51:いきなり面接
シュバツェル16年5月8日(日)
きたーっ!
商業者ギルドから、待っていた物ができたと連絡が来た。
今日は朝は座学の時間にしているので、午後一番、商業者ギルドへ行こう。
「ありがとうございます。
じゃあ、自転車はギルドへお渡ししますね」
それは自転車と交換で作って頂くのが条件だったので、自転車をギルドへ委譲する。
「こちらこそ、ありがとうございます。
これで自転車の仕組みを調べる事が出来ます。新しい自転車を、一日も早く優さまに届けられるよう、総力をあげて取りかかりますわね」
にっこり笑うアマンダさんの背後に、燃え上がる情熱の炎が見える気がするんだけど……。コワイ。
お願いしますと言って、商業者ギルドを後にする。
◇
「さあ、サイラさんが待ってますから。ローニーさん、帰りましょう」
乗るの久々なので、ドキドキだわ。
「本当に、その車輪のついた板に乗るんですか?」
ローニーさんは車輪がついた板事、スケートボードを訝しんでいる。
リュックの中身を全部出した時に指スケが出てきたので、それを元に作ってもらったスケボーだ。
移動は自転車の方が楽だけど、スケボーを作ってもらえたら、自転車は商業者ギルドへ委譲しますって事で作って頂いたんだ。
「転けないように、祈ってて下さい」
指スケがあったとはいえ、どこまでスケボーに近いか分からない代物。しかも、久しぶりに乗る。うん、がんばろっ。
馬で前を行くローニーさんを追いかける。ちょっとクセがあったのと、乗るのが久しぶりで慣れるのに時間がかかったが、家に着く頃には乗りこなせていた。
もちろん、ヘルメットやサポーターなんてないから、かなり慎重に乗ったさ。
◇
自宅に着くとサイラさん、サーラちゃんはもちろん、お父さん。そして、いつも仕事が終わって、みんなが見た後にキャンピングカーなどを見て悔しがっていたお母さんも呼んで、スケボーのお披露目だ。
「まあ! カートが細くなっただけみたいね!」
お母さん、それを言っちゃあ……。
「カートは安定しているが、あれは方向を変えるためにちょっと遊びがあるっていうのか、なかなか乗りこなせないぞ」
お父さんの子どもの頃にも流行ったが、お父さんは乗りこなせなかったそうだ。
「いいなあ。サーラもほしい」
「自転車ができたら、自転車が乗れるように手伝うよ。
あれは補助輪つけるとか三輪にするとかすれば、ある程度安全だけどね。これはそんな自転車と比べて、安全とは言えないから。スケボーは、自転車ができるまでの繋ぎで量産はしないんだよ」
サーラちゃんには可哀想だが、これは譲れない。あえて危ない物に乗らなくても良いだろう。
「そうだ! 一緒に乗馬を教えてもらおう?」
これなら、後々サーラちゃんの役に立つ事もあるだろう。
「えっ? 日帰りキャンプへ行った時、お一人で馬に乗られてましたよね?」
疑問の声を上げたのはローニーさん。
「祖父の家の近くに馬に乗れる施設があって、常歩が終わって速歩の練習してただけなんですよ」
子どもの頃から馬が好きで、祖父の家に行くと、馬に乗らないと帰らないと駄々をこねて大変だったらしい。
その結果、たまに乗る程度で、速足までは一人で乗れるくらいになれたのだ。
みんな「えっ?!」っと、青い顔になった。
何かに追われて逃げる事にでもなれば、駈足どころか襲歩になるからね。乗りこなせないのに襲歩なんて、危険極まりない。
即座に私とサーラちゃんの乗馬練習が決まったのは、たぶん、言うまでもないよね。ハハハ。
ローニーさんが乗馬は教えて下さるとの事で、早速サーラちゃんが手解きを受ける。
仕事が休みのお父さんは、そのままサーラちゃんの乗馬練習を見ているが、お母さんはさすがに仕事に戻った。
◇
「優さまのいた世界では、鞭はみなさんが扱えるのですか?」
お茶をしながら、サイラさんが疑問をぶつけてきた。
「まさか。
冒険者ギルドで鞭を扱える方を紹介してもらって、それからですよ。
割と最近教わり始めたから、腕前はまだまだです」
「私達は、優さまが鞭を教わってる事を知りませんでした。
いったい、いつ教わってるんですか?」
基本的にサイラさんかローニーさんがいつも一緒にいるから、不思議に思うよね。
「サイラさんやローニーさんが来る前か、帰ってからだよ。
お二人にはこの時間の間、作る書類でもなければ、ただ時間を無駄にさせてしまうでしょ? だから、お二人の時間を取らない時にやってます」
私はそれが正しいと思うのだが、サイラさんは難しい顔だ。
「せめて、そう教えて下さいね。
私達の事は、何だか仕事の付き合いと線引きされているようで寂しいです」
そう言うサイラさんの視線は、下へ落ちている。
仕事だけの関係なら、日帰りキャンプや泊まりでキャンピングカーで一緒に出かけたりしないのだが……。
話していなかった事が余程効いたみたいで、申し訳なくなった。
「ごめんなさい。今度から、ちゃんと話すよ。
後、実はまだ言ってない事もある」
そう、もう一つ教わっている事があるのだ。鞭は、草原なんかの遮蔽物がないところでなら使える。林の中や森の中では、何に引っ掛かるか分からないので使えない。
「後で、ローニーさんも揃ったら言うね」
◇
っぱあんッ。
雷なしの鞭を振るう。お父さんは見た事があるので素だが、ローニーさんは威力が思ったよりあったみたいで驚いていた。
「これは、当たればなかなかの威力になりますね。
惜しむらくは、森などの障害の多い地では使えない事です」
ローニーさんの言葉を引き継ぐ。
「そうなんです。そこで、用意しているのがこれです」
鞭を無限収納にしまい、代わりに次のアイテムを取り出す。
「これはまた……」
「レイピア???
