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8 時空VS 時空

バンナは錬成杖を構える。

「何度も同じ事を言わすな。

その手の攻撃は(わらわ)には効かぬ。」

ジェシカはつまらなそうに言う。

バンナは黙って錬成弾を放つ。

錬成弾はジェシカに当たる直前に掻き消え、バンナの目の前に現れそのままバンナに命中する。

「うぉ。」

バンナの体が紫色の光に包まれる。

「バンナ!」

「バ、バンナ、」

「バンナー」

ファラ、そして、意識を取り戻したパジャ、カナレが同時に叫ぶ。

「だから、言わぬ事ではない。

(ぬし)はもっと賢いと思ったが期待外れかのぅ。」

ジェシカは失望の溜め息をつく。

バンナを包む光は更に強さを増し、蠢く。

まるで紫色の炎がバンナを焼き付くそうとするかのようだった。

ジェシカはバンナへの興味を完全に無くす。

「さても、さても。

では、残りも片付けようとするかの。」

ジェシカはファラ、そして、まだ、立ち上がる事も出来ないパジャ、カナレへ目を向ける。

魔導装陣も解け、体内魔素も底をついた状態では三人に抗う術は残されていなかった。

「順番としてはまずは、お主であろうなぁ。

ファラ。覚悟せよ。」

ジェシカはファラの方へ目を向ける。

時空弾を放とうと手を上げる。

そのジェシカの脇腹に光弾が命中する。

「ぐぅ。」

ジェシカの顔が苦痛と驚愕に歪む。片膝をつきつつ、攻撃の来た方向を見る。

そこには黒みを帯びた紫色の甲冑を纏ったバンナがたっていた。

「これが隠し玉だよ。

あんたは絶対、錬成弾を弾き返すと思っていた。」

その意味を理解しはっとなるジェシカ。

「妾が主に錬成弾を返すと見越して魔素増強弾(ブースト)を撃ち込んだと言うのか?」

「正解。

魔素増強弾の力を借りれば俺も魔導装陣を扱える。

だが、錬成弾は発動させるのにどうしても距離が必要なんだ。

だから、あんたの時空結界を使わせてもらった。」

「妾の力を利用して魔導装陣を装着した。

だから、勝てると言うのか?

わらわせるの。

そーれーがー、なんじゃというのだ!

魔導装陣など妾には効かぬわ。」

ジェシカは極限加速を発動させる。

世界が静止する。

ジェシカはゆっくりと硬直したバンナの前まで歩いていき、右手をバンナの額に当てる。

もう、お遊びは終わりだ。

ジェシカは加速を解いた瞬間に時空波を流し込んで瞬殺するつもりだった。

バンナが動きジェシカの手をつかむ。

手をバンナに掴まれジェシカは心底驚いた顔をする。

「なっ?!

お主、動けるのか。」

バンナは左手をジェシカの胸に当てると時空波を撃ち込む。

「ぐはぁ。」

胸を押さえてジェシカはよろめく。

「この魔素は、時空?!。」

「時空魔導装陣 蜃雷(しんらい)。」

「時空、・・・魔導、装陣・・・、じゃと?」

「俺の魔導属性は無。

無属性は他の全ての属性に変換可能。

つまり、時空系の魔導装陣を扱うことも可能と言うことだ。

さっき、攻撃をまともな食らった時におかしいとは思わなかったのか?

ご自慢の時空結界が役にたたなかったろ。

俺が時空転換に逆転換をかけた。

時空結界も、極限加速も蜃雷の前では役に立たないぞ。」

「ふ、ふざけるな。

ついさっき、時空魔導をかじった程度の小僧が時空魔導の真髄を極めた妾に勝てると思うな。」

ジェシカは両手を拡げる。

ジェシカの周辺に無数の光球が現れ、バンナに向かって放たれる。

バンナは転移してそれをよけるが光球もバンナの転移にあわせて転移してくる。

「なに?

時空弾を転移させれるのか。」

バンナは急いで時空結界を起動させる。

発動と同時に時空結界制御用の魔方陣が空間に投影されるが、突然、その魔方陣がオレンジ色に明滅する。

第三者の干渉を告げているのだ。

干渉者はジェシカしかいない。

急遽、防壁魔方陣を構築し干渉を排除しようとする。

しかし、あっさり防壁を抜かれる。

制御魔方陣がオレンジから赤に変化し消える。

と同時に時空結界が消滅する。

「うお。」

急速に迫る時空弾をバンナは慌てて転移する。

時空弾も転移でホーミングしてくる。

「くそ。」

転移と同時に水壁(ウォーターミスト)錬成弾を撃ち、時空弾を防ぐ。

正面上に投影されている別の制御魔方陣が黄色くなり、明滅を始める。

「今度はなんだ。」

バンナは慌てて確認をする。

それは、加速化の制御魔方陣だった。

(ヤバイ、ヤバイ。)

今度は加速化に干渉してきた。加速化がダウンしたら自分に勝ち目は無くなる。だが、さっきの様子を見ると防壁魔方陣が役に立つとは思えない。

(ならば、攻めるしかないか。)

バンナは、ジェシカの加速化にアタックを始める。

時空魔導師同士の戦いがどのようなものになるかは事前にアリシアからレクチャーは受けていた。

それによると互いの魔法への干渉合戦になると言われたが、言われた通りだった。

干渉合戦では相手のどの制御魔方陣をダウンさせるかがキーになる、らしい。

先程、時空魔法をかじった程度の小僧と揶揄されたが、まさにその通りだった。

(くそ、固いな。)

