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バレンタイン2022

ややセルフ二次時空。バレンタインがこの世界にもあったなら。


「ミハル、少し尋ねたいのだけれど……“バレンタイン”という行事を知っているかしら」


 お嬢様から唐突に質問され、お抱え詩人は目を丸くした。次いで反射的ににやけそうになったのをぐっと堪える。これはあれか、長年の恋が叶った友人ヴィレムへのご褒美の相談とかいうやつか、春だなぁぁ! ……などと浮かれた内心を、まあバレバレではあるにしても取り繕い、すまし顔を装って答える。


「もちろんですとも。一昨年辺りから、都で菓子屋が始めた記念日イベントでしょう。新しい交易路から入ってきた原料でチョコレートってのを作って売り出したけど反応がいまいちだったから、適当な逸話にかこつけて恋人にチョコ贈る日にしましょうってやつ」

「さすがに詳しいわね。わたくしのほうには新しい交易路の情報は入っていたのですけれど、昨日、業者から新商品の売り出しと催事の説明を受けるまで、その行事のことは知らなかったわ」


 都の社交界からは遙かに縁遠く、また妹と違って自由なロマンスを楽しめる立場にもなかったユスティナは、複雑な表情である。ミハルは思いやりをこめて苦笑した。


「こっちは辺境ですからねー。都の流行が届くまで時間差があるのは仕方ないですよ。俺が詳しいのは、普段から色恋絡みの情報には聞き耳を立てているから、ってだけです。代筆の仕事でも稼げるネタですからね!」


 思わずご機嫌になってしまったミハルを見て、ユスティナは面白そうに微笑んだ。


「そうね、きっとまたあなたの一筆でまとまる恋人たちが、大勢生まれるでしょうね」

「実はもう何件か依頼を受けてるんですよ。流行に敏感なお客さんが、想い人に贈るカードを作ってくれってね。チョコと花だけじゃなく、気の利いた愛の言葉を優雅な飾り文字でさらさらっと書いて添えたら効果抜群!」

「あんまり気取った文言では逆効果ではなくて?」

「なぁに、実際は贈る側も貰う側も、字が読めなかったりしますからね。内容は問題じゃないんですよ、秘密めかしたお洒落な文字で何か書かれているだけで魅了されるもんです。お役所の公文書だってそうでしょうが」


 ミハルは応じて、言葉尻でにやりとした。ユスティナも失笑し、今のはなし、というように口元を押さえる。


「ええ、時々ちょっとやり過ぎではと思うようなものが届くわ。解読するのに苦労するぐらいの仰々しい飾り文字なのに、内容ときたら単純な業務連絡だったりして。……こほん。それはそうと、その、……バレンタイン、のことですけれど」

「はい」


 咳払いして本題に戻ったお嬢様に、ミハルも神妙に居住まいを正す。ユスティナは明らかに緊張し、戦に臨むがごとき真剣さで問うてきた。


「彼も……ヴィレム軍団長も、知っている、かしら」

「あー、どうでしょうね。知ってるかもしれませんが、別に期待しちゃいないと思いますよ? いやあの違っ、つまりですね奴はそれが自分に関係ある行事だとは思わないだろ、ってことですよお嬢様からのチョコが欲しくないとかじゃなくて!」


 台詞半ばで相手の顔色の変化に気付き、慌てて補足説明する。それでもまだユスティナが不安げなので、ミハルは言葉をつなげた。


「あいつは今で充分満足して幸せで、お嬢様に何かしてもらえるとかそんなこと、考えてもいやしませんよ。巷で浮かれた恋人たちがチョコを贈り合っていても、それはあいつとお嬢様にとっては、なんにも関係ないことです。そういう儀式とか形とかで確かめるような間柄じゃない。だから、お嬢様がプレッシャー感じることないですよ。あいつに、気の利いた素敵なチョコレートを贈ってやらなきゃいけない、なんて」

