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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第三章「敗北が約束されたクエスト」

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40/44

40.勇者は諦めない!!

 結果的に言えば、魔王ヒュカリスを残してシュガルツ最大のアタッカーミスランドがその魔力を使い切ってしまった時点で、もう敗北したと言えよう。サンドワームに囲まれ、目の前には実質魔王二体。多くの死傷者を出しながら戦った『死の砂漠の戦闘』は、佳境を迎えていた。



砲撃ファイエル!!!!」


 副騎士団長ミスランドが放った『灼熱の砲弾』。ゴオゴオと唸り声をあげながら巨大サンドワームへと放たれる。



 ドオオオオオオオン!!!!


 命中。巨体ゆえ、当てるのは難しくない。だがその堅固な皮膚はやはり完全に破壊することはできなかった。



「ギュゴオオオオオオオオ……」


 ダメージは入っている。だが破壊された皮膚の一部が、着弾と同時に再生されていく。どうやったらあれを倒せるのか。シュガルツ王国最大の火力をもってしても破れない硬い皮膚。ミスランドが額から大粒の汗を流しながら叫ぶ。



「クソ野郎ども!! 時間を稼げ。まだ撃てる、まだ……、はあはあ……」


 片膝をつくミスランド。魔力の消耗が激しすぎてもはや立っていられない。小隊長が叫ぶ。



「隊を組め!! 正面から当たるな!! 囲って攻撃せよ!!」


「「おう!!!」」


 雑魚サンドワームをほぼ倒した騎士団、そして残った冒険者らも前線で苦戦する味方の援護へと動き出す。



(さすがにまずいな……)


 元々こちらの戦力は筒抜け。それを上回る敵を配置されたら、そりゃ勝ち目はない。勝機があるとして起こした遠征だろうが、その指揮官が内通していたのなら端から話にならない。


「ココロ。撤退も頭に入れておけ」


 俺は勇者の剣を持ち、走り出そうとしていたココロに言った。


「そんなの無理!! みんな頑張ってるんでしょ!!」


 頑張って何とかなる相手ではない。客観的な実力差。あの後ろに居る女魔王は更に強い。サヤカも厳しい表情をして言う。


「申し訳ございません、エリート様。私も、もう同じ過ちを繰り返したくないのです……」


 先の遠征から一人生還したサヤカ。彼女からすれば、ここで撤退したらまた同じ轍を踏むことになる。もちろん紫髪の姫キャロルも退かない。フレイムソードを掲げ皆に言う。


「行くよ、みんな!! シュガルツは負けない!!」


「うん!!」



「……参ったな」


 俺は頭を何度も掻きながら、ゆっくりと先頭へと歩き出す。どうやったらこの場を抑えられるのか。そんなことを考えながら皆の背中を見つめた。






「食らいなさい!! フリーズロック!!!!」


 とは言え最後尾からの新たな援軍は、この追い詰められた戦況に変化をもたらせた。サヤカの魔銃。左手の魔銃から放たれた氷結魔法が巨大サンドワームを襲う。


 ドオオオン!!!!


(フリーズロックだと!?)


 全身汗だくのミスランドが驚く。それは氷結系の中でも上位の魔法。それを元騎士団とは言え、下級冒険者が容易に手に入れられる品ではない。



 ガガッ……、パキ、パキン……


 巨大サンドワームが一瞬で凍り付く。さすがのヒュカリスもその光景に一瞬驚きの表情を浮かべる。ミスリル魔弾に込められた俺の魔法。まあ、それぐらいは当然だろう。サヤカがもう一丁の魔銃をぶっ放す。



「これで終わりです!! メテオシュート!!!!」


 ドオオオン!!!!


 そして当然だが、凍った相手には岩系の魔法。巨大な岩石を相手に撃ち込むメテオシュート。連発される上位魔法に皆が驚く。



「ギュゴオオオオオオオオ!!!!」


 バキ、バキン!!! ドオオオオン……


 巨大サンドワームを覆っていた氷が割れ、その巨体が轟音と共に砂の上に倒れた。倒せはしなかったが、ミスランドですら不可能だったダウンを初めて奪った。ヒュカリスが口に手を当てて驚く。



「あら、ナナちゃん。これはびっくり……」


「何だと!? 『恥晒しのサヤカ』が、嘘だろ……」


 裏切り者のガンダスも想定外の事態に顔を青ざめる。ココロが叫ぶ。



「今よ!! みんな突撃っ!!!!」


「「おおーーーーーっ!!!」」


 騎士団、そして冒険者が一斉に倒れた巨大サンドワームへと襲い掛かる。千載一遇のチャンス。ここで仕留めなきゃ負ける。皆がそう胸に刻み剣を振る。



 ガン、ガガン!!!!


 だが現実は甘くない。サヤカの攻撃で体力こそ奪ったものの、依然としてその固い皮膚は健在。冒険者や騎士団の攻撃を嘲笑うかのように弾いて行く。ココロが泣きそうな顔で言う。


「もう何なの、これ!! 硬すぎっ!!」


 勇者の剣、そしてフレイムソードですらまともに斬れない。



「ギュゴオオオオオオオオ!!!」


 ドオオオオオン!!!


