鉱山騒動(1)
ざわざわ、ざわざわと騒がしい音がする。
次の瞬間、激しく扉がノックされた。
「リア!サーラ!起きてるか?至急支度をして出てきてくれ!」
アルの声だ。急いで身支度をして外へ出る。
「魔族の男が逃げた」
「え?どうやって?」
「わからん。外から手引きしたものがいるのかも知れん」
「見張りの騎士は?」
「昨夜、食料庫で小火があって数分持ち場を離れたそうだ。小火はすぐ治まったし、持ち場を離れたのは数分だ。周囲に特に異常も見られなかったことから、続けて見張りに立っていたそうだ。
朝、朝食を取らせる為に扉を開けて発覚した」
「盗賊達は?何人逃げ出したんだ?」
「逃げたのは魔族の男だけだ―――盗賊達は―――全員殺されていた」
「ひっ」
サーラが息を呑んだ。
盗賊達は屈強な男達ばかりだ。怪我をした者を除いても10人近くは一緒に押し込められていた筈だ。
それを……全員?外の見張りに気づかれること無く?
失態だ……手懸りを無くしてしまった。
オレが地下室に結界を張っておけば良かったんだ……
あの男は昨日、魔王を崇めるような事を言っていた。魔王の手の者だった可能性が高い。もっと情報を引き出せたかも知れないのに……
アニメでは序盤で魔族が捕まったような記憶は無いから(あんま、覚えてないから自信ねーけど)昨日魔族の男を捕らえたのはアニメの筋書きとは(たぶん)違う展開だ。そもそもオレの性格がアニメと違いすぎる。これからの展開がアニメと違ってきたりするのだろうか?―――ざっくりとしか覚えていないから、違っていても気が付かないかも知れないけど……
後処理をレンブロン氏やザックたちに任せ、第三騎士団とオレ達は港町カストゥールに向けて出発した。
盗まれたものの捜索や攫われた女性達の行方、アジトの捜索、殺された盗賊達の死体見分。やる事は山積みだ。申し訳ない。
「私は詳しい報告のために一度王都に戻るよ。報告が済んだらまた君たちを追いかける」
カルルック団長は、一人馬首を返した。
多分、王都からこの地に応援を派遣してくれるだろう。
オレ達の気分を表すようにポツポツと雨が降ってきた。どんどん強くなる雨と風。
風雨の中、意気消沈しながらオレ達はダマスカヤ峠を越えた。
クリフは休暇中という扱いで(誰も信じてねーけど)平民の服装なので隊を率いているのはメルローク副団長だ。
メルローク副団長は30代半ばくらい。クリフ程ではないが大男で武人らしい立派な体つきをしている。はるかに年下で生家の爵位が低いクリフのことを(メルローク副団長は伯爵家の三男だそうだ)上官として敬ってくれ、足りないところは支えてくれる。とっても出来た人だ。愛妻と子供が三人もいるらしい。
あ、クリフは25歳だと言っていた。オレ達4人の中で一番の大人だな。
オレ達の馬車は隊の最後尾についていった。
東街道を下り、三日程。この辺りで左に逸れるとカンタス伯領へ向かう。その更に北にイルラーク伯領がある。カンタス伯領へ向かうべきか、早めにカストゥールに向かうべきか……
このタイミングで一つの情報が飛び込んできた。
「団長、王都から連絡です。
カンタス伯爵、夫人、嫡男が事故で亡くなった為、カンタス伯の弟が爵位を継ぐと王都に届出がなされたようです」
休憩中、メルローク副団長がクリフにこそっと耳打ちした。
五人で隅の方で話し合う。
「カンタス伯領ってきな臭いって言ってたトコだろ?」
オレの言葉遣いにメルローク副団長が目を剥いているが、今更だ。
「ああ。ロゼッタール公が内密に調査していた筈だ」
「きな臭いってどういうことですか?」
サーラが疑問を投げかける。
「あ、オレもそれ聞きたかったんだ」
アルが説明してくれた。さすが王太子よく調べている。(最近は王太子だって忘れている方が多いけど)
「あの領地は小さいが、良質なダイヤモンドが採れる鉱山を抱えている。その鉱山付近で魔族らしい異形な者を見たとの噂が流れたんだ」
「王都で?」
「カンタス領と取引している商人たちから流れたらしい。カンタス伯領のダイヤモンド鉱山とその奥のイルラーク伯領の鉄鉱山は魔族に狙われているらしいってな」
「二つの鉱山付近で魔族が目撃されたらしい」
「王都で噂されるくらいだ。現地ではもっと大きな騒ぎになっていたんじゃないか?」
「それが、現地ではまったくと言ってよいほど噂になっていないんだ。俺も一度調査に部下を派遣したんだが、滅多なことを言うな!この地の評判を落としたいのか!と鉱山関係者に怒られたそうだ」
オレの問いに今度はクリフが説明してくれた。
「ああ。王城でも両伯爵を呼んで問い質したんだが、そんな事実は無い、の一点張りだった。困っている事があったら相談してくれと言ったんだが、何も無いと言い張って両伯爵共に急に領地へ帰ってしまった。
―――夫人も連れて」
「子供は?」
「カンタス伯の一人息子は15歳。イルラーク伯は18歳の息子と15歳の娘がいる。15歳の二人の令嬢、令息は王立学園に通っていたはずだが、先月、噂が出る少し前頃から学園を無断欠席している。
イルラーク伯の長男は一緒に領地に帰ったことが確認されている。二人の令嬢、令息にしても両家が領地に帰る直前、病欠の届けが出されたそうだ――
と、ここまでが出発前にロゼッタール公が調べて発覚したことだ。引き続き調査すると言っていた」
臭いな。プンプン臭う。二つの伯爵領で何が起きているんだ……
アニメにあったっけ?なんか鉱山?みたいな所で事件があったような気もするが……ポンコツな頭は振っても何も出てこない。
「何してるんだ?」
あきれた顔をしてアルがこっちを見ていた。
メルローク副団長が口を挟んだ。
「もし両伯爵領に向かうのであれば、カンタス伯領の領都トマポリにある宿屋〝流泉閣〟のベルタンと連絡を取るように、とロゼッタール公爵閣下から伝言が来ております」
「カンタス伯領に向かう―――の一択じゃね?」
「しかし、公爵閣下はさすがですな。しっかり街の中に手の者を紛れ込ませている」
「食えないオヤジだけどな」
メルローク副団長の言葉にアルが答えた。
「ウチのオヤジは『あの狸め』って毛嫌いしてたけど」
とオレが言うと、アルが笑った。
「アッシュマイヤー公は同属嫌悪だろ?」
「あの……その……ロゼッタール公爵は信用できる人なのですか?」
サーラは不安そうだ。アルは不安を払拭するように力強く頷いた。
「公の王国に対する忠誠心は本物だ。民を思う心もね。
多分、俺達が伯爵領に行くことで、魔王に関する情報が得られるのではないかと判断したんだろうと思う」
「では、私は行き先をカンタス領に変更すると皆に伝えてまいります」
メルローク副団長が戻っていった。