追撃の先に……禁忌の森エレ
いつもありがとう御座います。
ダークファンタジーです。
ほのぼの系で暖かく書いてます。
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ミーナとソウマはパンプキンの意見に反対した。
確かに今追っ手から確実に身を隠せるであろう、それでも“禁忌の森”エレに向かうのは危険すぎるからであった。
美しき黒い剣と称されるラシャ=ノラームの悪名高い噂話は人間だけでなく、獣人にまで伝わっていた。
最初の立ち入りを禁止してから10年以上が過ぎた頃だ。エレの調査を行う計画が隣国の1つである、『クレアルバディア共和国』と『デノモルグルド帝国』の医療魔導師達など幾つかの魔導機関により実行されたのだ。
目的は疫病の有無の調査並びに、森の生体に変化があるかの調査を目的とした物であった。しかし、両国の本当の目的はエレの国王バルドの所有していた大量の“ロストアーツ”であった。
何故なら、エレが此処まで隣国に囲まれながらも生き残れたのはバルドの“ロストアーツ”の力が大きかった。その為、人間達は下手に攻撃を仕掛けず、エレとの貿易と交流に力をいれるようになり、人間とエルフ達が平和に歩む都としても当時は知られていた。
しかし、両国の考えは、森の中で潰える事となるのだった。
森の外に貼られた結界魔法を越え禁忌の森の中に入った両国の調査部隊は各々に日暮れまで調査をすることにした。
両国の調査部隊には本当に調査目的の為に送られた者もいた為、両国共に大義名分に偽りなしと言わんばかりに、好きに調査と言う名の家探しを至る場所で始めたのであった。
そして、デノモルグルド帝国の調査部隊はある物を発見した。其れは他の種族が互いに縄張り争いをした跡であった。
しかし、問題はその場に残された残骸がボアールの大部隊であった事とそれと争ったと思われる、もう1種の種族の姿が確認できなかった事であった。
ーー ボアール ーー
立派なキバの生えているのが特徴で顔が猪で体がオーガのような強固な肉体を持つ種族である。
オーク族と見た目で間違われやすいが、オークと比べて戦闘能力はかなり高く、集団戦を得意とする厄介な種族であった。
そのボアールが敵種族を一人も倒せず、殺されたと考えると相手種族はボアールより遥かに格上の種族と言う事になる、人間達は背筋に寒気を感じずには要られなかった。
何人かの調査部隊は危険だと判断し帰還する事を提案し意見は二つに割れたのだ。
帰還すると口にした調査部隊は直ぐに本国に向かい帰還する用意を始めた。勿論、調査続行を決めた者達は其れを良くは思わなかった。
既に日が落ちかけていたので明日の朝に帰還を開始すると決めた彼等のテントを夜に襲撃したのだ。
寝込みを襲われた帰還を希望した部隊は慌ててテントから飛び出すと外に待ち伏せていた部隊に攻撃を受けたのだ、その時点で半数以上の者達が命を落としていた。
そして生き残り走る彼等に奇襲した部隊はある液体を投げつけてきたのだ。 逃げる彼等にぶつけられた液体、それは森で集めた死骸のサンプルつまりは、血液であった。
其れを希釈した物を逃げる彼等にぶつけていたのだ。人間の嗅覚では、嗅ぎ分けられない程に薄くされた血液をかけられた彼等は、逃げるだけで、森中の種族を刺激してしまっていたのだ。
そして彼等は、次々に亜種や獣達に襲われたのだ。その中の一人が何とか森の外に飛び出した時、一緒に逃げていた者達は誰一人いなくなっていた。
そして、彼自身も既に痛みの感覚すら麻痺する程の傷を身体中に刻まれていた。彼は何とか自分達に起きた真実を伝えようと紙とペンを鞄から取り出そうとした時に気づいたのだ…… 手首から先が無くなっていた。