それよりずいぶん細い……剣???」
「いえ、剣にしては、刃がないですよね?」
困惑する、ローニーさんとサイラさん。そりゃ、刃のないこれでどう戦うんだって思うよね。
「フェンシングの剣を参考にしたのか?
考えたな」
お父さんはそう言って、お父さんにも初お披露目の剣を手にした。
「これも鞭と同じか?」
「うん、そう。
これは柄の部分は魔法は発動しないけど、柄から先の刃の部分全体で魔法が発動するよ」
片手剣にしろ両手剣にしろ、重くて戦えるレベルになるだけで相当な時間がかかりそうだ。そこで、軽さとしなやかさを求めた結果、こうなった。
鍔などの柄の部分がなければ、長鞭で通用するかもしれない。
「切らなくても、当たれば雷魔法なり火魔法なりの餌食になりますから、魔法剣みたいなものでしょうか?」
魔法剣といえば魔法剣ですかね、なんて話していたら、「魔法剣……!」って声が、塀の向こうから聞こえてきた。
振り返ると、カールくんとモリスくんがこちらを覗いている。
「昨日はありがとう。
今日は何もないけど、どうかした?」
二人に声をかけてみるが、あわあわしているだけだ。
「おい、そこの二人。入ってこい」
お? お父さん、どうしたんだろ?
カールくんとモリスくんはお父さんに呼ばれ、門へ回ると恐々としながらこちらへやって来た。
◇
「お前達、前の仕事場の時からたまにうちを覗いている二人だな?」
「はい」×2
おお、タイミングぴったり。
「大工がしたいのか?
それとも、馬、中でもスレイプニルやペルシュロンなんかの大きな馬が好きなのか?
来ていた理由は何だ?」
「オレ、ぼ、僕は、木の板が建物になるのが不思議で、それで見に来てました」
「成程な」
ほう、モリスくんは建築に興味があるのか。古い家並みの町だ。建て替えが必要そうな古い家が多い感じだから、大工は忙しくなるかもね。
「ぼくは馬!
あんな大きな生き物が、人のいうこと聞くなんて不思議!」
ほうほう、カールくんは馬が気になるのか。
それからしばらく、お父さんは二人の事を質問したりして色々聞いていた。
「分かった。
大きいのがモリスだったな?
"見習い候補"として、面倒みよう。もちもん、弟も連れてこい。
近くに"従業員寮"っていって、うちの職人専用の建物がある。そこの部屋を一つ使えるようにしよう。朝と夜のご飯は給料からもらってるから、そこで飯は食べれる。弟もだ。
そこから寺子屋に通って、全課程を修めろ。寺子屋を出るまでは、その日やってもらいたい事をやってもらう。
で、寺子屋の全過程が終わったら見習いだ。
どうだ? やるかい?」
「あ、ありがとうございます!
宜しくお願いします!」
モリスくんは一も二もなく、そう答えていた。
良かったね、モリスくん。
「小さい方が、カールだったな?
孤児院にいたままでも、うちに来てもかまわない。そこは好きに選ぶと良い。
で、だ。寺子屋の、全課程を修めるのはモリスと一緒だ。
それまでは寺子屋が終わったら、うちの御者や厩舎番から、馬の世話や扱い方を教われ。
後、うちの下の娘が寺子屋へ通うようになったら一緒に通ってやってくれ。
寺子屋の全課程が終わる頃には、大きい娘の方があちこち行き始めてるだろう。その、専属御者にならないか?」
「えっと、初めはここで働きながら、馬の扱い方や世話の仕方を教えてくれるの?
サーラのお供もするんだよね?」
「ああ、そうだ」
「やった! ありがとう!
ぼくやりたい! がんばる!」
お、カールくんも即決だね! 良かったね。
「最後に、大きい娘が呼んだら、二人共そっちを優先してくれ。
ちょくちょく手が足りてないみたいだから、手伝ってやってくれ」
もしかして、それがメインか?
そしてバレてるんだー。
何はともあれ、こうしてちょっと手を借りたい時に、すぐに頼める二人ができたのだった。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなどお気楽に、下の
☆☆☆☆☆
にて★1から★5で評価して下さいね!
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしてます!