「……そう信じても、いいのかしら」

「幼馴染みで親友の俺が言うんですよ、信じて下さいって。むしろお嬢様から気合い入ったチョコ貰ったりしたら、あいつ本気で昇天しかねませんからやめて下さいほんとマジで。そもそもですね、そんな真面目に考えなくていいんです。都でも去年はチョコを巡って決闘沙汰にまでなったとかで、今年は売り手側がそういう事態にならないようにと気を回して、恋人だけじゃなくもっと幅広くこう、『お疲れ様ですチョコ』みたいな? 日頃お世話になってる相手に感謝とかねぎらいの意味で渡しましょう、って方向に変えたらしくて」

「ああ……つまり慰労の品ということですね」

「そうそう。愛する一人に特別なチョコを、ってんじゃなく、もっと気安く手軽に、恋人がいる人もいない人も、大勢が楽しめるイベントとして売り出してますよ。だからお嬢様も、あんまり力まないで無難なのを買って、普通に『はい、いつもありがとう』って感じで渡せばいいんじゃないですかね」


 説明を聞くにつれ、ユスティナは納得の表情になっていく。うまく話を持って行けてミハルが内心ほっとした直後、お嬢様は何かに気付いた様子ではっとなった。


「大変だわ」

「――はい?」

「そういう事情ならば、この町(ベツェレン)でも決闘騒ぎが起きる前に、当家が率先してバレンタインとはごく気軽なものであると示すため、屋敷の皆にチョコレートをふるまうべきでしょう。でも今からそんなに大量に手配できるものなのか、できたとしても我が家が買い占めてしまっては町の皆が楽しめなくなって本末転倒。困ったわ、どうすれば……」


 先ほどまでとは別な方向で悩み始めたお嬢様に、ミハルは苦笑してしまった。伯爵家の跡取り令嬢ともなれば、巷の浮かれた行事ひとつにも面倒が多くて気の毒なことである。


「そんなの、かさ増しの常套手段を使えばいいんですよ。高くて少ししかないものは、細かくしてほかのものと混ぜるもんでしょ。町の業者がどういう形でチョコレートを扱ってるのか知りませんが、一個一個きれいに仕上げる前の状態のを安く仕入れて、細かく砕いてクッキーにでもしたらいいんじゃないですかね。そうすりゃ数もたくさんできる」

「名案だわ! 小麦粉なら充分あるし、料理長に相談して窯を空けてもらって……いえ、まずはチョコレートの買い付けね。ミハル、あなたも手伝ってちょうだい」

「えぇっ、俺が?」

「オルガに渡す分を好きに作って良いですから」

「――っ!?」


 不意打ちを受けてミハルは絶句し、口をぱくぱくさせる。その反応にユスティナはやや呆れ顔をした。


「まさか、バレンタインについて早々に把握していながら、彼女に贈り物をすることを考えていなかったのですか?」

「う……」


 ぐうの音も出ず、ミハルはその髪と同じぐらい赤くなった顔を両手に埋める。いや、だって、などと小声でもそもそつぶやくばかりの詩人に、ユスティナは笑いを堪えて温かい言葉をかけた。


「オルガはまだ、どこか遠慮がある様子ですもの。チョコレートをきっかけにして、ここが自分の居場所だと感じてもらえたら、わたくしも嬉しいわ。ですからミハル、一緒に想いを込めて作りましょうね」

「……」


 はいと一言応じることもできないまま、ミハルはこっくり深くうなずいたのだった。


   ※


 そんなわけでバレンタイン当日。

 前もって、伯爵家では皆にチョコレートのお菓子が配られるそうだ、という噂が流されたため、では我々も、と参加する人が増え、町全体がわりあい分け隔てなく楽しげな雰囲気になっていた。