ジェシカの加速化魔方陣へのアタックは遅々として進まない。

ようやく25%位だが、こっちの魔方陣は既に赤くになっている。

どう考えても間に合わない。

バンナは錬成杖を構える。ジェシカがその動作に気付き身構えるが、バンナは空に向かって撃つ。

「?」

意味が分からず一瞬、反応が遅れたジェシカの足元に転移してきた錬成弾が着弾する。錬成弾を直接撃ち込んでも防がれるのが落ちなので、わざと明後日な方向に撃ち込み、ジェシカの虚をついたのだ。

ジェシカの足元の地面に紫色の文字が浮かび上がる。

遅延魔方陣(ディレーサークル)!」

ジェシカの加速化が1レベル落ちる。その隙をついてバンナはジェシカの加速化への干渉を急ぐ。

バンナとジェシカの加速化はほぼ同時にダウンした。

ジェシカのほうが数秒早かったが遅延魔方陣を解除する手間でほぼ相殺されたようだ。

不味いなとバンナは思う。今の攻防でジェシカと自分とでは干渉能力に天と地の開きがあることが明白になった。錬成弾の力でなんとか凌げた、という所だ。

時空結界も極限加速も無力だと大見得を切ったが、あれはかなり吹いた発言だった。

バンナはファラの位置を確認する。

ファラはカナレとパジャを助け、三人でこちらの戦いの行方を見守っている。


「二人とも大丈夫か?」

「ふーん。息する度に痛いよ。あたし、死んじゃうかも。」

「全身が痛いです。」

「取り合えず、生きているならいい。

後一発、大きいのを用意しておけとバンナが言っていた。」

「えー、まだやるの?

バンナが何とかしてくれないの?

あれ、魔導装陣だよね。時空魔導のなら互角じゃん。」

「無理でしょうね。いくら時空魔導装陣でもジェシカとバンナでは練度が違いすぎます。」

パジャはカナレの主張を冷静に否定する。

「同感だ。だから、最後の最後でわたし達の力がいる。」

「いつ、どうするのよ。」

「分からん。チャンスはバンナが作る。とにかく、私たちにできるのは力を溜めて、待つことだ。」

「わかりました。」

「うー。りよーかーい。」


バンナはジェシカの方へ目を向ける。

向こうも何もせずにじっとしていた。

仕掛けて来ないのは、罠を仕掛けおわっているからか、それとも慎重になっているだけなのか。

まあ、待ってもこちらが不利になるだけだなとバンナは割り切る。

(これが最後の隠し玉だ。タイミング間違えないでくれよ、ファラ。)

心の中で念じるとバンナは転移でジェシカの懐に飛び込む。

すんなりとジェシカの懐に転移できたことにバンナは驚く。

ほぼゼロ距離では時空結界も発動出来ない。

バンナはジェシカの腕をとる。

「ぐあ。」

取った右手に激痛が走る。

ジェシカは全身から時空波を発散させていたのだ。触れた途端に時空波が流し込まれる。

「死の抱擁じゃ。受けよ。」

ジェシカは微笑みながらバンナに抱きついてくる。

「ぐうああぁ。」

ジェシカが触れたところから痛みが走る。

「いいぜ。つきやってやる。」

バンナは苦痛に顔を歪ませながらガッチリとジェシカを掴む。

そして、自分も同じように時空波を発散させる。

痛みが弱まる。ジェシカとバンナの時空波が互いを打ち消しあっているからだ。だが、出力はジェシカのほうが若干強い。

「力比べのつもりか?主では勝てぬぞ。」

「あんたの魔素が無くなるまで粘れば此方の勝ちだ。」

「面白い。ならば、耐えて見せよ。」

「ぬぁ!!!」

ジェシカからの時空波が一気に上がり、バンナは絶叫する。

「ほーれ、どうじゃ。」

ジェシカは目を爛々と輝かせ時空波をバンナに流し込む。

苦痛に苛まれながら、バンナは秘かにジェシカの時空結界に干渉を開始する。

全身ではなく背中の一部の結界を無効化するのが目的だった。

慎重に、気付かれないように。

全身が焼けるような痛みに意識が朦朧となる。

後、少し。

もうちょっと。

できた!

「うがあぁ。」

最後の力を振り絞って、バンナはジェシカの背中をファラ達の方へ向け、ジェシカの時空結界を切断する。


バンナが一声吼え、ジェシカの背中を自分達の方へ向けるのを見て、ファラは確信する。

「今だ、ぶちこめ。」

「障壁貫通 石槍衾(いしやりぶすま)

パジャの手から黒光りする石の槍がジェシカの背中に打ち込まれる。

「な、に?」

不意の激痛にジェシカは後ろを見ようとするがバンナにガッチリと掴まれ身動きが取れない。

絶対吸水(アブソリュートドレイン)

ジェシカの無防備の背中にカナレが奥の手を発動させる。

全ての水分を強制的に吸いとるカナレの固有魔術だ。

「おおおぉ。」

体から水分が奪われ、ジェシカの顔が醜く皺だらけになり、力も失われていく。

「バンナ、よけろー!

爆竜炎(ドラコニックバースト)

叫ぶと同時にファラの両手から炎の塊が打ち出される。

「うぐあ。」

ジェシカは、一瞬で火だるまになる。


バンナは肩で息をしながら燃え上がるジェシカを見つめ続けた。





2017/07/16 初稿


次回、エピローグになります。

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