52:プログラミングとヒーリング
シュバツェル16年5月9日(月)
翌日、お父さんは寺子屋の授業が終わったタイミングで教会に着くよう出掛けて行った。
そして手続きを終えたカールくん、寺子屋の授業が終わり、そのままお父さんを待っていたモリスくん兄弟はやってきた。
三人には着替え三着、洗面道具一式、タオル大三枚、小六枚が渡されたんだ。
新しい着替えは、特に喜んでいたな。ベッドや布団は備品として部屋に元々あったので、意外と渡す物は少なかったかも。
が、お父さんは「今月の生活費だ」と言って、カールくんには金貨二枚、モリスくん兄弟には金貨三枚を渡していた。
こちらで気付かなかった物品の買いたい物だったり、お昼ご飯を買ったりするためだそうだ。きっと、他の人にもこんな感じなんだろうなと思う。
モリスくんの弟、モリーゼくんは体調の回復が最優先。体調が戻ったら寺子屋通いと、お母さんのところか私のところでちょっとしたお手伝いが仕事になる予定だ。
あ、モリスくん兄弟は、お父さんのところの従業員寮での生活。カールくんは自宅のある敷地の裏庭の一角にある、門番さん達や警備の人達が住んでいる離れでの生活だよ。
どっちも洗濯以外は、寮母さん的な方達がしてくれるらしい。
ローニーさんとサイラさんは従業員寮だとか、寮母さんとか、色々驚いていた。
そしてお父さんに「ギルドに登録されてますか?」と、色々詰め寄っていたっけ。
◇
私は午前中、エバーソンさんにアポを取ってお会いした。
宿泊施設の、増設のお願い。統括ギルドで溜まっている、ローニーさんとサイラさんが上げてくれた書類のよく分からないところを聞かれ、詳しく話す事も溜まっていた。
もちろん、キャンピングカーでの一泊旅行、鞭、剣の事も聞かれたよ。
情報が早いよーっ。まあ、ローニーさんもサイラさんもスマホ持っているから、通話での報告は毎日してるようなんだけどさ。
「ところで優嬢。
貴女のおかげで、個別識別可能スマホができたが、ちょっと困っている事があってね。
相談に乗ってくれないだろうか?」
前にお父さんが、まだ問題があると言っていたな。まだ解決していなかったんだ?
「はい、お役に立てるかは分かりませんが、お聞きしてから出来るか出来ないか判断しますね」
「それはもちろんだ。
では、聞いてくれるかな?」
頷いて答えると、エバーソンさんは話し始めた。
「会って話をした事がない人からの通話は拒否とか、スマホに入ってる魔石に伝えてますか? "プログラミング"と呼んでいるその作業をしているからか、私は知らない人からばんばん電話がかかってきて困るといった事はないですよ」
パワーストーンを持つと、プログラミングといわれる作業をする。パワーストーンのプログラミングとは、持ち主の気持ちや願いをパワーストーンに込める事を指す。
これを私は、ストーンに仕事を教えると考えている。仕事を教えず作業効率が悪いままにしておくか、仕事を教えて作業効率を上げるかでもある大事な事だ。
私はスマホに使っている魔石をパワーストーンとして捉らえ、プログラミングをしている。
エバーソンさんはプログラミングを知らなくて、プログラミングしてないそうだ。
それを詳しく説明すると、エバーソンさんはスマホを引き出しから取り出し、早速プログラミングをする。
余程電話の回数が多いのだろう。エバーソンさんはスマホをオフにしていたよ。
オンにすると、電話が入り始めた。しかも、何人もの通話が繋がっている。この調子では、オンにしたままだと仕事にならないね。
「通話中は、他の方からの通話は繋がない。通話中に電話してきた方には、後でかけ直してくれるよう知らせるなど、エバーソンさんに合ったプログラミングなさると良いですよ」
あ、エバーソンさんには救助要請も来るのかな?