 賞金稼ぎの事務所でも可愛らしい一口チョコがふるまわれていて、訪れたミハルはちょっと安堵した。この様子なら、はいこれもどうぞ、と渡して不自然ではないだろう。

 などと胸をなで下ろしたところへ、


「あれっ、詩人さん? どうも、こんにちは」


 奥の談話室から当のオルガが出てきて呼んだものだから、ミハルは飛び上がりそうになった。そのうえ、反射的にチョコクッキーの袋を背後に隠してしまう。

 オルガは彼の挙動不審を気にした風もなく、闊達に話しかけた。


「良かった、ちょうど一仕事終わって落ち着いたところだったんですよ。昨日までだったら、来てもらっても会えなかったかも。そろそろお屋敷のほうに、皆さんの顔を見に行こうと思っていたところです」

「わー、タイミング良かった!」

 裏返り気味の声で応じたミハルに、オルガはさすがに小首を傾げる。

「ええと。それで……何かお屋敷の用事ですか?」

「あ、いや、そうじゃなくて。えと、あの」


 あたふたと応じながら、

(お屋敷の用事ってことにしとけば変に気負わず渡せたのに俺の馬鹿ー! いやでもそれじゃ意味が無いんだよちゃんと俺の誠意と真心を受け取ってもらえなかったらどうしよウワー!)

 例によって高速で錯乱した思考をめぐらせ頭を抱えたくなったのをぎりぎり我慢して、

「これを!」

 何の工夫も説明もなく、袋を突き出してしまった。オルガは目を丸くしたものの素直に受け取り、甘い香りに気付いて嬉しそうに納得した。


「そちらでは皆にお菓子がふるまわれると聞きましたが、わざわざお裾分けを届けてくれたんですね。ありがとうございます」

「いや違っ、それは」


 声高になりかけ、ミハルは慌てて口を押さえた。ちらりと周囲を見渡し、今なら幸いそれほど注目されずに済む、と確かめる。下手に場所を移して二人きりになったら、余計に緊張してしゃべれなくなるだろう。

 心を固めて姿勢を正し、小さく咳払いして気持ちを落ち着かせる。


「……それは、俺が作ったんです。お嬢様が屋敷の皆に配るぶんを焼くのを手伝った時に、オルガさんへ渡すのを、その、特別に」


 訥々とそこまで言い、本当はもっと伝えたいことがあるのに上手く言葉にできず黙り込む。向かいでオルガが「ああ」とため息のような声を漏らした。喜んだのでも、照れ隠しでもない、複雑な反応だ。そっと様子を窺い見ると、彼女はなぜか寂しげな表情を浮かべていた。

 迷惑だったのだろうか。

 ミハルが動揺を顔に出すと、オルガは察していつもの朗らかな笑みを取り繕った。


「すみません、嬉しくないわけじゃないんです。実はこういうのはちょっと、苦手で。バレンタインだけじゃなく、記念日、っていうのが。……一度こうやって贈り物をしたら、来年もこの時期には思い出してしまうでしょう。その時に……」

 曖昧に言葉を濁して首を振る。沈黙の中に隠されたのは、『来年はもう一緒にはいないかもしれない』という恐れ。来年ではなくとも数年先には、またひとりぼっちになっているかもしれない。その時に、否応なく訪れる記念日が思い出を連れて来るのが怖い。

「なんて言ってたらなんにも楽しめないんですけどね。うん、これ、本当に嬉しいです。クッキーも好きだし。ありがとうござ――」


 強引に明るく会話をまとめようとしたオルガは、いきなり手を握られて息を飲んだ。ミハルは決然とした表情で、彼女の手を引いて歩き出す。そうして前を向いたまま、彼は真摯な声音で言った。


「行こう。お屋敷で、皆でクッキー食べながらお茶して、いっぱいしゃべって、なんならカードゲームとかもして」

「し、詩人さん。ええあの、それには賛成ですが、その」


 手は……と言いさしてやめ、オルガは繋がれた手を不思議なもののように見つめる。子供ではないのに、こんな風に手を引かれて歩くなんていつ以来だろうか。


 相変わらずミハルは振り向かない。

「記念日とか関係なく、できるだけ一緒に過ごそう。それで、いつのことだったかごっちゃになって思い出せないぐらいたくさん、たくさん、楽しいことも嬉しいことも、贈り物も、山ほどつくって」

