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08

『そなたが噂に名高い黒魔導師ガイか。』


その男、アーリィア大陸南西部の大国、ダルルーシュ皇国の皇王ダヨン三世は遥けき高みから印象的な強い眼差しでガイを見つめた。

深紅の髪は宝冠のように輝き、同様の鮮血色の瞳が意思の強さを顕わしていた。


好戦的とはいえ公平で広い心を持っている皇王だと聞いて居る。

相次ぐ戦に大陸の、国も人も疲弊し尽くしていた時代、ダヨン三世は嫌われ者の黒魔導師を自ら統治するダルルーシュ皇国に招聘していた。


『人の為、国の為に戦った魔導師を粗略にする事はまかりならん。我がダルルーシュにて寛ぎ、安らかな生を歩まれるが良い。』


破壊する術に長け、偏屈で人嫌いな黒魔導師と云えどももとは人間。

情に餓える事もある。

戦が終われば掌を返したように蔑まれ、追われるのはさすがにもう嫌だった。


肥沃な穀倉地帯と豊かな山河に囲まれた大国は理想的な終の棲家となるだろう。

ダヨン三世は心から仕えることの出来る御方だろう。

ガイも、その同胞たちもそう思った。

が、

その平穏は二年も立たず崩れ落ちた。


ダヨン三世の狂気を発端として。





トーリア王国騎士拍ランスロット・ジュライの手引きに寄り、王都を抜けだした三人はジュライ辺境伯の助けを借りやっと魔の森の前に立っていた。

ゼルとガイ、そして弓月の前に厳つい魔族が立ち並んでいた。


魔の森の入り口で既に十日。

森に入る許可は未だに下りていない。

睨み合ったまま互いに一歩も退かずに居るが魔族の視線はガイ一人に向けられていた。


「ねぇ、ガイ。謝っちゃえば。」

「お前は黙ってろ。」

「だって昔の話なんでしょ。百年も経てば時効だよ。」

「バカ、魔族の百年は人間の十年程度だ。」

「ヒョエ―――、長生き君だねぇ。」

「良いから喋るな。」


ガイの背中に隠れてコソコソと弓月とゼルが話していると空気が揺らいだ。


「我らをこの森に追った張本人が今更何の用だ。」


それは今までの下っ端とは違い、ひときわ重厚な魔族の重鎮と知れた。

出て来たのは黒味を帯びた赤銅色の肌ととてつもなく立派な角を持つ魔族だった。


「あ、魔王様だ。」

うっかり出た弓月の言葉に冷ややかな目線を呉れる。


「小娘、口が騒がしいな。我は魔王では無いが・・・人と関わらぬはずの黒魔導師が何故そなたらと共に来やった。」

重低音の声。

笑みの欠片さえない表情。


だが、大概の人間ならば腰さえ抜かす恐怖を弓月はいとも平然と撥ねつける。

「山脇雅也を探してるんだ。おじさん、この森を通してくれない?」


おじさん。と呼ばれた魔族が絶句した。






考えていたより大型船だった為、揺れは少ない。

息を呑むほど吸い込まれそうな深い碧の海とその面に立つ白く泡立つ航跡に、陸地を忘れて早五日が過ぎていた。


この航海に出る寸前の大騒ぎを思い出す。

モーリとジュジュと女将の三人に最低限の料理技術を叩き込んで二週間。

彼らも頑張ったがマサヤも頑張った。

人に教えることの難しさを堪能した。


仕上げはさすがにモーリが手慣れていたが、ジュジュが思わぬ戦力となり手先の器用さで仕込みに大活躍だ。

最初に見たあのぼんやり小娘は何処へ行ったのだろう。

この地では気味悪い筈の甲殻類も平然と扱う手付きはマサヤをも驚ろかせた。


『ジュジュ、お前・・・良く平気でさわれるな。』

モーリの言葉にジュジュは真面目に答えた。

『だって~、美味しいじゃない。美味しいのは、好き~。』

そう云いながらバキバキとエビやカニを剥いて行く。


大エビフライにハムカツ、エビカツ、カキフライ。

シチューはクリームとポメロ(トマト)の二種類。

女将お気に入りのリゾットに、バラシスでは珍しいとは言わないが一般的ではない肉類も少々。

最低限のメニューを組んで、レシピを書いて、手取り足取り・・・


マサヤが戻るのは早くてひと月後の予定でも海の様子では遅れる事もある。

行きはクレインの船だが彼らはそのまま先に向かうため、帰りは別の船に便乗するので無理は云えないだろう。


忙しい合間を縫ってハンターギルドのダダの紹介で商業ギルドに登録する。

個人取引でも一定量を超えると登録証が必要だったからだ。

眼のまわる様な二週間を何とか乗り切りマサヤはよろめきながら『海亀号』に乗り込んだ。


航海の間にクレインはバラシスの街の成り立ちを話してくれた。


『もう百年以上昔だ。

シルバーナ諸島は島によって特産も違うためそれ以前から交易が盛んだった。

だが今の様な大型の船は無く手漕ぎ船に毛の生えた程度でな、当然島の間の海流で難破する船も多かったんだ。だがある船大工がそれまでよりも大きく頑丈な船を造り、命知らずな若い船長が諸島の先を目指した。見つけたのは大陸、大山脈の真下の辺鄙な漁村。

だが、そこに居たのは十年前に海で死んだはずの父親だった。』


シルバーナ諸島で難破した多くの船は確かに沈んだが、ごく少数の運の良い船乗りたちが海流で運ばれて、そこがバラシスの村となった。

元々が船乗りばかりの為、山越えなど欠片も考えない。

視線は常に海へと向けられていたから。


『聞いた話によればある時魔族の一人が現れて、初めてその地がアリア大陸の最西端と知ったらしい。』


ああ、それは判る。

魔の森からやって来た変わり者の魔族、ダダだ。


元からの良港。

シルバーナ諸島との交流が生まれ、人が行き来し始める。

バラシスが発展するのにそう時短は掛からなかった。


「見ろ、あれが第一の島。シルバーナ諸島最大の岩礁に囲まれたロック島だ。」


クレインの指が黒い島影を指示した。





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