「救助要請は、知らない人からの通話でも受け付けるって伝えれば繋がるはずです」
そうこうしているうち、どんどん通話が減り、最終的に一本も通話は繋がっていない状態になった。
「……ふう。やっと通話してないスマホになったよ」
しばらく待っていると、エバーソンさんはそう苦笑しながら目を開いた。
「大変だったんですね。
まさかこんな事になるとは思わず、すみませんでした」
私はそう言って頭を下げた。
火の魔石なら火魔法を発動できるだけだが、スマホに使われている魔石の能力には驚くしかない。
「いやいや、優嬢のせいではないよ。
これで、不便の減ったスマホの量産のメドがたったよ。
ありがとう」
現在、ギルドにあるあの大きなす…、魔石として使えない小さな原石を探して、量産を目指しているそうだ。
大きい物はなかなかないが、あのサイズでなくて良いならそれなりに見付かるって。
最後に、浮浪者やストリートチルドレンの仕事について。畜産家や酪農家、畑仕事の働き手として仕事を紹介できないかを聞いてみた。
町で仕事に就けなくても、こういった仕事は凄く人手がいるから、いらないって事はないと思うんだ。
「町にいる者だから町で養うものと思っていたが、そちらの仕事に就いてくれるならありがたいね。
さっそく草案を考えて、キナル第二王子殿下と話を詰めよう」
キナル第二王子殿下は、この旧王都を含めた王領の統治、管理を父王陛下より仰せつかり、普通の領主のような仕事もなさっていらっしゃるのだそうだ。
政治手腕も優れていらっしゃるが、領地経営の腕はそれを凌ぐって。
そんなお話も含めて色々な事を話し、エバーソンさんのところを後にしたのがお昼過ぎ。
家に帰るとぱぱっとお昼をすませ、三人の服を選んだり、タオルなんかの頼まれていた物を買いに出たりした。
それを三人分に分けたところでお父さん達と合流して、そのままついて回っているのが今だ。
それにしても、モリーゼくんが気になるな。
ちょっと試してみるか。
手ひらを、モリーゼくんの"チャクラ"と呼ばれるエネルギーセンターがあるとされるポイントに、順番に翳す。
そして、チャクラが正常になるように願いながらヒーリングをしていく。
上から順番に、体内にあるとされる全てのチャクラのヒーリングを行う。
チャクラのヒーリングが終わると、今度は内臓のヒーリングをイメージして体をヒーリングして行く。何か菌が入り込んでいるのなら、それは浄化してしまうイメージも一緒にヒーリングする。
イメージでは成功したけど、どうかな?
「体がポカポカする。
あふーう、ねむい……」
「気持ち悪いとか、嫌な感じはどこもしない?」
「ん……。トイレいきたいの」
チャクラはパワーストーンで知ったけど、ヒーリングは母の受け売りであまり詳しくない。
人によって、好転反応が出る事があるのだけは覚えている。
トイレをすませたモリーゼくんは、気持ち良さそうな顔をしてすやすや眠ってしまった。
モリーゼくんを起こさないようにみんな部屋の外へ出て、モリスくんと話す。
「大丈夫だと思うけど、何かあったら呼んでくれるかな?」
「ど? え?
何で聖魔法が、怪我以外に効いてる?!」
モリスくん、言葉かおかしいよ。
「効いたんなら良いんじゃない?
モリーゼくんが元気になりそうなんだから」
私も、人にヒーリングするのは初めてで眠いかも。まさか自分も、ヒーリング効果を受けていた?
理屈は抜きにして、モリーゼくんが元気になりそうな事だけに焦点を当てたモリスくんに、とても感謝された。
モリーゼくんは、モリスくんの本当の弟の仲良しだった事。モリーゼくんの兄弟が亡くなった時、モリスくんの本当の弟が同じ時期に亡くなった事。弟と仲の良かったモリーゼくんだけは、大人にまるまで育てるんだと頑張ってきた事を、涙ながらに教えてくれた。
一人でも大変だったはずなのに、もう一人の命も背負ってきたんだね。
私にはたぶん、真似できない。
お父さんがモリスくんの頭をなでる。
「これからはオレもいるし、優もいる。力になれる事は力になるから、困ったら必ず相談するんだぞ」
そういうお父さんの目は、どこまでも優しい色をしている。
ローニーさんとサイラさんも、同じ優しい色をした目になっている。
きっと、ローニーさんとサイラさんも、何かあれば個人的にでも力を貸してあげるのだろう。
「うん、相談してね」
そしてモリスくん兄弟と別れ、カールくんの事をと思っていたのだが、ローニーさんとサイラさんに自室へ連れて行かれた。
理由はもちろん、さっきのヒーリングの事を詳しく聞くためだ。
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