それを認識した途端に腕に激痛が走り、体中の傷が一斉に痛みを蘇らせたのだ。
彼が痛みで死ぬまでの数分間は地獄だったことだろう……片腕はちぎれ、足には無数の噛み跡… 腹部の傷はあまりに深く、臓器を切り裂いていた。
そのすべての痛みが一瞬で彼を包み込みその激痛の中での1分は何時間にも感じられたかも知れないのだから……そして、彼が調査部隊の唯一の発見された遺体だった。
森に残り“ロストアーツ”を探す両国の調査部隊は直ぐに“森の王国エレ”を発見していた。そして、王宮の中に足を踏み入れた彼等は出てくる事は無かった。
森の外で遺体が見つかったのはそれから三日後の事であり、“クレアルバディア共和国”と“デノモルグルド帝国”は再度、“エレ”に調査部隊は派遣したのだ、その際に両国の軍隊も護衛として派遣されたが直ぐに調査は打ち切られる事になる。
調査に入った部隊を見送った別の部隊が帰還を始めようとした際に一粒の滴が頬に当たった。
雨かと思い空を見上げたが雲1つ無い晴天であった。しかし、彼等に大量の滴が降り注ぐと直ぐにそれが雨では無いと気づかされた。
彼等に降り注ぐそれは、紛れもなく血であった。
部隊は急ぎ、森の入り口に向かうと其処には大量の屍が無造作に投げ出されていたのだ。そして、その先に黒いエルフの姿を見たのだ。
「私の名はラシャ=ノラーム、これ以上、私の森を荒らすことは許さない」
そう言うとまだ息のある兵士を素手で切り刻み森の外に投げ捨てたのだ。
その事を直ぐに報告されると両国は結界を更に強力な物に貼り直した。そして“エレ”には存在しない筈のダークエルフがいると人々は噂した。
そしていつしか呼び方は“黒いエルフ”となり、人々は森の王国エレを禁忌の森と呼ぶようになっていった。禁忌の森の黒い女王ラシャ=ノラームの名は世界に知られることになったのだ。
パンプキンはソウマとミーナにある事実を話したのだ。
「大丈夫ですよ、少し問題児ではありますが、ラシャは本当は、優しい子ですからね、きっと助けてくれますよ。」
ミーナとソウマはパンプキンをじっと見つめた。
「まるで会った事があるみたいな口ぶりだな?」
ソウマがそう言うとパンプキンは頷きながらアッサリとした口調で答えた。
「ありますよ?ですから、巻き込むのが心苦しいのですよ」
「だとしても、危険な奴には代わり無いのよね?そんな所にコウヤを連れていくなんて私はやっぱり反対よ」
パンプキンの話を聞いても、やはりミーナは納得できなかった。
「ならば、アグラクト王国の他にデノモルグルド帝国とクレアルバディア共和国を敵に回してまで、領域を突破しますか?既に両国には、アグラクトからの罪人手配の連絡が行っている頃でしょう」
パンプキンにそう言われミーナは返す言葉が見つからなかった。既に選択肢など無かったのだ。
「なら、その森に向かおうよ」
三人が話しているとコウヤが目を覚ましそう言ったのだ。
「コウヤ大丈夫か?」
「コウヤ……よかった、もう、目を覚まさないと思ったのよ」
「決まりましたね。コウヤさん、目が覚めて本当に嬉しく思います、いきなりですみませんが直ぐに“エレ”に向かいます!」
三人はコウヤの目覚めを心から喜んだそして気持ちを改め、禁忌の森に向かって馬車は駆け抜けていったのだ。目覚めたコウヤの目には、また包帯が巻かれていた。そして、ミーナがコウヤに指輪を手渡した。
「目が見えるなら、包帯は要らないだろうけど、目の色だけは変えときなさいよ? 危ないからね」
ミーナに言われ包帯を外し指輪の力で目の色をミーナと同じあわい緑色に変える。
