、今となっては総て分からない。

「だが、今俺はとても幸せだ。ありがとう、サラ」

「クロード、私が関心の無いあなたに愛を囁く利点がありました」

「利点?」



「一つ、いつも自分勝手なあなたへの嫌味の代わり」



「二つ、私を置いて勝手に眠ってしまったあなたを起こす為」



「三つ、あなたに惹かれている気持ちを隠せなくする為」




クロードは目を見開いてサラを抱き寄せる。

サラは無関心を装いながら、ずっとクロードに強烈に惹かれていたのだ。サラの自尊心を傷付ける行為をしたクロードは許せない。サラの中にいる一人のサラが大きく主張する。それはそうだと理性的なサラが肯定する。

許せない、許せない、と声高に主張するサラ。

クロードをサラと同じくらい踏みにじりたいと無関心の仮面を被る。


しかし、根底にはいつも幼いサラがいた。

純粋な小さなサラは憧れの幼馴染み、クロードが大好きだといつも訴えていた。

小さなサラを見ないようにしていた。

しかし、結局は無視出来なかった。いつも大事に真綿で包み込んでくれるようなクロードに。

結局は絆されていたのである。




★★★





「サラ、いつか一緒に眠ろう。この海風が吹く宿場町を見下ろす小高い丘に」




貿易で活気がある宿場町にはいつも変わらず海鳥が飛んでいる。自由気ままに風に流され。

人々は街を行き交い、宿場町から海を目指す。

町にはいつまで喧騒がお似合いだ。

海辺らしく魚介類を豊富に使った料理は人々を癒し、元気付けてくれる。


サラは以前よりもずっとこの宿場町が好きだ。

クロードと供に根付いていく。


この自由気ままな宿場町に───








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