 飾らない言葉を、不器用に、愚直に重ね連ねていく。

「来年も再来年も、じいちゃんばあちゃんになるまでずっと、そうやって暮らそう。約束なんてできないけど、そんなのなくても、気にしてる暇なんかないぐらいにさ」

 語尾がかすれて揺れ、つないだ手に一段と力がこもった。


 オルガは詩人の背中を見つめ、微笑んだ。きっと今、彼は泣きそうなのをぐっと我慢しているのだろう。憐れんでなんかいない、同情していると思われたくないから。彼はただ、愛する人に幸せでいてほしいと願っているだけなのだ――たぶん。

 ならば自分も、この人に幸せでいてほしい。そう思うと同時に、胸から寂しさの影がすうっと引いていく。オルガは自然と口をつくままにささやいた。


「……ありがとう、ミハル」


 直後、詩人がつんのめって転びそうになる。連れを巻き添えにしないようぎりぎり踏ん張ったが、危ないところだった。

「だ、大丈夫ですか詩人さん!?」

 元に戻ってしまった呼びかけに、ミハルは落胆と安堵のどちらをより強く感じているかわからないまま、胸を押さえて動悸を鎮める。

(あーもう、こんなんじゃあいつのこと笑えねー……あいつ、今頃どうしてっかな。無事にお嬢様からクッキーもらえたかな……あ、だめだ気絶しそう)


 天を仰いで深呼吸。それから彼は振り返り、心配顔のオルガに笑いかけた。

「焦って急いじゃ危ないですね、ゆっくり行きましょう。うん」

 おどけた物言いに込めた二重の意味は、相手にも間違いなく伝わったらしい。オルガはぷっと吹き出すと、気恥ずかしそうに「そうですね」とうなずいたのだった。


   ※


 一方、親友に心配されている軍団長はというと。


「それでは、手数をかけて申し訳ありませんが、あとの分配はお願いしますね」

 執務室の机に並んだ大きな籠に、山盛りのチョコクッキー。甘い香りが部屋に満ちて、直立不動の士官たちも顔はしまりなく崩れ気味である。

「事前に頂いた名簿をもとに必要な数を計算し、少し余分を加えてありますから、作業中に何枚か割れてしまっても足りるでしょう」


 これを、とユスティナが一枚の紙を籠に添える。階級に応じて配る枚数を記したものだ。ヴィレムが「畏まりました」と頭を下げた隙に、横から副団長が紙を取る。

「やや、これはご丁寧に畏れ入ります。ここまでご指示を頂けたなら、あとは単純に配るだけのこと、我々にお任せを。皆、楽しみにしておりましたからな!」

 その言葉通り、待ちきれないとばかり隊長たちが我先に籠を抱える。


「今年の新入りは恵まれてますなぁ、いきなりお嬢様の手作りクッキーが食べられるなんて羨ましい」

「あ~~はやく食べたい……」

「つまみ食いは駄目ですよ隊長」

 わいわいと話しながら改めて一列に並び、お嬢様に敬礼して、

「ではこれより分配作業にかかります。お先に御免」

「それでは」

「ではでは」


 やたらとにこにこ上機嫌で目配せなどして、ぞろぞろ退室していく。後は恋人同士でごゆっくり、と言いたいのがあからさまで、ユスティナは平静を保ちきれず赤面した。もちろん侍女はいつも通り後ろに控えているが、最近はよく壁に同化してくれるもので、実質ヴィレムと二人きりである。

 ヴィレムのほうは一見したところ全くいつもと変わりなく、落ち着いた態度のまま改めて一礼した。


「白獅子軍団を代表して、お心尽くしに厚く御礼申し上げます」

「こちらこそ、いつもベツェレンのために尽くしてくれて感謝していますよ。兵の一人一人にまで伝える機会はなかなかありませんが、今日のささやかな贈り物がねぎらいになれば幸いです」


