第四話
「なるほどな、いつの間にかここに来ていたと、しかし運が良かったな。外来人は妖怪に特に食べられやすいからな。」
「私はちょうどこれから人里に戻るところだから一緒に行こう。言っておくが妹紅の家に泊めてもらおうなどとは思わないほうがいいぞ。見てのとおり寝具さえないからな、妹紅の家は。」
「悪かったな、客人を止められない家で。」
私たちが出会った二人は上白沢慧音さんと藤原妹紅さんというらしい。今日は上白沢さんが藤原さんの家を訪ねた帰りだったらしい。野外で話すのは危険だということで藤原さんの家にお邪魔させてもらっている。
「ありがとうございます。」
「ところでお前達はやはり外の世界に帰らないのか?」
「えっ!そんな、帰るに決まっているでしょう。」
「そうか、実は外の世界に帰りたがらないやつが増えているんだ。特にここ最近は全員が戻りたがらない。どうも外の世界では働き口が見つからず、また見つかっても生活は非常に苦しい。将来の希望がとても持てない。妖怪に食べられる危険があってもまだこちらの方がましだというのだが、やっぱり違うのか?」
(就職できないって)
(戦前のことよね。今はむしろ足りないから中学からのアルバイトが許可され定年退職が無くなっているものね)
(とりあえずそう伝えるわ)
「確かに何十年か前はそういうことがあったみたいですけど今はそうでもないですね。むしろ足りないってなっていますよ」
「ふむ、君達の言っていることが正しいのか、彼らのほうが正しいか、まあ、その議論は今することではないな。さてそろそろ歩けるか?」
「はい、もう大丈夫です。」
藤原さんにこの竹林が迷いの竹林と呼ばれる所以を説明してもらった。いつも深い霧が立ち込め、竹の成長が早く日々変化しているためこれといった目印も無く緩やかな傾斜のため方向感覚が狂うため、よほどの幸運が無い限り脱出できないからだと。
「でも藤原さんは「妹紅でいいよ。」妹紅さんは出られるんですよね、もちろん。」
「そうじゃなきゃここで暮らせんよ。まったくそれさえなければ兎や筍などの食料が豊富ないい場所なんだが。」
「兎ということは狩りをしているのですか?」
「まあ、基本は罠だな。あれならかかりそうな場所に仕掛けておくだけでいい。お前らは違うのか?」
「猟銃を持って鹿とかいろいろ狩っています。今の日本は人口がだいぶ減ったのでその分動物が増えているんですよ。」
「銃か、便利なんだけどここじゃ使いにくいからなあ。まあ、それは弓矢でも同じことなんだが。」
「間違えて人を撃つということ有り得ますからね。ここ見通し悪いですし。あっ、もしかしてもう外ですか?」
夢の中では決して出られない場所のひとつだった竹林からあっさりと出られたことに驚きを隠せない。やはり妹紅さんの言うとおり方向感覚が狂っていたからだろう。
「ここまでくれば迷いようが無いな。じゃあ縁があったらまた会おう。できれば竹林以外でな。」
「「ありがとうございました。」」
「何、構わんよ。じゃあ慧音、後のことは頼んだ。ああそうだ。慧音、これを。」
「…?…ああなるほど確かに必要だな、分かった。じゃあ、また。さて、里はこっちだ。」
妹紅さんは慧音さんに筍をいくつか渡した。どうやらここで帰るようだ。最後に挨拶し、歩き出す。ふと振り返ると妹紅さんがこちらをじっと見ていた。どうやら見送ってくれているらしい。