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レイヴ①

レイヴ視点です


「ねぇ、そいつまだ寝てんの?」


夜中、眠ったリウを俺にもたれ掛けさせ何とはなしに髪をすいていると、リウより少し幼い綺麗な顔つきの少年がいつのまにか覗き込んでいた。

最近入った新入りの一人だ。


「確かアシェット、だったか?すまないな、コイツはまだ当分起きそうにない。何か用があったのか?」

「いや、ただ、その…て、手当とかメシとかの礼を言ってなかったから…」

「ああ、それは起きたら直接本人に言ってやってくれ。きっと喜ぶ」

「ん、分かった。起きたら教えてくれ。じゃあな」


そう言うと端の方にある自分のベッドに歩いて行った。ぶっきらぼうだが根は素直なんだろう。

わざわざ礼を言いに来た後ろ姿に思わず笑みが浮かぶ。



腕の中にいるリウは教官に何処かに連れていかれた後、糸が切れる様に倒れ未だ深い眠りの中だ。

俺の胸に体を寄せ安心しきった姿とゆっくりと呼吸する音が、黒く染まりそうになる何かを押しとどめてくれる。


『レイヴ』


ーー早く目覚めて、俺の名を呼んでくれ。



月光の様な髪に顔を埋め、祈るように強く抱きしめた。





***





ーーこんな夜は悪夢を連れてくる。




『レイヴッ、リウちゃんを連れて逃げろッ!』

『ーーアナタッ!!っっ…レイヴ、リウちゃん、愛してるわ』

『早く行きなさいっ!!…』



これは両親とカグラさんとーー。


幸せだった。

父さんと母さんがいて、リウの母親のカグラさんがいて、そしてリウがいる。

俺の後ろを必死でついて来る小さなリウの可愛さに皆んなで悶え、その姿がまるでコガモ兄妹のようだと笑っていたあの日々。


それはいきなり崩れた。

俺たちの体に現れた黒の茨によって。



一歳から成人前までに体のどこかに現れるという黒の茨。

黒い棘を持つ蔦のタトゥーような模様。これを持つ者は悪魔を滅ぼせる証であり、特別な存在だと小さい頃から教会で教えられる。

そしてその子供達は教会へと入れられ、聖女と人々を守る黒騎士となる。

騎士、特に黒騎士は誰もがなれる訳ではない特別なものだ。自分達の子供は特別な存在だと声高々に自慢する親も、金で教会に売る親もいる中、俺達の親は隠すことを選んだ。


多分知っていたんだろう。



自分達の子供が将来、人殺しと呼ばれる事になると。



この場所に来て初めて知らされた真実。

人類の敵、悪魔は強大な力を持っている。

その悪魔を滅ぼすことが出来るのは教会に属する騎士達と一部の人間だけだ。

その悪魔達の力の一つに、人と契約をし体に乗り移るものがある。


悪魔と融合けいやくした人間は別の生き物へと変貌する。


乗り移られた人間は魂まで悪魔と同化し、人とも悪魔とも違う別の更なる力を得る。

黒騎士だけがこれを滅ぼすことが出来る。

人の魂と共に。


だから黒騎士はもてはやされる一方、裏では人殺しだの殺し屋だのと呼ばれていた。







追っ手から身を呈して俺とリウを逃がすために稼いだ僅かな時間は、子供の足じゃ到底足りずにあっさりと捕らえられた。




知らない場所に怯えるリウを抱きしめながらこれからの事を考える。


教会に逆らった親達があのまま無事に帰されているとは到底思えない。

なんらかの罰、あるいはーー。



ーーもしそうならば絶対に許さない。


身体中が何かに黒く塗り潰される


ーー必ずアイツらも教会も


筈だったのに、



「レイヴ」

「ーーっ」



俺を引き戻す声。



さっきまで震えていたリウは、真っ直ぐに俺を見つめていた。

俺の中までも見すかすような目に、動揺を押し隠したまま笑顔でどうした、と問う俺に答えず、リウはそのまま俺の腰にギュッと抱きついた。

無言で力一杯抱き締める服に少しずつ広がっていくシミ。


「…お母さんも、おじさんも、おばさんもいないけど、レイヴがいるからリウは独りぼっちじゃないの。寂しいけど寂しくないの、怖いけど怖くないの」


「…リウ」


「だからっ、だからレイヴが寂しくなくなるまで、リウはずーっとずーっといっしょにいるよっ」



そう言って涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら精一杯の泣き笑いの表情で見上げたリウを見たら、



おいていけない。

独りに出来ない。

リウと離れるなんて


そんなのーー



俺が耐えられない。




もう、復讐は無理だった。




暗く冷たい場所で二人、抱きしめ合いながら声が枯れるまで泣いたあの日。



リウが俺の生きる意味になったんだ。





***





あの時から、俺の命よりも大切なものが出来た。


だからどんな時も冷静に判断する。


いつも自分に言い聞かせてきた言葉。


ーーなのに、俺から全てを奪っていく。





「早くしろっ!」

「っ…痛」

「おい待てよっ!コイツはあんたらの所為で動けないんだぞっ!『ーーヴグッ』レイヴッ!!」

「やーっ!リウおねーちゃんっ」

「やあぁぁぁんっっ!!」


ぐったりとしたリウを連れて行こうとする教官の前に出た俺は、殴られ襟首をつかまれたまま吊り上げられる。


アシェットの声が聞こえる。

双子のなき叫び声が聞こえる。

首が締まる。

耳鳴りが怒鳴り声がする。


だが、それがなんだ?




あれから数ヶ月、定期的にリウは教官に連れて行かれる。

二日前に続き昨日もリウは連れて行かれた。

悪魔が何故か頻繁に出没しているのだと教官がボヤいていた。

理由は分からないが、その為にリウが必要だということだけは察している。

その夜帰って来たリウはいつも以上に疲弊し、ただいま、と一言だけ呟くと深い眠りに落ちたまま今まで眠っていたのに。



ーーフザケルナ。




何かが一瞬にしてドス黒く染まった。



ーー誰を連れて行く?


ーー誰に断りを入れてる?


ーーコイツは


ーーオレの



ーー俺のものだ




襟首を締め上げられながらも一瞬にして逃走経路と目の前の敵を殺す計算をするーーいちばん手っ取り早いのはーー首の骨を折る、か。

拘束されているならされているなりに幾らでも殺す方法はある。


真っ赤に染まった思考の中、冷静に考える。


二人で生きる為に、生き残る為に。


ーー俺は、、



「…やめて…」



ーーっっ!!



俺を戻す声。

あの時と同じ俺をココに戻すただ一人の。




「やめ…行くから、、レイ…ヴをイジメ、な…で…」


「リウ!?待てっ、、グァッッ」


「いい加減黙ってろっ!」


「レイヴッッ」


「レイヴッ。

アシェ…ト、レイヴをお願………て、……イヴ…」




コメカミを殴られ霞む視界の中、震える手を伸ばす。



「リ、……ウ」





伸ばした手は届かない。







ゲームでのレイヴのバッドエンドは、幼い頃両親を殺され復讐者となったレイヴが、アシェット以外の教会関係者を殺しまくり、祈りの月の下、優しい笑みで主人公を抱きしめながら胸を貫くスチルで終わります。

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