X.見えない敵
大学生活にもだんだん慣れてきて、夏休みに入ろうとしてる7月の終わり。
土日を使い、天体観測サークルの初めての天体観測活動が行われることになった。
「加藤くん久しぶり!」
「凛さん、宗太郎お久しぶり!」
「どう?医学部は大変?」
「まあ、実験とかレポートの提出に追われてたけど、やっと夏休みに入るし少しは羽伸ばせるかな。」
「キャンパスが少し遠いから、サークルでしかなかなか会えないですね。」
「神奈川のキャンパスは理系が揃ってるからか男子ばっかりだし、みんなわざわざ活動的なこっちのサークルに入ってる奴多いわ。」
「天体観測サークルはほとんど活動ないし、僕たちはいつも部室でレポート書いてますよ。」
久しぶりに会ったからか、私達はお互いのキャンパスの状況を話していた。
「あ、そういえばG大の奴らに聞いたんだけど、怜さん大学退学させられたらしいな。」
「…退学…」
「何か知ってるの?」
「あ、いや…怜さん…逮捕されたんだ。このキャンパスに来て、問題起こしてね…」
「そんなことがあったのか…凛さん、大丈夫でしたか?」
「あ、うん。宗太郎がそばに居てくれたから。」
「…そっか。よかった。で、2人は付き合ってるとか…?」
「え…!?」
「それ。スマホのイヤホンジャック。お揃いだから」
「バレちゃいましたか…」
「ふふ。さすが、加藤くん。」
「実は、一緒に住んでるんです」
「え!?同棲?ちょ…自分から聞いたことだけど、ことが早く進みすぎじゃないか!?」
「いや、同棲というか…」
「実は、ママと一緒に宗太郎の家に居候してて。たまたまね、ママと宗太郎のお父さんが同級生で、怜と別れたことでパパが激怒して…ママと家出してきちゃったの。」
「あ、でも部屋は別々ですよ!」
「当たり前だろ!」
「両親たちの前で、宗太郎がお付き合いさせてくださいって。」
「宗太郎、男らしいところあるじゃん。」
「諒太さん、僕にだって大切なものを守る時は本気になりますよ!」
「大切なもの…か。俺にもそんな人見つかるといいな。ナースはやめておきたいんだけどな。うちの母さん、ナースだったから。」
「加藤くんには絶対年上のしっかりした奥さんが必要ね。」
「僕は凛さんのようなお嫁さんが欲しいなと思っていたんですが…」
「私はお医者さんの奥さまには相応しくない。私は宗太郎を総理大臣にするために頑張るんだから!」
「さすが、凛さん。宗太郎を総理大臣にさせるなんて凛さんにしかできないですね(笑)」
「凛さんがファーストレディーになるために僕が頑張らなければです」
「悔しいけど二人お似合いだよ。総理大臣とファーストレディーかあ。凛さんがファーストレディー…うん、なんか想像出来る。宗太郎が総理大臣…は、まだ想像つかないけど。凛さんが宗太郎のことうまくリードしてくれるんだろうな。」
「ほら、そこの幼なじみの仲良し3人衆、出発するぞー」
「やば!」
「はーい!今行きます!」
久しぶりのサークル活動は、みずがめ座δ流星群を観測するための二泊三日の合宿であった。
「天体観測サークルでは、未成年の飲酒は断固として認めません!未成年を交えた食事会では上級生も飲酒を遠慮することが我がサークルの決まり事です。」
「意外と硬派なサークルなんだな。」
「ま、色々と世間では問題になってるからね。身を守るためにはこういうサークルが一番かも。」
「そうですね。僕は昔から天体観測が好きなのでとても嬉しいです。」
「流れ星…観れるといいな。」
「何をお願いしますか?」
「うーん、秘密!」
「部屋割り表を配ります!まず荷物を置いて、また10分後にここに集合で。貴重品は必ず身につけてくださいね」
代表から部屋割り表をもらうと、私は経済学部の渡辺結衣という子と同室だった。
少し、硬めのお嬢様、という印象。
「松風さん、よろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「松風さんって加藤くんと泉くんと仲良いのですね。」
「ええ、G学園で小学生の頃から一緒だったので。」
「それは本当に幼馴染のような存在ですね」
「渡辺さんはK大付属からですか?」
「はい。高校からですが…それまでロシアに住んでいました。あの…結川那津のこと覚えていますか?」
「ゆかわ…なつ…?」
「K大の先輩なのですが、松風さんのこと知ってるみたいで」
「そう…帰ったら母に聞いてみます。」
「あなたのこと、探していましたよ」
私は少し怖く感じた。
結川那津…誰なんだろう。
渡辺さんと話していた時に、宗太郎から電話がきた。
「諒太さんとお話ししてたのですが、自由時間3人で散歩に出かけませんか?」
「あ、うん。いいよ。」
「相部屋の人はどう?」
「え、うん…あとで話すね。」
「じゃあ、またあとで。」
「あ、宗太郎…!」
「どうした?」
「ううん、なんでもない。」
「あとで聞くから待ってて。」
「松風さん、もう集合時間だから行きましょう。」
「あ、うん。先に行ってていいよ。」
「じゃあ、先に行ってますね。」
渡辺さんが部屋を出て行き、部屋では一人になった。
「宗太郎…?」
「どうした?」
「ちょっと、渡辺さんから言われたんだけど…結川那津って名前知ってる?」
「結川那津…諒太さんにも聞いてみます。詳しいことはまた後で。」
電話を切り、先ほど解散した場所に戻る。
「はーい、みんな集まったかな?これから夕飯の買い出しまで自由時間にします!16時にまた集合してください!」
「凛さん、行きましょう。」
「加藤くんは?」
「電話でさっきの名前を聞いてるみたい。」
「わたしのこと、探してるんだって…結川那津って人…」
「もしかしてだけど…山口那津じゃないかな?」
「山口…って高校から他校に進学した…サッカー部の先輩?」
「名字が変わったってことかな。」
「K大の先輩だって言ってた。」
「高校からK大付属に進学したのかもしれない」
「凛さん!宗太郎!遅くなってごめん。」
「加藤くん、心配かけてごめんね。」
「ここじゃ話を聞かれてしまうので、近所のカフェに行きましょう。」
私たちは3人でカフェに向かった。
「さっき、凛さんから聞いた名前なんだけど」
「山口那津…」
「山口先輩が、母親の姓を名乗ってるらしい。結川家のお嬢様らしいんだよ、母親が。」
「結川家…って…」
「ユカワホールディングスの…」
「どうやら、山口先輩の母親の弟っていうのが大病を患って亡くなったらしいんだ。」
「山口先輩って確か…」
「ああ、父親はプロ野球選手の山口将貴だよ。」
「離婚したってことか?」
「いや、どうやら母親の姓を名乗ることで祖父である結川総一郎の孫であることを形式的に示しているみたいだな。」
「それで、どうして私のことを探しているのかな…」
「それは分からないな。昔から凛さんことが好きだったとか?」
「K大なんだろ?すぐわかるんじゃないか?」
私は心の中の整理がつかないままであった。
わたしは宗太郎の手をとり、ぎゅっと握った。
「凛さん、大丈夫です。」と宗太郎はその手を優しく包んでくれる。
天体観測サークルの合宿はまだ始まったばかり。何が起こるのか誰も予期していなかった。