そんな時、後ろから新たなアグラクトの追撃部隊が迫ってきていたのだった。アグラクト兵は馬車と同じように禁忌の森に方向を変えると馬車を更に激しく追撃した。
流石の熊牛達の体力も既に限界に近づいていた。
禁忌の森を目の前に馬車は次第に速度が落ち始めていたのだ。
「僕が時間を稼ぐから皆は先に向かって!」
「待て! コウヤーー!」
コウヤは捕まえようとしたソウマの腕を躱すと馬車から飛び降りたのだ。パンプキンは馬車を今止めれば全滅することを理解していた。その為、熊牛に無理をさせながら急ぎ禁忌の森を目指した。
禁忌の森に入りさえすれば、アグラクト兵は攻撃してこないからだ。パンプキン達に緊張が走った。
一緒に飛び降りようとするミーナをソウマが必死に押さえながら三人は無事に禁忌の森の結界の中に入ったのだ。
そしてパンプキンは直ぐに馬車を結界で包み込むとミーナとソウマを馬車に残し直ぐにコウヤの元に向かったのだ。
「コウヤさん、無事でいてくださいね!」
パンプキンの心配を余所にコウヤはアグラクト兵と戦闘を始めていたのだ。
コウヤはアグラクト兵を次々に気絶させていった。防御魔法と防壁魔法のみを使いあとの攻撃を全て拳による攻撃にしていた。その際に拳に魔力を纏わせる事でロナの“魔動撃”と同等の攻撃力を作り出していたのだ。
しかし、コウヤの予想以上にアグラクトからの追手は多くやがて取り囲むように増えていった。そんなコウヤに向けて大きな声が聞こえてくる。
「困ってるわね、助けてあげるわ! 僕ちゃん!」
そう言うと姿を現したのは『カーミ』の族長アルカ達であった。アルカ達はそう言うと直ぐに武器を取りアグラクト兵に襲い掛かったのだ。
余りに圧倒的な攻撃と連携はコウヤの眼を釘付けにした。気づけばアグラクト兵の血で辺り一面が赤く染まっていた。
「久々ね僕ちゃん。あれ? 眼が開いてる!」
アルカはそう言うとはしゃいで喜んでくれていた。さっきまで人を殺していた姿とはまるで別人のような姿に僕は少し混乱した。
「それより、早く連れていこう、また次が来ると面倒だ」
セラがそう言うとアルカはコウヤの手を引っ張りキャラバンの馬車に乗せる。そして“エレ”に向かい馬を走らせたのだ。
状況が理解できないコウヤはアルカに尋ねた。何故助けたのか、そして何故あのタイミングで助けに来れたのか、聞きたい事が山のように頭の中に浮かんできていた。
そして、アルカは答えた。
「女王様が『助けてあげなさい』って言ったから助けたんだよ。もしダメって言われたら、どうしようってハラハラしたよ」
そう言いアルカが笑った瞬間、馬車が急に停まった。いきなりの事に驚き外に出るとパンプキンが馬車の前に立っていたのだ。
「コウヤさんをどうするおつもりですか? 返答によっては只ではすみませんよアグラクト!」
そう言うとパンプキンは掌に魔力を集め始めていた。アルカ達は慌てて、パンプキンに誤解だと話していた。パンプキンは直ぐにコウヤの姿を確認すると魔力を集めるのをやめた。
「会うのは二回目になりますね、“ジャックオーランタン=パンプキン”様、依然はあの様な場所でしたので挨拶も出来ず失礼いたしました」
そう言うとアルカ達はパンプキンに頭を下げたのだ。
コウヤはパンプキンの過去とその呼び名の意味を知ることになる。
そして、パンプキンを乗せた馬車は禁忌の森の中にある“エレ”を目指し走り出したのだ。
パンプキンの過去……
そして、ジャック王ランタンの名が意味する真実とラシャとの関係とは!
次回も読んでくださいね。(〃^ー^〃)
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