 お互いに立場上必要なやりとりを交わしたのち、どちらからともなく目を合わせ、ほっと表情を緩める。ユスティナは一歩進み出ると、ずっと大事に持っていた物を、空いた執務机にそっと置いた。上品な藤色の薄布で包まれた小箱だ。


「これは、あなたに」一言告げてから、急いで付け足す。「ごめんなさい、中身は他の皆と同じなのです。本当は別なものを用意するつもりだったのですけれど、皆のぶんを用意するのに夢中で、材料を使い切ってしまって」


 反応はない。大柄な軍団長は執務机の向こう側に突っ立って、小箱を見つめたまま山のように微動だにしていなかった。ユスティナは恥ずかしいのと不安とでいたたまれず、そわそわする。しばしの沈黙があり、耐えきれずに彼女は告白した。


「……いいえ。本当はうっかりしたのではなくて、作れなかったのです。わたくしは、そもそもあなたが甘い物を好きなのかどうかさえ知らないことに気付いてしまったから」

 ユスティナは恥じ入り、目を伏せた。

「あなたはわたくしのことを、立場ではなく個人として見てくれていたのに、わたくしはただ、あなたのことを頼もしく誠実な軍団長だと思い憧れていただけで、ほとんど何も知らないまま。だから……どうか時間をください。来年にはきっと」


 決意と共に顔を上げたところで、ぎょっ、と目を見張る。ヴィレムが机に手を突き、今にも倒れそうになっているではないか。

「ヴィレム!? しっかりして下さい、すぐに医師を」

 驚きうろたえて駆け寄り、支えようとしながら侍女に指示を出そうと振り返る。だが頼りの侍女は耳を塞いで壁のほうを向いており、主人の叫びを無視していた。


 どうしよう、と狼狽するユスティナの手に、大きな手がそっと重ねられる。

「大丈夫です」

 かすれ声のささやきは、初めて聞く柔らかい響きを持っていた。本当に大丈夫か、とむしろユスティナは不安になる。今際の際に聖人じみた穏やかさを示す人間もいるではないか。

 幸い、軍団長の命運はまだ尽きていないようだった。ほっと深く息をついて、申し訳なさそうにゆっくりと身を起こす。

「ただ、喜びのあまり……」

 つっかえ気味にそれだけ言って彼は――苦笑した。はっきりと、笑みとわかる表情を見せたのだ。

 ユスティナが衝撃を受けて棒立ちになっている間に、彼は恭しくお菓子の小箱を手に取り、ぺこりと頭を下げた。


「菓子は好きです。ありがとうございます」

「そ、そうですか……良かった。ええ」


 しどろもどろに答え、ユスティナは真っ赤になって、体裁を取り繕う余裕もなく逃げるように出て行く。侍女が呆れて二人を見比べ、頭を振りつつ主人の後を追ったが、ヴィレムはそれを見てもいなかった。


   ※


 後ほど合流した幼馴染み二人が、

「いやー危うく死にかけた。やばすぎるだろバレンタイン」

「……」

 だとかしみじみ語り合っていたとか。

 長い手紙を受け取ったお嬢様が失神しそうになったとか。

 手作りクッキーを横からつまみ食いされた賞金稼ぎが同業者と乱闘になったとか。


 そんなあれこれの話を聞きながら、領主である伯爵はぽつりとつぶやいたという。

「来年はわしも娘のクッキーもらえるだろうかのぅ……いっそバレンタイン禁止にするか?」

 不穏な独り言を聞いたのは、壁の肖像画だけであった。




(終)





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― 新着の感想 ―
[良い点] あげる方も貰う方も威力高いバレンタイン! イベントは、イベントにかこつけて素直な想いをあらわにできるのが大変ありがたいですねぇ……! 四人とも幸せになれー!お返しもきっとみんな幸せだぁ!(…
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