届かぬ想い
しばらくすると、ひとりの女の子が近づいてきてこう言った。
「お姉ちゃん、日本人?」
樹里がうなづくと「よかった!」と言ってニッコリ微笑むと、樹里の隣にチョコンと座った。
「私、梨奈。よろしくね!」
梨奈は英語が堪能で、会話に問題はないが、グループでの活動に嫌気をさしているようだった。早くアナハイムの遊園地に行きたいとか、ショッピング・モールでお買い物がしたいなど、梨奈の話は延々と続いた。すると、ようやくキャンプ場へ戻る時間となり、インストラクターが子供たちを集めている。樹里も梨奈をみんなのところへ戻るように促すと、
「お姉ちゃん、またね」
と言って樹里の手をギュッと握り、そしてグループの輪の中に戻っていった。樹里はふぅ…とため息をついた。
広場に戻ると、すぐにランチタイム。そして食事を済ませると、インストラクターから、ライアンたちはバーベキューやキャンプファイヤーの準備を、ジェシカたちには枯れ枝を集めて欲しいと依頼があった。ジェシカやマットのガールフレンド・セシルが樹里にも声をかけ、一緒に林の中に入って行くことになった。
しかし、彼女たちはおしゃべりに夢中で、枯れ枝を集めることを、すっかり忘れているようだった。樹里は、彼女たちの話に耳を傾けながらも、足下の枝を集めていた。ひとしきり話が済むと、思い出したように枝を集め始めた…が、すぐにセシルが歩き回るのが面倒だと言い出して、今度は樹木の枝を折り始めた。
様子を見に来たマットが注意をすると、セシルは反対に怒って広場へと戻って行ってしまった。その後を、慌ててジェシカが追った。
「まったく…」
マットはセシルが投げ捨てた枝を拾い集めている。樹里は自分が集めた枝を足元に置くと、それを手伝った。すると「もう無理だ」と、マットはつぶやいた…。
準備が揃うと、すぐにパーティーが始まった。みんな笑顔で食事を楽しんでいるが、マットだけは不機嫌な様子。セシルは何食わぬ顔で、平然と食事をしていた。まるで、何事もなかったかのように。そしてライアンは、あいかわらず子供たちの世話を焼いていた―。
パーティーが終わると、初日のボランティアから解放されたライアンと樹里は、バンガローへと移動した。シャーロットとアレックが来られなかったので、部屋ではふたりきりになった。
「お疲れさま」
ライアンは冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出すと、樹里に渡した。樹里はそれを受け取り、フタを開けようとするが、うまくいかない。すると、ライアンは自分の缶ビールのフタを開けて、樹里に渡した。
「ありがとう…、その―」
樹里は、ライアンに労いの言葉をかけたかったが、うまく話せない。そんな樹里の気持ちを察してか、ライアンは笑顔で樹里の頭を、優しく撫でた。しかしその行為も、まるで "子ども扱い" されているように感じて、樹里はもどかしい気持ちでいっぱいになった。
樹里がシャワーを浴びてリビングに戻ると、ライアンはソファーでうたた寝をしていた。樹里が声をかけると、ライアンは目を覚まし、ぼんやりとしたまま樹里の頬に手を伸ばし…、慌てて首を振った。シャーロットと間違えたらしい。そして起き上がり、シャワーを浴びると「お先に―」と言って、ベットルームに消えた―。




