表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

7 時空VS 大地、水

(ぬし)らもおったのか。」

ジェシカはカナレとパジャの方に体を向け、少し戸惑ったように呟く。

「その姿は、」

カナレは半透明の水色、パジャは黒曜石を思わせる黒の鎧を身に纏っていた。

「バンナの錬成弾の助けがあれば、私たちも魔導装陣が使えるとは思いませんでしたか?」

「魔導装陣 凍牙(とうが)だよ」

と、カナレが悪戯ぽい笑みを浮かべながら言う。

「同じく、天山(てんざん)です。」

とパジャ。

「成る程、道理じゃな。」

ジェシカは面白くなさそうに答える。

「んじゃ、いくよー。」

カナレの足元の地面が凍りつく。氷はジェシカに向かって伸びる。

その氷の架け橋を使って、カナレはジェシカにスケートの要領で突進する。

ジェシカはカナレに対して時空弾幕(ワープスプレッド)を放つ。

『魔素を見る目』で見ると視界一面が紫色の気泡に覆われたが、カナレは構わず突っ込む。

カナレの正面に水色の幕が拡がる。

絶対水霧障壁(アブソリュートウォーターミスト)

無数の紫の気泡は水色のミストに触れると鋭い光を放ち消滅する。

カナレは時空弾幕を正面突破してジェシカに迫る。

「りゃ!」

カナレは右手をつき出す。と同時に右手から氷の槍が形成される。

寸前でジェシカは転移し、カナレの真後ろを取る。

手を伸ばしたその瞬間、カナレのボディーパーツから鋭い突起が伸び、ジェシカの手の甲を差し貫く。

ジェシカは慌てて手を引っ込める。

「ぬう。」

血濡れた自分の手を見て唸る。

「迂闊に触ろうとすると、刺さっちゃうよ。」

槍を持ったまま振り返る。

ジェシカは再び転移。取り合えず距離をおこうと考えたのか、少し離れた所に現れる。

微かな揺れと共に、正面の大地が隆起して自分と同じくらいの岩が現れる。さらに、左右、後ろからも大地を割り、岩が現れる。

四つの岩が空中に浮かび上がりジェシカの周囲をグルグル回り始める。

岩の一つが輪を離れジェシカに迫る。

ジェシカがその岩に軽く手を添えると岩は忽然と姿を消す。

間髪を空けず二つの岩が、そして、少しタイミングをずらして最後の岩もジェシカに襲いかかる。

だが、岩はジェシカに触れることなく消える。

ジェシカの足に、さっきより大きな震動が伝わってくる。すぐに周辺の地面を突き破り十を越える岩が空中に躍り上がる。

更にもう十ばかり。

都合、二十を超える岩がそれぞれジェシカを中心に複雑な軌道で動き回る。

動き回る岩の影からチラリチラリとパジャの姿が見え隠れしていた。

「全く、小賢しい事をやる。」

いまいましそうにジェシカは舌打ちをする。

岩が一斉にジェシカに襲いかかる。

極限加速。

全ての岩が静止する。

世界は再び凍りついた。

ジェシカはパジャの目の前に転移する。

触れんばかりに顔をパジャに近づけるがバジャは無反応だ。

ジェシカはパジャの頬を張り倒したい衝動に駆られたがぐっと堪える。

極限加速は強力な魔法だが万能ではない。

膨大な魔素消費量。そして、加速に反比例して加速しないものが重く、固くなる。

極限加速の世界では小石を持ち上げることもできず、水面も鉄のように固くなる。

加速中のジェシカがパジャを殴ってもジェシカの手が傷むだけでパジャは痛みを感じることはないだろう。

なので、ジェシカは時空弾をパジャの回りに念入りにばら蒔く。

先ほどファラを沈めた技だ。

加速を解除する。

「?!」

バジャは無数の時空弾に囲まれていることに気付く。

自律型防御システムが緊急起動するが全てを迎撃できる物量ではなかった。

無数の時空弾がパジャに着弾する。

ほくそ笑むジェシカ。

しかし、その表情は驚きに変わる。

パジャが微動だにせず立っているからだ。

さすがのジェシカも理由がわからなかった。

後方に気配を感じる。

カナレが猛烈な勢いで接近していた。

そして、正面にはパジャが次の攻撃を仕掛けようと狙っていた。


「起きろ、ファラ。」

バンナはファラを起こそうと頬をピタピタと叩く。

軽くうめき声を上げ、ファラは目を開ける。

「ああ、バンナ。」

「大丈夫か?」

「うーん、アチコチ痛い。」

顔をしかめながらファラは答える。

「だろうな、思いっきり時空弾を食らっていたからな。」

「あ、あの女はどうしてる?」

「今、カナレとパジャが相手をしてる。

いい感じで押し込んでいるが、まだ、どうなるか分からん。

