鉱山騒動(2)
カンタス伯領の領都はトマポリという。あまり大きくない地方都市?町?という感じだ。
第三騎士団と一緒に町に入ると目立つので、騎士団はトマポリから少し離れた場所に駐屯してもらって、伝令その他として二名の騎士を借り受けた。
ロッド・ミラーシュとウィルテリア・ラングレイというオレ達とそんなに年が変わらなそうな若手の騎士だ。
オレ達は最初の設定どおり商会の跡取りの若夫婦、メイド、護衛の冒険者、それに商会の従業員と言った体で町に入った。
無事、流泉閣に宿を取る。
一般的な平民の泊まる宿屋よりはちょっといい程度の(王都ではそれほど豪華でもない)名前だけは立派なこの宿はこの町一番の老舗であると、案内してくれた宿の主人が自慢げに言っていた。
三部屋に別れ荷物を置くと、一階の食堂に向かう。
四人で席に座り、この地方の郷土料理を中心に何品か注文する。
ロッドとウィルは少し離れた席に座っている。
料理を運んできてくれた女性に、ベルタンという男がいるかと尋ねると、掃除や力仕事をする下働きにそんな名前の人がいると言うので、少し金を握らせて、後でこっそり部屋に呼んで欲しいと伝える。
アルが微笑んだら一発でOKしてくれた。
食事を済ませてアル達の部屋に集まる。
一応部屋割りはアルとクリフ、オレとサーラ、ロッドとウィルだ。あたりまえか。
ロッドとウィルは夜中部屋の前で護衛をすると言ったが断った。
だって、二人よりアルとクリフの方が100倍強いし、オレとサーラの部屋はオレが結界を張る。オレの結界を破れるヤツなんかほとんどいない。それだったら夜しっかり休んで次の日働いてくれる方が助かるだろ。
部屋は結構広かった。入ったところに4~5人座れる位の応接セットがあり、隅のほうにお茶が入れられるように紅茶の茶葉やポット、茶器等を載せたワゴンも置いてあった。奥のスペースにベッドが2つある。
応接セットに四人で腰掛けた。ロッドとウィルは隅で待機している。
お茶はサーラが入れてくれた。他に入れられる人が誰もいなかったからだ。サーラは家事全般できるんだって!なにそれ、スゴイ!嫁に欲しい!
程なく小さくノックの音と「ベルタンと申します」と小さな声がした。
ロッドがドアを開ける。
男は入ってくるとアルの前に跪いた。
「お初にお目にかかります。
王太子殿下に拝謁賜り―――」
「やめてくれ。
俺は商会の若旦那アル。こっちは妻のリアだ。そのつもりで頼む」
「承知いたしました」
「早速だが、わかっている事を教えてくれ」
「私はカンタス伯爵が領地に戻る少し前にこの町にやってきました。カンタス伯夫妻は領地に戻って以来ほとんど外出していません。お屋敷のメイドの話では何かを待っているようだったと。ご子息に関しては一度も見かけていないそうです。
それが五日前の朝、急に鉱山の視察に行くといって夫人を伴って出かけたそうです」
五日前というとオレ達がポタラを発った頃だ。
「五日前は風雨が酷く、執事は日を改めるよう勧めたそうですが、息子と待ち合わせをしていると言って強引に出立したそうです。案の定事故を起こし馬車は谷底へ。翌朝、御者と伯爵家親子三人の遺体が発見されたそうです」
「息子と待ち合わせ?息子は屋敷に帰らずどこに居たんだ?」
クリフが呟く。
「お屋敷に手紙とかが届けられた形跡は無いのですか?」
オレの質問に皆がぐりんっとオレを見た。
「正式に届けられた手紙は無いそうです。ただ、カンタス伯が門の所で手紙のようなものを受け渡していたのを庭師が目撃しています」
気付かずベルタンは続ける。
オレも気付かない振りをして続けた。
「とにかく、その馬車の事故は怪しいわね。目撃者とかもう少し詳細を調べてもらえるかしら?」
アルの肩が小刻みに揺れている……クリフはそっぽを向いて顔に力を入れているのがわかる。あ、サーラが手で顔を覆ってしまった……
やめてくれ……こんな真面目な話のときに皆に笑いを提供したいわけじゃない。ただ、ベルタンはロゼッタール公爵に繋がっている。地を出して喋ったら後でオヤジに絶対怒られる。
オレはギッとアルを睨みつけた。
「コホンッ……ウォッホン……あー、伯爵の弟の事なんだが……」
「伯爵の弟はダスタル・メンハース男爵といって男爵家の入り婿です」
「評判は?」
「最悪ですね。見栄っ張り、女に手が早い、上の者に媚び下の者に威張る。夫人も似たようなものですよ。割れ鍋に綴じ蓋ってやつですね。見栄を張り過ぎて最近は借金で首が回らないという噂です」
「兄が亡くなってまだ五日。届けを出すのが早いんじゃないか?」
クリフの問いにベルタンが答える。
「亡くなって二日後、つまり三日前ですね。には届けを出したそうですよ。なんでもちゃんと後をついで兄を安心させて葬式を出してやりたいそうで」
「それにしても普通はまず現場に駆けつけるだろう?亡くなったと聞いても自分の眼で確かめなければ信じられないのが肉親の情だ」
アルの言う事ももっともだ。オレも続けて言った
「まるで……亡くなるのを知っていたみたいですわね」
ダカラソノメヲヤメロ!イチイチカタヲフルワスナ!
「……その弟はまだ王都に居るのか?」
「いえ、届けを出したその足で王都を発ったそうです。明日にでもこちらに到着すると思われます」
アルはしばらく考え込んだ。
「その弟に会ってみたいな」
「そうだ……そうですわ!そのナントカ男爵を締め上げ……いえ、お締め?お締めお上げ?……」
耐え切れずにクリフがブハッと噴き出した。やたら咳払いしてる。
お前ら、後で覚えとけよ……
「ベルタン、そこそこのランクの宝飾品を数点用意できるか?ダイヤを使った宝飾品メインで」
「二日ほど頂ければ」
「頼む。それと……ロッド」
「はいっ」
「明日、その弟が領主の屋敷に入ったら面会の希望を出しておいてくれ。新しい伯爵様に面会したい。ご都合がよろしければ2日後の午後お伺いします。と。こちらの名前はシャール宝飾店。王都で今売り出し中でなんならアッシュマイヤー公爵家にも御贔屓頂いていると言っていいぞ」
「承知しました」
「では、二日後、宝飾品の用意が出来たらまた連絡をくれ」
「承知いたしました。
それでは御前失礼いたします。
もし、私に緊急に用があるときはこの宿の斜め向かいに薬草を売る店があります。そこの小僧に言伝てて下さい。この辺の悪がきどもの親分で何度もちょっとした仕事を頼んでいます。そいつに言えば私に繋ぎがつくよう言っておきます」




