1話 「魔法と電気は共存した」
文明は現代と遜色ない世界です。
「くっそ、なんでよりによって俺達の方にいんだよ...!!」
「口動かしてないで早く走ってよ!」
「ギュエエエエエエ!!!」
冒険者―というべきだろうか。軽そうな鎧を着た屈強な青年と、ローブを着た細身の少女は、森の中で後ろから迫る巨大な蟻から逃げている。
少女は足を木の根に引っ掛けてしまい、バランスを崩す。
「きゃあ!」
「サンリ!!!」
少女の名前だろうか。青年は名前を叫び、少女のもとへ駆け寄る。
少女に肩を貸し、立たせた青年は顔を上げると。
「ギュエエエエエエ!!!」
もう無理だ。二人は理解した。それでも二人は勇敢に、盾を構え、防御魔法を展開する。それでも死ぬのは怖い。二人は力強く目を閉じた。
――しかし、いつまで立っても痛みはない。臓物を貪る音もしない。二人は恐る恐る目を開き、顔を上げる。すると、眼の前にいた巨大な蟻が倒れ込んでいた。
――え...?
更に顔を上げると、蟻の上に二人の人影が見えた。
――一人は白いスリット入りのシャツに、緑の裾の広いズボンを履いた、ショートカットの少女。
――もう一人は季節外れのオーバーサイズの黒いロングコートを着、フードを深く被った小柄な人。
「二人とも!大丈夫だった!?うわ、怪我してるじゃん!待ってて、包帯とかあるから!」
少女が駆け寄る。逆光で見えなかったが、髪色は毛先だけ黄色の黒髪。目はライムグリーンだった。声からは活発な印象を受ける。きっと良い人なのだろう。二人は思った。今初めてあった自分たちに、傷の手当までしてくれる。
だが二人はそんな気持ちよりも、奇妙、恐怖心のほうが勝ってしまった。あの蟻を、目を閉じていた一瞬で始末してしまった。たしかに二人はお世辞にも実力者とは言えない。ある程度の強さを持つ冒険者であれば、さっきの蟻など特別苦労することなく倒せるだろう。だとしても一瞬で倒せるものなどこの地域には過剰戦力だ。彼女らほどの実力者がなぜこんな魔物も少ない、その上特に目ぼしい場所もないような場所にいるのだろうか。
「――とりあえず、お礼に軽食でも奢らせてくれないか――ませんか?」
サンリも続けて言う。
「わ、私も奢らせてください!」
「いーの!?やったー!」
少女はお礼はありがたく受け取るタイプのようだ。
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「ねー、このスコーン結構甘めで美味いよ!一口いる?」
「自分の分あるからいいよ、食べろ」
「あ、ここfree wi-fi ある」
「やっとくか」
ローブを着た人のフードの中に銀色の髪が見える。
サンリは聞く。
「二人のお名前を教えてもらっても...?」
「そんなかしこまらなくってもいいよ、俺はクラウド。」
「私はフェリアド・フィンテール!そっちは?」
「は、はい...私はサンリ・チューンって言います」
「俺はトリア・バンデって言います」
「クラウドさんたちも討伐依頼を?」
「いーや、普通に冒険中。探し物あってさ。」
「「探し物...?」」
声が揃う。
「一応聞いてみたら?情報知ってるかもだし!」
「食べながら話すなフェリアド、汚いぞ」
「まあでもそうだな、二人はなんか知ってる?」
「―蘇生魔法のこと」
「「は!?」」
二人は顔を見合わせ、目を丸くする。それは当然の反応だ。なにせ蘇生魔法は、何度も実験と試行錯誤を重ね、今の今まで成功した事例がない。過去の書籍を見ると、それらしいものの存在が記されていたが、その本はフィクションであると学会が発表している。魔法が当たり前なこの世界でも、オカルトに片足突っ込んでいるぐらいの代物だ。要するに真剣な表情でネッシーを探す旅をしていると言われたようなものだ。しかも物言い的に仕事としているわけでもなさそうだ。
「――知らないみたいだね。」
「ゴメンね変なこと聞いて。」
「い、いやぁ...」
「大...丈夫だけど...」
そんな会話を交わし、ふと外を見ると、すっかり夕暮れだった。
「ごちそーさまでしたー!」
「ありがとね」
「いえ、こちらこそ」
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クラウドたちはサンリたちとは逆の方向へ進む。もう日が暮れるため、近場の宿へ泊まるつもりだ。
「いい人たちだったねー」
フェリアドが話しかける。
「そうだな」
クラウドが返す。
だがその視線はフェリアドではなく、空に向かっていた。それを不思議そうに見つめ、ふと空へと視線を動かす。
――魔物が飛んでいる。それも2mほどの体を持つミルワームのようなものが。
「気っっっっっっ持ち悪ぅ!!!」
フェリアドが叫んでしまった。
「あれはミランドルっていうやつだな。皮膚が厚いから電気は通りにくいよ。」
「よく冷静に―...って倒す気!?」
「指定有害生物だよ。害獣ってやつ。知らなかった?」
クラウドはミルワームのような魔物―ミランドルめがけて20mほど跳んだ。そして腰に当てていた剣を構え、一振り。
「ほい」
次の瞬間、ミランドルは両断されていた。
「――...!!!」
フェリアドは戦慄する。もう3ヶ月も行動を共にし、クラウドの実力を理解したと思っていたが、今のは理解できなかった。なにせ――
――剣はミランドルに届いていなかったから。