かれこれ30分ほど戦っている。加速化も2回はやっている。

かなり魔素を消費させているはずだが、まだ、普通に戦っている。

「底が見えん女だな。」

「動けるか?」

「動くことはできるけど、魔素はもう残ってないかな。魔導装陣は出来ない。」

「後、一発位、中位の術ができればいい。」

ファラにはバンナの言った意味がよくわからなかった。

通常の術でジェシカを倒せるとは思えない。

ファラは言葉の補足をしてほしかったが、バンナからは次の言葉はなかった。

ファラを抱き起こしながら、バンナはカナレたちの方を見る。

今は拮抗、あるいはこっちが押しているように見えるが、そろそろなにかを仕掛けてくる頃合いだとバンナは予想していた。


主戦場では、高速移動でジェシカに近接攻撃を仕掛けようとするカナレと転移で逃げるジェシカ。

少し離れた位置からカナレを支援するパジャという攻防が長く続いていた。

ジェシカは逃げるだけで時空弾を撃つこともなくなっていた。

ジェシカ防戦一方にも見えたが、それは表面上の事だった。

ジェシカは逃げながら、空間履歴一覧(ヒストリー)でパジャが時空弾をしのいだ謎を解析していた。

ジェシカは自分の右上に投影している小さな魔方陣を再度、確認する。

その魔方陣にはさっき、パジャに時空弾が着弾する瞬間の空間記録が再現されていた。

再現画面をコマ送りにすると着弾の瞬間、パジャの肌が黒く変色しているのが分かる。彼女が纏っている魔導装陣と見分けがつかなくなるほど黒くなっていた。

元々、パジャの肌はやや黒いのだが、そこまで真っ黒ではない。

(石化じゃな。)

とジェシカは思う。着弾する瞬間に自分の体を石化させて時空弾に耐えているのだ。

タネが分かって終えば対応方法は思い付く。

残りはカナレの方だ。

時空弾幕(ワープスプレッド)は障壁で防がれる、障壁を抜けてもボディーパーツのトゲが待ち受けている。

一見、完璧に見えるが覚悟を決めてしまえばそれほどでもない。

大体の計画はできた。

後、仕込みとタイミングを見るだけだ。

そして、そのタイミングは何度目かの転位の後でやって来た。

ジェシカは、三度目の極限加速を発動させる。

自分だけの世界でジェシカはパジャの所に転移し、時空弾をばら蒔く。

そして、加速を解除する。

感覚超加速。

静止の世界からコマ送りの世界。

感覚加速。

世界はコマ送りからスローモーションの世界になる。

そこで加速解除を止め、仕込んでおいた魔方陣を発動させる。

「あ!」

バンナは思わず声を上げる。

パジャの周囲が紫色に染まったその瞬間、パジャ、カナレ、ジェシカのいるエリアの地面に複雑な文様が現れるのを認めたからだ。

遅延魔方陣(ディレーサークル)

「何時の間に・・・、点描法か?」

ジェシカは逃げてると思わせて周囲に魔方陣を設置していたのだ。

魔方陣の効果範囲の人間は感覚が遅くなる。

「うあぁぁ。」

間延びしたパジャの悲鳴が聞こえてくる。

遅延魔方陣のせいで石化が間に合わなかったのだ。

時空弾をまともに食らい、パジャはゆっくりと崩れ落ちていく。

ジェシカは倒れるパジャを満足げに確認すると、間を置かずカナレの背後に転移する。

カナレも魔方陣の効果範囲にいるので反応は鈍い。ジェシカのみが感覚加速のお陰で通常の動きが出来た。

ジェシカは左手を水霧障壁(ウォーターミスト)へ突き入れる。

パチパチとジェシカの左手の表面で青白い発光が起こる。

水霧障壁と時空結界が互いを相殺しているのだ。

左手が障壁を抜ける。カナレのボディーパーツの防御突起がジェシカの左手を刺し貫く。

ジェシカは痛みに顔をしかめながら、今度は右手を伸ばす。

「防御突起は品切れじゃ。

受けとれ。」

ジェシカはカナレの背中の心臓のある辺りに右手をそえると、直接、時空波を流し込む。

「ぎゃん。」

カナレは激しく体を痙攣させ弾け飛んだ。

ほんの一瞬の出来事だった。

バンナは呆然となる。

後にはジェシカだけが残っていた。

「ははは。

中々に楽しかった。」

血塗れの左手を見ながら、ジェシカは楽しそうに笑う。

そして、バンナの方へ目を向ける。

「さて、お次は何を見せてもらえるのかの?

なにも無ければ、主らを片付けて先を急ぐとするが、よいかえ?」


















2017/07/09 初稿


次話投稿は7月16日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