「きゃあ!!!」


 起き上がったサンドワームが体をくねらせ冒険者や騎士団を薙ぎ払う。たった一撃。一撃で残っていた者の多くが戦闘不能へと追い込まれる。



「下がりな、クソチ〇ポ野郎ども!! くたばれ、砲撃ファイエル!!!!」


 間髪を入れずに放たれるミスランドの『灼熱の砲弾』。倒れた冒険者を飲み込んでいたサンドワームへと放たれる。



 ドオオオオオオオン!!!!


「……くそ、くそくそっ!!!!」


 だがやはり結果は同じ。サンドワームの堅い皮膚を少し破壊しただけ。すぐに再生が始まる。ヒュカリスが言う。



「まあ、反撃もこのくらいかな。ナナちゃん、そろそろ()()でやっちゃっていいよ」


「ギュゴオオオオオ!!!!!」


 ヒュカリスの言葉に頭を上げて咆哮して答えるサンドワーム。砂上をドスドスと動き、倒れて動けない騎士団や冒険者を次々と丸飲みにしていく。


「ぎゃあああああ!!!」



「や、やめろ……」


 既に魔力切れとなり、両膝を地面に着くミスランドが小声で言う。

 強かった。やはり魔王案件は桁違いの相手に遭遇する。撤退か。作戦失敗にはなるが全滅するよりずっといい。

 そんなことを考え始めたミスランドの目に、そのピンク髪の少女の姿が映る。



「うおおおおおおおおおお!!!!!」


 青き剣を持ち、高速で巨大サンドワームへと単騎突撃する女の子。


「な、何をやっている……」


 誰も勝てない巨大な魔物。そんなの相手に下級冒険者が太刀打ちできるはずがない。



 ザン、ザザザザン!!!!


「ギュゴオオオオオオオオ!!!!」


 だが皆がその目を疑った。ココロの攻撃によってサンドワームの堅い肌が次々と切り裂かれていく。副騎士団長ミスランドですら弾かれた装甲の肌。なぜあの少女が? 皆が黙ってその動きを見つめる。



 ドン!!!!


「きゃあ!!」


 サンドワームの反撃。ココロが吹き飛ばされ、倒れる。だがすぐに立ち上がって再び立ち向かう。



「負けない!! 絶対にっ!!!」



「ココロ……」


 サヤカやキャロル、そして皆がその勇敢な背中に心打たれた。その姿こそまさに勇者。皆の心が折れてしまった時に前に立ち、導く存在。何度倒れようが立ち上がる不屈の精神。その姿はもう勇者であった。



(いやいや、まずいまずい! 勝手に勇者になるなよ!!)


 ずっと黙って見ていた俺はその良くない展開に顔を歪める。全滅もまずいが、ココロの勇者発現も避けたい。う~ん、かと言って今の自分には何の力もない。俺は腕組みをしてじっと考える。




「これはちょっとまずいかも。ナナちゃん……」


 魔王ヒュカリスが初めて弱気な言葉を口にした。想定外の冒険者の反撃。それも少女。あのサンドワームが押されるなど思ってもみなかった。


「ギュゴォオオオオオ……」


 仲間が倒れ、死に、誰も敵わなかった巨大な悪魔。その存在にたったひとり剣を向け立ち向かっていく。



「すごい、ココロ……」

「サンドワームが弱っている……」


 青いオーラを放ち青き剣を振る。全身傷だらけ。本来ならもう立ち上がることもできないほどの怪我。ヒュカリスが真剣な顔で言う。



「……まさか、勇者?」



「はあああああああ!!!!!」



 ザアアアアアアアアアン!!!!



「ギュゴオオオオオオオオ……」



 ドオオン……


 ココロ会心の一撃。ズタズタに切り裂かれた巨大サンドワームが、断末魔の叫びと共に倒れていく。ココロが砂の上に座り込み、小声で言う。



「勝った。勝てた……」


 もう腕も上がらない。女魔王も残っている。それでも初めて自力で倒した巨大な敵を見てココロに笑みが浮かぶ。ヒュカリスがやや不満そうな顔で言う。



「ナナちゃん、死んじゃった……、信じられない」


 強さだけなら魔王クラスを誇る。そのサンドワームがたった一人の少女に負けた。隣にいたガンダスが震えながら言う。


「な、なんだ、あの小娘は……」


「もしかしたら勇者かもね。さて、それより……」


 ヒュカリスはよろよろと立ち上がったココロを見て言う。まだ戦うつもり。中途半端な攻撃ではあの少女は抑えられない。

 ヒュカリスが緑髪をかき上げ、右指をぱちんと鳴らしてから言う。



「仕方ないわね。さあ、おいで。ネネちゃん、ミラちゃん、ルリちゃん、その他み~んな!」


 ドドドドドドォ……


 ヒュカリスの呼びかけと同時に揺れ始める砂の大地。そして()()()は現れた。


「ギュゴオオオオオオオオ!!!」

「シュゴオオオオオォ!!」

「クオオオオオオン!!!!!



「う、うそ……」


 ココロを絶望が襲う。折角倒した巨大サンドワーム。それと全く同じ個体が次々と砂中から現れた。有り得ない光景に皆が固まり、そして動けなくなった。

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