第二話
食堂から出て行く蓮子の姿を見送りながら私はこれからの予定を考える。
(確か今週末は確実に私たち二人ともあいていたわね、ここに狩猟のアルバイトを入れましょう。二日も参加すればそれなりの戦果は見込めるはず。それ以降はちょっと不確定だけど開いてる日に入れていくしかないわね。)
食器を返却し図書館に向かう。
(こうなると学費や生活費の心配をあまりしなくていいのは助かるわね。返還不要の奨学金をもらっているし、生活補助ももらえている。優秀な頭脳に感謝ね。本当に)
図書館で借りていた資料を返却し、次に必要な資料をいくつか本棚から取り出して最後に休憩時に読む用の雑誌や本を探す。
(やっぱり鎖国を支える技術についての本が多いわね。まあ、この状況で開国しても貿易できる国は皆遠くにあるか紛争地帯の隣だし、境界線警備を緩めたら難民がどっと入ってくる。そうなれば日本の国土では養えない人たちでこの国はまた戦乱の時代に逆戻りする。私が生きている間にそんなのいやよ。まったく大陸の戦争が終わるのはいつかしら。)
戦前の人権団体が聞けばなぜ助けないのかと大騒ぎしそうな考えだがこの時代ではごく当たり前の考えだった。実際せいぜいいくつかの地域での紛争が世界中に広まった原因のひとつに難民による治安や食糧事情悪化があるからだ。難民が出ることにより周辺国が援助と封じ込めに少なくない費用を使う。当時の先進国と呼ばれる国々はもちろん援助を行ったがそれぞれの国も何らかの事情により国内情勢が悪化し、余裕がなくなると打ち切られ難民には大量の死者が出始める。そのころには紛争をしている各勢力は難民に武器を渡して周辺国を攻めさせることにより帰って来ないようにし、難民も生き残るために略奪を起こした。軍だけでは押さえきれなくなると難民達は各地ですさまじい蹂躙を繰り返し、また難民が発生した。その難民によって治安が悪化したそのまた周辺の国々は難民とともに少数民族や移民を弾圧しそれに反発した勢力がテロを起こし、場合によっては内戦状態になり、また難民が発生する。その繰り返しであっという間に戦乱が広がってしまったのだ。そしてそれが起こったアフリカや中央アジア、南アメリカでは国家がいくつも崩壊、消失している。日本も経験し人口が戦前の十分の一以下まで減った。島国で無かったら消滅していた可能性もあった。それゆえ今の日本に人道、人権を声高に叫ぶ声はほぼない。あっても売国奴として周りから徹底した迫害を受ける。
(合成食品の元になっている究極米、究極麦に関する本。後は核融合発電関係の本かしらね。借りるとしたら。)
内乱後日本は鎖国するため生産性が高く栄養価が高い作物が必要になった。そこで英仏海峡トンネルを封鎖し鎖国しようとしていたイギリスと手を組んだ。当時イギリスは国内の試験農場が塩害でダメージを受けていたため農地が無事な日本で研究することが決まり多くの科学者、技術者やその家族が来日した。(その中にメリーの両親もいた。彼らは研究が終わっても一部しか帰国しなかった。そのためメリーは日本にいる。)そして日英共同で作った究極米、究極麦はありとあらゆる栄養素を付けられることから国が全国的に推奨した。これからありとあらゆる合成食が作られる。もっとも味は本物に比べたらはっきり言ってまずい。初期の食べられる食品サンプルと酷評されたものよりは多少ましになっているとは言っても。そのため新鮮な野菜を大量生産する野菜工場を建設、稼動させるための大量の電力を作れる民間用の核融合発電所の追加建造が急がれている。ちなみに軍事用の核融合発電所は日本国籍以外の船を撃沈するための無人戦闘艦、戦闘機の動力の電気の供給を目的として作られている。
目的の本を借りられた私は家に帰った。